怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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93)深夜のドライブスルー

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1
 これは、数年前に実際に体験した話だ。

 その日、俺は仕事で帰りが遅くなり、深夜2時過ぎに家へ向かって車を走らせていた。夜道は閑散としており、すれ違う車もほとんどない。疲れが溜まっていたせいか、腹が減って仕方なかった。

 そんなとき、目に入ったのが24時間営業のハンバーガー店のドライブスルーだった。

「ちょうどいい……」

 そう思い、俺は車を駐め、スピーカーの前で注文を告げた。

「すみません、チーズバーガーセットを一つお願いします」

 数秒の沈黙の後、無機質な女性の声が返ってきた。

「……かしこまりました。お車をお進めください」

 声に違和感はなかった。だが、何かが妙に引っかかる。眠気のせいだろうか。俺はゆっくり車を前に進め、窓口へ向かった。

2
 窓口には誰もいなかった。

 厨房の奥は薄暗く、店員の姿は見えない。それどころか、電気もほとんど消えている。

(……ん? 営業してるよな?)

 さっきの声は確かに聞こえた。それに、店の看板も点いている。なのに、人の気配がしない。

 俺は窓越しに顔を覗かせ、「すみません」と声をかけた。

 すると――

 ガタンッ!

 奥の厨房から音がした。驚いて目を凝らすと、暗闇の中に何かが立っている。

 人影だった。店員の制服を着ているように見える。だが、こちらに顔を向けず、じっと動かない。

 「……すみません?」

 再び呼びかけると、影はゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。

 だが、何かがおかしい。

 その歩き方が、異常にぎこちないのだ。関節が外れたように、不自然な動きで足を引きずっている。

(……ヤバい)

 俺の本能が警鐘を鳴らした。

 これは「普通じゃない」。

 反射的にギアをバックに入れ、急いで車を下がらせた。その瞬間、スピーカーから例の女性の声が響いた。

 「……お待ちください……ご注文の商品を……お渡しします……」

 俺はゾッとした。

 さっきと声が違う。抑揚がなく、まるで壊れたスピーカーから流れるような、機械的な音だった。

 俺はアクセルを踏み込み、その場を離れた。

3
 数キロ先のコンビニに駆け込み、震える手でホットコーヒーを買った。落ち着こうとしても心臓がバクバクしている。

 (なんだったんだ、あれは……?)

 とにかく、あの店の様子がおかしかったのは間違いない。

 俺はスマホを取り出し、「○○市 ドライブスルー 24時間」と検索した。

 すると、ある記事がヒットした。

 そこには、こう書かれていた。

 「深夜のドライブスルーで起きた事故」

 数年前、その店では深夜シフトの女性店員が、強盗に襲われ殺害されたというのだ。

 強盗は彼女を刺し、そのまま厨房に放置して逃走。翌朝、出勤した店長が彼女の遺体を発見した。

 それ以来、深夜の時間帯に「誰もいないはずの店で注文が通る」という怪現象が頻発するようになったらしい。

 背筋が凍った。

 俺が聞いたあの無機質な声は……まさか……。

4
 後日、友人にこの話をした。

 すると、彼は思い出したように言った。

 「それさ……前にも似た話を聞いたことがある。深夜にそのドライブスルーで注文すると、店員がいないのに食べ物が出てくるって話だよ」

 「食べ物が?」

 「でも、それを食べると……数日以内に事故に遭うって噂があるんだ」

 冗談じゃない。

 あのまま待っていたら、俺は何を渡されていたんだろう?

 ――注文したチーズバーガーセットか?

 それとも……もっと別の何かか。

 俺はそれ以来、深夜のドライブスルーを利用しなくなった。

 ……いや、今でも、あの店の前を通るのさえ、避けている。
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