怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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122)『だるまさんがころんだ、の後ろにいたのは』

小学校の放課後。
 校庭の端っこにある小さな遊具の横で、子どもたちが遊んでいた。

 「だーるーまーさーんーがーこーろーんーだ!」

 その声に合わせて、ぴたりと動きを止める子どもたち。

 走っていた足が止まり、誰かの笑い声がこだまする。

 だがその日の写真には――“いないはずの子ども”が写っていた。

 小学3年の担任をしていた私は、放課後に校庭の片付けをしていた。

 教室に戻ると、廊下で生徒のひとり、**柚葉(ゆずは)**が呼び止めた。

 「せんせー、あのね、今日“しおりちゃん”来てたよ!」

 しおり? そんな名前の子はいなかったはずだ。

 「その子、どこのクラスの子?」

 「ちがうよ。転校生でもないよ。“ずっといる”って言ってた」

 柚葉は無邪気に笑っていたが、私は背中に冷たいものを感じた。

 転校してきていない。出席簿にもいない。

 でも、「“ずっといる”って言ってた」と。

 職員室で、他の先生にも確認したが、そんな名前の子は登録されていないという。

 「誰かの空想上の友達じゃない?」

 そう結論づける同僚もいたが、私はどこか引っかかっていた。

 その日、子どもたちの遊んでいる様子を撮影したタブレットを確認してみた。

 だるまさんがころんだ。柚葉、紗季、陽翔、蒼真……そして――

 見知らぬ女の子が、画面の一番奥に写っていた。

 白いワンピース、前髪をまっすぐ切った長い黒髪。
 顔は、カメラのレンズをまっすぐ見ていた。

 次の日、また柚葉が言った。

 「しおりちゃん、かくれんぼしようって!」

 「どこで?」

 「おトイレの奥。2階の女子トイレの一番奥の個室!」

 そこは、今は誰も使っていない“封鎖されたトイレ”だった。

 配管の故障で、今月から立ち入り禁止になっていたはずだ。

 鍵も閉まっていた。

 だが、念のため見に行ってみた。

 女子トイレの前に、封鎖用のテープは破られていた。

 そして、個室の一番奥のドアが――開いていた。

 中には、何もいなかった。

 だが、便器の上に、子どもが書いたような紙が置かれていた。

 折り紙の裏に鉛筆でこう書かれていた。

 > 「また かくれんぼ しようね
 >  ゆずはちゃんは もうすぐ こっちだよ」

 震えが止まらなかった。

 その夜、校内の監視カメラの映像を確認した。

 17時32分、封鎖されていたはずの女子トイレの前に、柚葉が立っている。

 その隣には――手をつないだもう一人の女の子の姿。

 だが、不思議なことに、カメラの映像ではその子だけが“ノイズ”のようにぼやけていて、顔が映っていなかった。

 翌朝、柚葉は登校しなかった。

 保護者に連絡しても、電話がつながらない。

 そのまま、行方不明扱いになった。

 校内放送ではアナウンスされず、教師たちは不自然なほどに静かだった。

 職員室の空気が、濁っていた。

 私は、あの子の名前を検索した。

 > 「しおり 小学校 幽霊」
 > 「だるまさんがころんだ 死亡事故」
 > 「小学校 遊び 消える」

 そして、ひとつの記事にたどり着いた。

 10年前、この学校で起きた事件。

 校庭で“だるまさんがころんだ”をしていた少女が、突如いなくなった。

 最後尾にいた彼女の姿が、遊びの途中で忽然と消えたという。

 名前は――一ノ瀬しおり(いちのせ・しおり)。

 子どもたちが集まる遊びの輪に、“しおり”は時折戻ってくる。
 誰にも気づかれずに、まるで最初からいたかのように。
 そして、誰かと“仲良くなる”と――またひとり、いなくなる。

 今も、教室の後ろ、
 出席簿にはない席に、誰かが座っている。

 そして放課後、校庭の隅で子どもたちが声を上げる。

 「だーるーまーさーんーがーこーろーんーだ」

 その最後列に、“見覚えのない誰か”が、そっと並んでいる。

◆エピローグ
 集合写真を撮るとき、よく数が合わないときがある。

 「一人、多い」「あれ、こんな子いたっけ?」

 でも、写真に写ってる“あの子”――
 本当に、最初からいた子ですか?

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