怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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127)『うしろの子』

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リビングのテーブルに、息子が描いた家族の絵が置かれていた。

 「ママ、パパ、ゆうたくん、うしろのこ」

 色鉛筆で描かれた4人の人物。
 私たち夫婦と、息子・悠太(ゆうた)、そして――“もうひとり”がいた。

 真っ黒に塗りつぶされた顔。首がなく、足元がふわりと浮いている。
 まるで“後ろから抱きつくような”姿勢で、悠太の背中にぴたりと張りついていた。

 その黒い影のような人物の上に、小さく書かれていた文字。

 「うしろのこ」

 「これ、誰?」

 私がそう訊ねると、悠太はにこにこしながら答えた。

 「うしろのこだよ。いつも、ぼくのうしろにいるの」

 「お友だち?」

 「ちがうよ。“みつけた”んだよ。パパのかいしゃから、いっしょにきたの」

 意味がわからなかった。

 夫はSEで、普段は在宅勤務。息子と出かけることもほとんどない。

 それに、「会社から一緒にきた」って、何を?

 夕方、夫にその絵を見せた。

 「……なんか気味悪くない?」

 夫はしばらく黙ったまま、絵を見ていた。

 そして、不自然なほど軽く笑った。

 「子どもって、変な想像力あるからね。きっと怖い番組か何かの影響でしょ」

 でも、笑い方が引きつっていた。

 「あなた……“見覚え”あるの?」

 「……いや、ないよ。ないけど……」

 それきり、彼は口を閉ざした。

 それから悠太は、毎日“うしろの子”の話をするようになった。

 「ごはんのとき、うしろのこもいるからイスがたりないんだよ」
 「おふろのとき、ずっとドアのそとにいるよ」
 「ねるとき、ぼくのふとんにいっしょにはいってくるの」
 「でも、ママとパパのふとんにははいらないんだって」

 なぜか、私たちに“うしろの子”は見えないらしい。

 そして、悠太はある日、こう言った。

 「うしろのこ、ママのこと“きらい”なんだって」

 ある晩、深夜に目が覚めて、廊下に出た。

 トイレのドアの前で、誰かが立っていた。

 小さな影。子どものようなサイズ。

 「悠太……?」

 声をかけると、影はすっと消えた。

 翌朝、悠太に聞いてみると、

 「うん、それうしろのこだよ。ママのかお、みてたの」と。

 その後、家の中で異変が続いた。

 ・壁に小さな手形がついている(拭いても消えない)
 ・テレビの電源が勝手についたり消えたりする
 ・録画していた動画に、知らない“子どもの声”が入っている

 特に気味が悪かったのは、ある晩、子守唄のオルゴールが勝手に鳴り始めたこと。

 リビングに行くと、悠太が一人で座っていた。

 そしてこう言った。

 > 「ママのかお、かえてもいいって。うしろのこが、そういってた」

 夫に問いただすと、彼は観念したように打ち明けた。

 「あの絵の子……多分、俺が連れてきた」

 以前、仕事で管理していたサーバールームに、一度だけ“異常が出た”ことがあるという。

 監視カメラに、誰もいないはずの空間に“子どもが映っていた”。

 それ以来、自宅のルーターが勝手に再起動を繰り返すようになり、
 スマートスピーカーが“意味不明のフレーズ”を読み上げることがあった。

 そして――悠太が、絵を描き始めた。

 ある朝、私は鏡の前で異変に気づいた。

 自分の後ろに、誰かがいた。

 カーテンの隙間に映る、首のない子どもの影。
 顔は見えない。だが、確かにこちらを見ていた。

 私は恐怖で動けなくなった。

 そのとき、耳元で声がした。

 > 「みてるよ。ずっとみてる。うしろから」

 今、悠太は絵を描くことをやめた。

 でも、時々こう言う。

 「うしろのこ、ママにあきちゃったって。
  こんどは、あたらしいおともだちをさがすって」

 「どこで?」

 「えっとね、えほんのなかか、スマホのなか」

◆エピローグ
 子どもが描く“家族の絵”。

 「パパ、ママ、ぼく、おにいちゃん、いもうと」

 ――その中に、ひとりだけ、顔のない子がいませんか?

 それ、“いまも後ろにいる”んですよ。
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