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第32話:鏡に映らなかった声(3/4)
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~私はそこにいた。でも、誰も見ていなかった~
放課後の図書室奥。
カーテン越しの夕陽が、色褪せた参考書を赤く染めていた。
その静かな一角で、篠原琴音はぽつりと語り始めた。
「……きっかけは、2学期の席替えでした」
「教室の隅。ロッカーの裏に近い場所。
みんなの視線から、ちょっとだけずれたその席に座った時――
“あ、私はこのまま消えるんだな”って、なんとなく思ったんです」
彼女の声は穏やかだった。けれど、どこか乾いていた。
「クラスの誰かと話す機会もなくなって、グループも抜けて。
“おはよう”を言う相手もいない朝が、続いて。
いつの間にか、私の存在が空気みたいになってたんです」
「でも、空気は誰かの役に立ってる。
私のは……ただの、**透明な“ノイズ”**だった」
マコトは、何も言わずに耳を傾けていた。
その沈黙が、琴音には安心だったのかもしれない。
「私は、“いじめられてた”わけじゃないんです。
でも、“見られてなかった”。
“見られてない”って、すごく――苦しいんです」
早紀の手が、机の下でそっと震えていた。
美穂は何も言えずに、唇を噛んでいた。
「最初は、ただ書いてみたんです。
“消えた人”の詩。
“誰か”が書いたように見せかけて、
“この学校にいる、透明な人間の存在”を、誰かに知ってほしくて」
「毎週書いて、そっと貼って、すぐに消えてもいいって思ってたけど……
誰かがスマホで撮って、話題になって……
“もしかして、届くかもしれない”って、期待しちゃったんです」
マコトは、静かに頷いた。
「……届いたよ」
琴音の目が、わずかに見開かれた。
「鏡に映らなかった声を、俺たちは聞いた。
“言葉”って、誰かにちゃんと届くんだよ。たとえ、それが詩の形でも」
「でも、私……卑怯でした。名前を最後まで出さずに、
誰かが“怖がって”話題にしてるのもわかってて、黙ってて……」
「それは違う」
今度は、早紀が声を出した。
「自分のことを“詩”でしか言えなかったって、それって本当に追い詰められてた証拠だよ。
怖がる方が勝手だし、
あんたはむしろ……ちゃんと“生きてる”って、訴えてたんだと思う」
琴音は、ぽろりと涙をこぼした。
■生徒会、動く
その日の夕方、生徒会メンバーは校内放送の枠を借りて、異例の声明を出すことになった。
放送スピーカーから流れる、マコトの落ち着いた声。
「ここ数週間、校内で話題になっていた“詩の貼り紙”について、生徒会としての見解をお伝えします。
あの詩は、ある生徒が“見えなくなりかけた自分”を伝えるために書いたものでした。
誰かを怖がらせたり、混乱させる目的ではありません。
けれど、その詩は、きっといろんな人に“届いた”と思います」
「もし、自分が“見られていない”と感じている人がいたら、
それは“あなたがいない”ってことじゃない。
ただ、“まだ誰にも見つけられてない”だけです。
だったら、生徒会は――その声を拾う目になりたい」
放送が終わった後、
1年F組の教室には、数名の生徒がそっと琴音に声をかけていた。
「……篠原さん、あの詩、君だったんだよね?」
「なんかさ……ちゃんと話したことなかったけど、ずっと気になってた」
「一緒に帰らない? たまにはさ」
琴音の目に、また涙が浮かんだ。
今度は、それが**“悲しみだけのものじゃない”**ことを、彼女はちゃんと知っていた。
◆つづく◆
放課後の図書室奥。
カーテン越しの夕陽が、色褪せた参考書を赤く染めていた。
その静かな一角で、篠原琴音はぽつりと語り始めた。
「……きっかけは、2学期の席替えでした」
「教室の隅。ロッカーの裏に近い場所。
みんなの視線から、ちょっとだけずれたその席に座った時――
“あ、私はこのまま消えるんだな”って、なんとなく思ったんです」
彼女の声は穏やかだった。けれど、どこか乾いていた。
「クラスの誰かと話す機会もなくなって、グループも抜けて。
“おはよう”を言う相手もいない朝が、続いて。
いつの間にか、私の存在が空気みたいになってたんです」
「でも、空気は誰かの役に立ってる。
私のは……ただの、**透明な“ノイズ”**だった」
マコトは、何も言わずに耳を傾けていた。
その沈黙が、琴音には安心だったのかもしれない。
「私は、“いじめられてた”わけじゃないんです。
でも、“見られてなかった”。
“見られてない”って、すごく――苦しいんです」
早紀の手が、机の下でそっと震えていた。
美穂は何も言えずに、唇を噛んでいた。
「最初は、ただ書いてみたんです。
“消えた人”の詩。
“誰か”が書いたように見せかけて、
“この学校にいる、透明な人間の存在”を、誰かに知ってほしくて」
「毎週書いて、そっと貼って、すぐに消えてもいいって思ってたけど……
誰かがスマホで撮って、話題になって……
“もしかして、届くかもしれない”って、期待しちゃったんです」
マコトは、静かに頷いた。
「……届いたよ」
琴音の目が、わずかに見開かれた。
「鏡に映らなかった声を、俺たちは聞いた。
“言葉”って、誰かにちゃんと届くんだよ。たとえ、それが詩の形でも」
「でも、私……卑怯でした。名前を最後まで出さずに、
誰かが“怖がって”話題にしてるのもわかってて、黙ってて……」
「それは違う」
今度は、早紀が声を出した。
「自分のことを“詩”でしか言えなかったって、それって本当に追い詰められてた証拠だよ。
怖がる方が勝手だし、
あんたはむしろ……ちゃんと“生きてる”って、訴えてたんだと思う」
琴音は、ぽろりと涙をこぼした。
■生徒会、動く
その日の夕方、生徒会メンバーは校内放送の枠を借りて、異例の声明を出すことになった。
放送スピーカーから流れる、マコトの落ち着いた声。
「ここ数週間、校内で話題になっていた“詩の貼り紙”について、生徒会としての見解をお伝えします。
あの詩は、ある生徒が“見えなくなりかけた自分”を伝えるために書いたものでした。
誰かを怖がらせたり、混乱させる目的ではありません。
けれど、その詩は、きっといろんな人に“届いた”と思います」
「もし、自分が“見られていない”と感じている人がいたら、
それは“あなたがいない”ってことじゃない。
ただ、“まだ誰にも見つけられてない”だけです。
だったら、生徒会は――その声を拾う目になりたい」
放送が終わった後、
1年F組の教室には、数名の生徒がそっと琴音に声をかけていた。
「……篠原さん、あの詩、君だったんだよね?」
「なんかさ……ちゃんと話したことなかったけど、ずっと気になってた」
「一緒に帰らない? たまにはさ」
琴音の目に、また涙が浮かんだ。
今度は、それが**“悲しみだけのものじゃない”**ことを、彼女はちゃんと知っていた。
◆つづく◆
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