名探偵マコトの事件簿3

naomikoryo

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第22話:歩いたジャージと、届いた想い(4/4)

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~心が繋いだコートの上で~
放課後の体育館。

窓から差し込む西日の中、バレーボールのネットが静かに張られていた。
床には整列された赤と白のライン――その一角、
静かに立つふたりの女子生徒がいた。

ひとりは、河合 美晴(かわい みはる)。
松葉杖を横に置き、軽くテーピングを巻いた脚で立っている。

そして、彼女の正面にいるのは――
小柄で、震える肩を抱えながら、まっすぐ目を逸らさずに立つ高田 りお。

「……あの。ごめんなさい」

その一言が、体育館の静寂を割った。

「本当は、勝手に鍵を持ち出したり、ジャージ使ったりしちゃいけないって……わかってたんです」

「でも、先輩がいないのが、どうしても、耐えられなくて……
 せめて、先輩のジャージだけでも“試合前のコート”に出ていてほしくて……」

りおは、俯いたまま涙をこらえていた。

「私、バカです。すみません……っ」

だが、美晴は一歩前に出て、静かに頭を下げた。

「ありがとう」

「えっ……?」

「私……ずっと、コートから離れて、“みんなに忘れられていく”のが一番怖かった。
 でも、りおがあんなふうに、“私を出してくれた”って知って――
 すごく、嬉しかった」

「せんぱい……」

「赤ジャージが歩いたなんて話、笑っちゃうけど……
 でも、あれはたぶん、“私の心”だったんだろうなって思う」

マコト、早紀、美穂、蓮、佐伯、詩織、綾小路。
生徒会探偵団の面々は、少し離れたスタンド席からその様子を静かに見守っていた。

「……あれが“答え合わせ”だな」
マコトがぽつりと呟く。

「今回は事件っていうより……心のバトンだったのかもね」
美穂が言う。

「形にはならないけど、ちゃんと届くものもあるんだな」
と佐伯がカメラを下ろす。

美晴がそっと、りおの手を取った。

「じゃあさ、今度、わたしの代わりにジャージ着て、コート立ってみる?」

「えっ……わたしが……ですか?」

「うん。
 わたしがまた戻れるようになるまで、そのジャージ、預けるよ」

りおの瞳に、驚きと光が宿る。

「……はいっ!」

■後日、生徒会ファイルに記録された内容(抜粋)
項目 内容
事件名 体育倉庫、午前0時の謎
発端 体育倉庫から“赤ジャージが動いた”との複数目撃証言
真相 女子バレー部1年・高田りおによる“代役演出”行動
動機 活動不能となった先輩・河合美晴への敬意と想いから
特記 鍵の管理不備は軽微、本人からの謝罪により不問/両者の和解・信頼にて終結

■生徒会コメント欄より
・ 副会長・早紀
赤いジャージが夜の体育館を歩く。そんなのウソみたいだけど、
ちゃんと理由があったなら、それは“優しい嘘”だったんだと思う。

・ 美穂(会計)
あの1年生、泣きながらでも先輩のこと話してるの、ほんと良かった。
想いって、声じゃなくて“行動”にも宿るんだね。

・ 佐伯(補佐)
“心で撮った一枚”ってのがあるとすれば、あのジャージが這ってきた夜のコマだな。
ブレてもぶれてなくても、残るもんがある。

・ 蓮(書記)
この事件は、文字よりも行動で綴られていた。
書き留めるのが難しいほど、静かな想いが交差した。

・ 綾小路(補佐)
舞台に立てない役者が、照明だけで呼ばれることがある。
あの夜のジャージも、きっと“照らされていた”。

・ 詩織(補佐)
鍵の管理以上に、“気持ちの行き先”を記録するのが本当に難しい。
今回は、それがうまく伝わって、本当によかった。

・ マコト(会長)
ジャージはしゃべらないし、歩かない。でも――
誰かの気持ちで“歩くことがある”って、俺は信じるよ。
それが探偵の仕事かどうかはともかく、俺たちにできることだったと思う!

●ファイル保存先
記録棚B-2「部活にまつわる事件」カテゴリへ保存

●タイトル(綾小路命名)
『その赤、あなたの代わりに走る』
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