21 / 79
第21話:倉庫の対面、動かしたのは君のため(3/4)
しおりを挟む
~赤いジャージが伝えたかったこと~
その夜も、体育倉庫は静かに沈んでいた。
風はない。月は淡く照らしている。だが、何かが“起きる”気配は、確かにそこにあった。
「……来る」
蓮の低い声。
倉庫の扉が、またゆっくりと開いた。
ギィィィィ……
そして、床をすべるように――
赤いジャージが、現れた。
まるで“誰か”がそのジャージを、コートへと送り出すように。
まるで“あの日の続き”を、もう一度だけ演じようとしているかのように。
「……待ってたんだ」
マコトが、ジャージの行く手を遮るように立つ。
ライトがひと筋、彼の背からジャージを照らす。
「君が出てくるの、ずっと待ってた」
倉庫の影――
そこに、小さな気配があった。
マコトは静かに言う。
「……中にいるんでしょ。もう、隠れなくていい」
しばらくの沈黙。
やがて、影の奥から現れたのは――
一人の女子生徒。
華奢な体格に、部活用のハーフパンツ。手には、引っ張るための細いナイロン糸。
それが、赤いジャージの袖に結ばれていた。
「……ごめんなさい。わたしが、やりました」
■名乗った少女の名前は
高田 りお。
1年生、女子バレー部。
小柄で、声は小さく、部内ではあまり目立たないタイプ。
だが、ジャージの持ち主――河合 美晴先輩のことを、彼女はこう呼んだ。
「わたしの……憧れだったんです。ずっと。
先輩みたいになりたくて、同じポジション練習してて……
でも、先輩が来なくなってから、部活の空気も、コートの音も、全部、変わってしまって」
■“動かした理由”
「最後に、先輩に“出てほしかった”んです。
試合前日のコートに、せめて……赤ジャージだけでも。
コーチには内緒で、鍵もこっそり借りて……
ジャージに糸つけて、床這わせて、
“そこにいるみたいに”動かしてました」
彼女の声は震えていた。
でも、嘘はひとつもなかった。
「……たぶん、バカですよね」
マコトは首を横に振った。
「いや……すごく、素敵なことをしたと思うよ」
■そして、本人は……
その翌日、意外なことが起きた。
生徒会室に、ひとりの訪問者が現れた。
「失礼します。あの……1年の高田さんの件で、話を聞いたと伺って」
現れたのは、松葉杖姿の女子生徒。
真っ直ぐな瞳で、制服の裾をきちんと揃えた彼女は――
「河合 美晴です」
彼女は知っていた。
自分がいない間、誰かが“何か”をしていたことを。
そして、昨日の夜、**“赤いジャージが歩いた”**という噂を聞いて。
「……それ、多分、りおだなって。
あの子、わたしのジャージ、いつも畳んでくれてたから」
美晴は、小さく笑った。
「……でも嬉しかったです。
“自分がいなくても、誰かがその場所に出してくれた”って。
“歩けない自分が、もう一度だけ、コートに立てた”みたいで」
マコトは、その言葉をそっと書記ファイルにメモした。
「心って、不思議だよな。
人が動かしたジャージに、ちゃんと魂が宿ったみたいに感じた」
「……いや、あれは完全に物理現象だったでしょ」と早紀が冷静に突っ込んだ。
「うん、知ってる。でも……気持ちの推理も、大事だろ?」
◆つづく◆
その夜も、体育倉庫は静かに沈んでいた。
風はない。月は淡く照らしている。だが、何かが“起きる”気配は、確かにそこにあった。
「……来る」
蓮の低い声。
倉庫の扉が、またゆっくりと開いた。
ギィィィィ……
そして、床をすべるように――
赤いジャージが、現れた。
まるで“誰か”がそのジャージを、コートへと送り出すように。
まるで“あの日の続き”を、もう一度だけ演じようとしているかのように。
「……待ってたんだ」
マコトが、ジャージの行く手を遮るように立つ。
ライトがひと筋、彼の背からジャージを照らす。
「君が出てくるの、ずっと待ってた」
倉庫の影――
そこに、小さな気配があった。
マコトは静かに言う。
「……中にいるんでしょ。もう、隠れなくていい」
しばらくの沈黙。
やがて、影の奥から現れたのは――
一人の女子生徒。
華奢な体格に、部活用のハーフパンツ。手には、引っ張るための細いナイロン糸。
それが、赤いジャージの袖に結ばれていた。
「……ごめんなさい。わたしが、やりました」
■名乗った少女の名前は
高田 りお。
1年生、女子バレー部。
小柄で、声は小さく、部内ではあまり目立たないタイプ。
だが、ジャージの持ち主――河合 美晴先輩のことを、彼女はこう呼んだ。
「わたしの……憧れだったんです。ずっと。
先輩みたいになりたくて、同じポジション練習してて……
でも、先輩が来なくなってから、部活の空気も、コートの音も、全部、変わってしまって」
■“動かした理由”
「最後に、先輩に“出てほしかった”んです。
試合前日のコートに、せめて……赤ジャージだけでも。
コーチには内緒で、鍵もこっそり借りて……
ジャージに糸つけて、床這わせて、
“そこにいるみたいに”動かしてました」
彼女の声は震えていた。
でも、嘘はひとつもなかった。
「……たぶん、バカですよね」
マコトは首を横に振った。
「いや……すごく、素敵なことをしたと思うよ」
■そして、本人は……
その翌日、意外なことが起きた。
生徒会室に、ひとりの訪問者が現れた。
「失礼します。あの……1年の高田さんの件で、話を聞いたと伺って」
現れたのは、松葉杖姿の女子生徒。
真っ直ぐな瞳で、制服の裾をきちんと揃えた彼女は――
「河合 美晴です」
彼女は知っていた。
自分がいない間、誰かが“何か”をしていたことを。
そして、昨日の夜、**“赤いジャージが歩いた”**という噂を聞いて。
「……それ、多分、りおだなって。
あの子、わたしのジャージ、いつも畳んでくれてたから」
美晴は、小さく笑った。
「……でも嬉しかったです。
“自分がいなくても、誰かがその場所に出してくれた”って。
“歩けない自分が、もう一度だけ、コートに立てた”みたいで」
マコトは、その言葉をそっと書記ファイルにメモした。
「心って、不思議だよな。
人が動かしたジャージに、ちゃんと魂が宿ったみたいに感じた」
「……いや、あれは完全に物理現象だったでしょ」と早紀が冷静に突っ込んだ。
「うん、知ってる。でも……気持ちの推理も、大事だろ?」
◆つづく◆
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話
そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん!
好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。
ほのぼのラブコメというか日常系小説
オチなどはなく、ただひたすらにまったりします
挿絵や文章にもAIを使用しております。
苦手な方はご注意ください。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる