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第31話:“詩の終わり”と、名指された少女(2/4)
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~鏡に映らなかった彼女の名前~
月曜日の朝。
冷たい風が吹き抜ける校舎の1階。
時計の針は午前7時38分を指していた。
佐伯はトイレ前の死角に小型カメラを仕込み、音声センサーと連動させて録画をスタート。
マコトと蓮は別の廊下から見張り、早紀と美穂は生徒の流れをさりげなく観察していた。
「……そろそろ来る頃だな」
「前回までの記録からすると、7時40分前後が濃厚だね」
蓮がノートをめくりながら言う。
そして、その時が来た。
トイレの扉がわずかに開き、女子生徒がひとり、音もなく入っていく。
髪は肩までのストレート。
目深にかぶったマスク、地味な制服の着こなし。
「……今の子、名簿にいたよ」
早紀が無線で伝えてくる。
「1年F組、篠原 琴音(しのはら ことね)」
5分後。
女子トイレの鏡には、また1枚、新たな詩の紙が貼られていた。
「思い出のなかに わたしがいない」
「あの日 だれも 見ていなかった」
「しのはら ことね」
一瞬、誰もが息を呑んだ。
「……名前、出た……!」
美穂が呟く。
「これって、“犯人の告白”なのか、“被害者の叫び”なのか……」
マコトは静かに鏡の詩を見つめて言った。
「どっちにしろ、これは“ただの詩”じゃなくなった。
これは、“存在の証明”だ」
■生徒会室、臨時会議
トイレの映像記録と、貼られた詩を確認したメンバーが集まり、状況を整理する。
「篠原 琴音。目立たない生徒だが、問題行動の記録はなし」
詩織が資料を読み上げる。
「部活所属なし。1学期は出席率高かったけど、2学期からは欠席・早退が増えてる」
蓮が続ける。
「じゃあ、“見えないトラブル”を抱えてる可能性が高い」
佐伯も頷いた。
「実際に、クラスの生徒に聞いてみたら、
“あー……あの子、2学期からずっと一人でいた気がする”って声がいくつか出てた」
と美穂。
■綾小路の解釈:「詩という告発」
「最後の詩で、ついに名前が出た。これはもう“表現”じゃなく、“暴露”だ」
綾小路は、並べた5枚の詩のコピーを前に語る。
1週目:鏡よ鏡、誰が消えた
2週目:声なき友に、呼ばれたり
3週目:花は咲けども、声はなし
4週目:夜の鏡に、誰かいた
5週目:思い出のなかに わたしがいない/しのはら ことね
「これは順番に、“誰かが忘れられていく過程”を描いている。
最後に自分の名前を出すことで、完全に主語が“私”になった。
つまり――これは**篠原琴音自身による“存在証明の詩”**だろう」
「……じゃあ、この一連の“怪文詩”は、SOSだったってこと?」
早紀がぽつりと呟いた。
「おそらくは、“だれかに見つけてほしかった”。
“名乗る前”の4週分が“観察者の声”になってたのは、
自分が“誰にも見られてなかった”という確信の裏返しだ」
マコトが言った。
■接触:篠原 琴音と対話へ
放課後。
マコトと早紀、美穂は篠原琴音に静かに声をかけた。
「篠原さん。君に……話を聞かせてもらえるかな?」
琴音はしばらく沈黙し、顔を上げた。
その目には、驚きも、怒りも、羞恥もない。
ただ、ほんのわずかに――
“諦め”の色がにじんでいた。
「……あれを見つけたの、あなたたちなんですね」
彼女の声は、すべてを悟っていた。
◆つづく◆
月曜日の朝。
冷たい風が吹き抜ける校舎の1階。
時計の針は午前7時38分を指していた。
佐伯はトイレ前の死角に小型カメラを仕込み、音声センサーと連動させて録画をスタート。
マコトと蓮は別の廊下から見張り、早紀と美穂は生徒の流れをさりげなく観察していた。
「……そろそろ来る頃だな」
「前回までの記録からすると、7時40分前後が濃厚だね」
蓮がノートをめくりながら言う。
そして、その時が来た。
トイレの扉がわずかに開き、女子生徒がひとり、音もなく入っていく。
髪は肩までのストレート。
目深にかぶったマスク、地味な制服の着こなし。
「……今の子、名簿にいたよ」
早紀が無線で伝えてくる。
「1年F組、篠原 琴音(しのはら ことね)」
5分後。
女子トイレの鏡には、また1枚、新たな詩の紙が貼られていた。
「思い出のなかに わたしがいない」
「あの日 だれも 見ていなかった」
「しのはら ことね」
一瞬、誰もが息を呑んだ。
「……名前、出た……!」
美穂が呟く。
「これって、“犯人の告白”なのか、“被害者の叫び”なのか……」
マコトは静かに鏡の詩を見つめて言った。
「どっちにしろ、これは“ただの詩”じゃなくなった。
これは、“存在の証明”だ」
■生徒会室、臨時会議
トイレの映像記録と、貼られた詩を確認したメンバーが集まり、状況を整理する。
「篠原 琴音。目立たない生徒だが、問題行動の記録はなし」
詩織が資料を読み上げる。
「部活所属なし。1学期は出席率高かったけど、2学期からは欠席・早退が増えてる」
蓮が続ける。
「じゃあ、“見えないトラブル”を抱えてる可能性が高い」
佐伯も頷いた。
「実際に、クラスの生徒に聞いてみたら、
“あー……あの子、2学期からずっと一人でいた気がする”って声がいくつか出てた」
と美穂。
■綾小路の解釈:「詩という告発」
「最後の詩で、ついに名前が出た。これはもう“表現”じゃなく、“暴露”だ」
綾小路は、並べた5枚の詩のコピーを前に語る。
1週目:鏡よ鏡、誰が消えた
2週目:声なき友に、呼ばれたり
3週目:花は咲けども、声はなし
4週目:夜の鏡に、誰かいた
5週目:思い出のなかに わたしがいない/しのはら ことね
「これは順番に、“誰かが忘れられていく過程”を描いている。
最後に自分の名前を出すことで、完全に主語が“私”になった。
つまり――これは**篠原琴音自身による“存在証明の詩”**だろう」
「……じゃあ、この一連の“怪文詩”は、SOSだったってこと?」
早紀がぽつりと呟いた。
「おそらくは、“だれかに見つけてほしかった”。
“名乗る前”の4週分が“観察者の声”になってたのは、
自分が“誰にも見られてなかった”という確信の裏返しだ」
マコトが言った。
■接触:篠原 琴音と対話へ
放課後。
マコトと早紀、美穂は篠原琴音に静かに声をかけた。
「篠原さん。君に……話を聞かせてもらえるかな?」
琴音はしばらく沈黙し、顔を上げた。
その目には、驚きも、怒りも、羞恥もない。
ただ、ほんのわずかに――
“諦め”の色がにじんでいた。
「……あれを見つけたの、あなたたちなんですね」
彼女の声は、すべてを悟っていた。
◆つづく◆
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