怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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57)現代版・隙間女

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 「隙間女(すきまおんな)」——。
 それは、昭和の頃から都市伝説として囁かれる存在だ。

 「夜、ふと気がつくと、タンスの隙間やドアの隙間から“誰か”が覗いている」
 「一度目が合ったら、徐々に隙間が広がっていく」
 「そして、ある夜、その隙間から“誰か”が入ってくる」

 昔は古い家でよく目撃されたが、最近ではアパートやマンションでも現れるという。

 これは、ある女性が実際に体験した話である。

***********************************

 Eさん(28歳・女性)は、都内のワンルームマンションに住んでいた。

 仕事が忙しく、帰宅はいつも深夜だった。

 その日も、疲れ果てて部屋に帰り、シャワーを浴びてベッドに倒れ込んだ。

 「……なんか、視線を感じる」

 うっすら目を開けると、部屋の端にあるクローゼットの扉が、少し開いているのに気づいた。

 確かに閉めたはずだった。

 「……気のせいか」

 疲れすぎていて、そのまま眠りについた。

 しかし——

 その夜、Eさんは悪夢を見た。

 夢の中で、誰かがクローゼットの隙間から、じっとこちらを見ていた。

「隙間、広がってる?」
 翌朝、Eさんはなんとなく気になり、クローゼットをしっかり閉めた。

 「これで大丈夫」

 しかし、その夜——

 また、クローゼットの扉が開いていた。

 しかも、昨夜より少し広がっている。

 「風かな?」

 Eさんは気味悪くなりながらも、深く考えずに寝ることにした。

 しかし、その夜も悪夢を見た。

 夢の中で、クローゼットの隙間がさらに広がり——

 そこから、誰かがこちらを覗いていた。

 「やっぱりおかしい……」

 Eさんは、スマホで防犯カメラアプリを開いた。

 以前、部屋に簡易監視カメラを設置していたのを思い出したのだ。

 録画データを再生してみると——

 午前3時ちょうどに、クローゼットの扉がゆっくりと開いていた。

 誰も触れていないのに。

 Eさんの心臓は、冷たくなった。

 「風じゃない……」

 そして、映像の最後。

 クローゼットの隙間から——

 白い指が、ゆっくりと伸びていた。

 「この部屋、おかしい……」

 Eさんは、急いで友人の家へ避難することにした。

 荷物をまとめ、クローゼットの前を通ったとき——

 何かが、こちらを見ていた。

 「……っ!」

 黒髪の女が、隙間からじっとこちらを覗いていた。

 白い顔、虚ろな目。

 そして、ゆっくりと、隙間が広がっていく。

 Eさんは、叫びながら部屋を飛び出した。

 翌日、Eさんは大家に「部屋を解約したい」と伝えた。

 大家は、困ったような顔をした。

 「……やっぱり、出ますか?」

 「やっぱりって、どういうことですか!?」

 大家はしぶしぶ、こう話した。

 「実は、この部屋の前の住人も、同じことを言っていたんですよ」

 「クローゼットの隙間から、女が覗いているって……」

 「それで、引っ越したんですか?」

 「……いいえ。ある日、部屋で姿を消しました」

 「……え?」

 「部屋の鍵も、財布も、全部置いたまま……」

 「警察が捜索したけど、どこにもいなかったんです」

「ここにいるよ」
 Eさんは、震えながらも部屋に戻り、引っ越し準備を急いだ。

 最後に、スマホでクローゼットを撮影し、記録として残しておくことにした。

 数日後、ふとその写真を見返した。

 そこには、クローゼットの隙間から覗く女の顔が、はっきりと映っていた。

 そして、写真の隅に——

 「ここにいるよ」

 という文字が浮かび上がっていた。

***********************************

 もし、あなたの部屋のクローゼットや家具の隙間がいつもより広がっていたら——

 決して、覗いてはいけない。

 そして、もし——

 **「ここにいるよ」**という声が聞こえたら。

 その瞬間、あなたは——

 もう二度と、この世界には戻れなくなる。
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