怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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121)『あなたの検索履歴、覗きました』

それは、最初に「死に方」を検索した夜からだった。

 鬱屈した気持ちだった。
 人間関係、仕事、未来。全部が霧のようにぼやけて、なんの意味もないように感じた。

 「苦しくない死に方」
 「自殺 方法 楽」
 「睡眠薬 効果 時間」

 そういう言葉を、酔った勢いでスマホに打ち込んだ。

 もちろん、本気で死ぬつもりはなかった。

 ただ、その時だけ“世界の音を消したかった”だけだ。

 次の日、スマホの予測変換に奇妙な言葉が現れた。

 「あなたの最期」

 え? と首をかしげる。そんな言葉、打った覚えがない。

 さらに検索候補にはこう並んでいた。

 ・「〇〇(自分のフルネーム) 死亡日時」
 ・「〇〇 首吊り 現場」
 ・「〇〇 遺書 書き方」

 酔って何か打ったのかとも思ったが、検索履歴を見返しても、そんな単語はどこにもなかった。

 気味が悪い。
 でも、不思議とそのままにした。

 翌日、寝る前に「〇〇(自分の名前) 死亡日時」で検索してみた。

 ヒットするはずもない。ふざけた都市伝説か、デマサイトばかりだろうと思っていた。

 だが、ひとつだけ、異様なURLのブログ記事が表示された。

 > 【記録No.0547:〇〇(自分の名前)】

 クリックすると、簡素な黒背景のページにこう書かれていた。

 > 対象:〇〇〇〇(26歳・男)
 > 状態:まだ未確定
 > 候補:
 > ①入浴中に意識を失う
 > ②高速道路で意識を飛ばす
 > ③睡眠中に窒息(自発)

 ……なんだこれ。

 悪質なイタズラか。名前の情報がどこかで流出したのか。

 しかし、ページの最下部にはこう書かれていた。

 > 「本記録は、検索者本人による初回アクセスにより生成されます」

 日を追うごとに、そのページは**“更新されていった”。**

 次に見たときには、「状態:未確定」が「状態:観察中」に変わっていた。

 候補の死に方も、「④電車内での過呼吸による発作」「⑤首吊り 未遂からの合併症」などが増えていた。

 すべて、最近の俺の行動とリンクしていた。

 電車で息が苦しくなった日、風呂で足を滑らせた夜、
 “ただの偶然”が、すべて候補として記録されていく。

 ――俺は、“見られている”。

 ある夜、画面に変化があった。

 > 現在の死因予測精度:92.7%

 そこに現れた一文が、背筋を凍らせた。

 > 「明日、“あなた自身”が検索するキーワード:『遺書 書き方 テンプレ』」

 そんなもの、検索するつもりはない。

 だが次の日、気づいたら――本当に打っていた。

 「いしょ かきかた」と。

 なにか、おかしい。

 俺の行動は、すでに“履歴”になっている。

 未来を予測されているのではない。
 **“先に記録された履歴に、自分が従って動いている”**のだ。

 まるで、俺の思考そのものが、検索履歴に操られている。

 逆だ。俺が検索しているんじゃない。
 検索履歴が、俺を動かしている。

 ある晩、眠る前に通知が届いた。

 > 【新しい記録が登録されました】
 > 【対象:No.0547】
 > 【状態:確定】
 > 【死因:自宅での転落による頭部外傷】
 > 【日時:明日 午前3時22分】

 ふざけんな。そんなこと、絶対に起きるか。

 部屋を片付け、ベランダに出るのもやめた。
 危険なことは何もしない。

 念には念を入れて、ベッドの四隅にクッションを置き、頭にも枕を重ねて寝た。

 午前3時22分。

 目が覚めると、体が勝手に動いていた。

 意識がぼんやりと浮かび、視界がぐにゃりと歪んでいる。

 手には、スマホ。

 検索欄にはこう打ち込まれていた。

 > 「死後 意識 続く 何秒」

 指が、勝手にタップする。

 検索ボタンを押した瞬間、後頭部に激しい衝撃が走った。

 数秒間の暗闇の中で、声が聞こえた。

 「あなたの検索履歴、覗かせてもらいました。
  次は、誰のを記録しようかな……」

◆エピローグ
 あなたのスマホ。

 検索欄の予測変換に、自分の名前が出てきたことはありませんか?

 それ、もしかしたらもう――
 **“あなたの履歴が覗かれてる”**のかもしれません。

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