怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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146)『地蔵坂の7つ目』

通学路の途中に、「地蔵坂」と呼ばれるゆるやかな坂道がある。
 道の片側には、苔むした六体の地蔵が並んでいて、
 春には花を供え、夏には子どもが水をかけて遊ぶ。

 昔から、「この坂には、必ず6体しか並ばない」と言い伝えられていた。

 地元では、それを「子どもたちの守り地蔵」と呼んでいた。
 実際、交通事故や怪我が少なく、「地蔵が見守ってるからだ」と言う人も多かった。

 だが――ある朝、
 その列に7体目の地蔵が並んでいた。

 私がそれに気づいたのは、雨上がりの月曜日のこと。

 通学途中、何の気なしに視線をやると、
 最後尾に、ひとつだけ新しい石像が加わっていた。

 やけに白い。表面が滑らかで、傷もない。
 表情は他の6体と違い、うっすらと笑っているように見えた。

 「……あれ、前からあったっけ?」

 と隣のクラスメイトに訊くと、彼女は首を傾げた。

 「6体じゃなかった? ほら、“地蔵坂の6人衆”ってさ」

 「だよね……?」

 不思議な違和感が、背中を撫でた。

 その日から、周囲に小さな異変が起き始めた。

 ・クラスの男子が、階段で転んで腕を折った
 ・向かいのアパートの子が、夜中に「誰かに見られてる」と泣き出した
 ・そして、翌日から坂の上の空き地に花が手向けられるようになった

 聞けば、1週間前に幼児が事故で亡くなったらしい。

 「そういえば、あの子、坂のすぐそばに住んでたよね」
 「地蔵に手、合わせてた子……」

 地元の人たちは、口を噤んだまま、
 ただ“7体目の地蔵”の前に、菓子や人形を供え始めた。

 それから数日。

 私は奇妙な夢を見るようになった。

 ぼんやりした風景の中、地蔵の列の前に立っている。

 風は吹かず、音もない。

 ただ、“最後尾の地蔵”だけが、ゆっくりと顔を上げて――
 私の名前を呼ぶのだ。

 > 「……おまえ、見たね」

 > 「わたしのこと、見つけたね」

 朝、目覚めると、
 部屋の窓の外――アパートの敷地の隅に、小さな石像が置かれていた。

 それは、“7体目”と同じ顔をしていた。

 目を閉じ、口元が笑い、首が少しだけ傾いている。

 私は怖くなり、家族に話そうとした。

 だが、誰もその像のことを見えていなかった。

 放課後、私は地元の古い寺に行き、住職に話を聞いた。

 住職はしばらく考えたあと、ゆっくりと口を開いた。

 「……坂の地蔵は、供養のために数を決めて並べられているんだよ」

 「6体というのは、“定められた数”。
  それ以上にすれば、入れなかった魂が混じる恐れがある」

 「それが“知られないまま”置かれると……
  その魂は、誰かの目を通して現世に縛りつく」

 「君、名前を呼ばれなかったかい?」

 その言葉に、私は震えた。

 「それはもう、“おまえが次の地蔵になれ”っていう呼びかけなんだよ」

 「間違って供えられた魂は、成仏できないまま、
  “自分の死を思い出させた目”に取り憑くんだ」

 その夜、夢の中で――
 7体目の地蔵が、私の後ろに立っていた。

 > 「わたし、知られていない」
 > 「わたし、忘れられた」
 > 「でも、おまえが、見たから」

 > 「かわりに、なって。」

 朝。

 坂を通ると、今度は地蔵が“8体”になっていた。

 しかも、最後尾の8体目の顔は、“私自身”だった。

 その口元が――微かに、笑った。

◆エピローグ
 数を定めて並ぶ地蔵には、意味があります。
 ひとつ多ければ、ひとつ“はみ出した魂”が混ざるから。

 それが、忘れられた子か、
 埋葬されなかった誰かか、
 それとも、これから忘れられる“あなた”自身か――

 地蔵の顔が笑ったとき、もう遅いのです。

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