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第1話『中学二年、変わる世界と変わらない俺』
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四月。桜の花びらが舞う登校路を、俺――青木真人は堂々たる歩幅で闊歩していた。
肩から提げた学生カバン。その中には、教科書とノートと……特製・探偵七つ道具セットがきっちり詰まっている。もちろん、今年も俺の名探偵ライフはフル稼働だ!
「ふふっ……事件の匂いがするぜ……!」
春の風に向かってそう呟いた瞬間、後ろから冷たい声が飛んできた。
「それ、毎年言ってるけど、事件起きたこと一回もないじゃない」
振り向けば、園田早紀。言わずと知れた俺の幼なじみで、今はクラスメートにして学級委員長。
ポニーテールを揺らしながら、制服のスカートをひるがえして、きっちりした足取りで追いついてくる。
「いやいや早紀くん。今年こそ、本物の事件が起きる……そんな気がしてならないんだ」
「その“気”はいつもどこから湧いてくるのよ……」
俺はニヤリと笑って、ポケットから虫眼鏡を取り出した。実際には全然使わないけど、こうやって出すと名探偵っぽい。
だが早紀は一瞬だけその虫眼鏡を見て、ハッと息をのむような顔をした。……ように見えた気がした。
「……って、それレンズ抜けてるじゃん! ただの輪っか!」
「ふ、風のいたずらだな……」
俺はそっとポケットにしまった。幸先が良くない。
第二中学校・二年A組の教室に入ると、新しいクラスの雰囲気に、どこか背筋が伸びる。
ざわざわと机に荷物を入れながら、クラスメートたちはどこか“中学生っぽく”なっていた。
髪を少しだけ明るくした子、ピアス穴開けた?って疑惑の男子、背がぐんと伸びた元チビ。
そんな中――俺は、去年と同じリュック、同じ髪型、そして……名探偵魂そのまま!
「おう、真人~、今年も探偵やるんか?」
と、声をかけてくれたのはクラスのムードメーカー、高橋ジュン。
俺は親指を立てて答える。
「当然だろ? 名探偵に進級制度はない!」
「いや、せめてバージョンアップはして?」
と、横から挟んできたのはまた早紀。
だが、なんだかんだでクラスの空気は悪くない。みんな、心のどこかで「こいつ、またやってるよ」って思いながらも、笑ってくれている。
たぶん……いや、きっと、俺のことを“ちょっと変だけど面白いヤツ”として受け入れてくれてるんだろう。
いいぞ、中二スタートダッシュは完璧だ。
そんな空気を破って、ドアがガラッと開いた。
「おっはようございますっ!」
明るい声とともに、入ってきたのは……まさかの天然感MAXの新担任、**増渕由美子先生(22)**だった。
ぴょこぴょことした足取り、肩までのくるんとした巻き髪、そして顔立ちはどう見ても……「先生」より「先輩」って感じ。
「今年から、二年A組を担当します、増渕です~! まだ先生一年生ですが、よろしくお願いしまっす☆」
クラス中がざわめく。男子の一部からは「かわいい~」「最高かよ」などの声も(小声で)。
真人はそのとき、ピンと来た。
――この先生、事件に巻き込まれるタイプだ。絶対。
「先生、何か困ったことがあったら、僕に言ってください! 名探偵ですから!」
勢いよく手を挙げた俺に、増渕先生はキラキラした目で笑った。
「えっ、探偵さん!? わ~楽しそう~! 先生も推理小説とか好きなんですぅ♡」
「俺はリアルで解決する派です!!」
「うわ~頼もしい! 探偵くん、よろしくね~!」
「あ、いや、名前は“真人”です……」
なんだこのノリ。俺、負けてる……?
横で早紀は眉間にしわを寄せていた。
「真人、あんたと同じ波長の大人、初めて見たかも……」
ホームルームが始まり、新しいクラスでの目標やルールを話し合う。
皆の発言は少し大人びていて、「進路」や「受験」なんて言葉も出始める。
「やばい、もう受験の話とか出んの?」「うちの塾、春期講習ヤバかったし~」
そんな中、俺は手帳に「怪しい事件メモ」を書き込んでいた。
・男子トイレの鍵が開かなくなる事件(未確認)
・体育館裏で誰かが泣いていたというウワサ
・増渕先生のバッグにくまのキーホルダー(謎)
全部、調査対象である。
「ねぇ真人、お願いだからせめて“くまのキーホルダー”は事件にしないで」
「いや、油断するな。あれは発信機かもしれん……」
「買い物帰りのスーパーで買ったって言ってたじゃん」
冷静なツッコミ。それが、相棒・早紀。
放課後。昇降口で靴を履き替えていると、早紀がふと真剣な顔になる。
「……でも、なんだかんだで今年も一緒のクラスで良かったよ」
「ん? なんだよいきなり~照れるじゃん!」
「別に照れてないし。だってあんた、放っておくと絶対問題起こすから」
「信頼されてるのか心配されてるのか分かんねーな!」
「両方よ」
二人で笑い合っていると、背後からふわっと声がした。
「ふふ、仲良しさんだ~。いいですね~青春って♡」
振り返ると、増渕先生がにこにこと手を振っていた。
「ところで、先生ね……実は最近、ちょっと変なことがあって~……」
「えっ、それって……!」
来たぞ来たぞ! 事件の匂い!!
俺はくるっと振り返って、叫んだ。
「早紀! ついに来たぞ、記念すべき“中二最初の事件”だ!!」
「……あんた、変わんないね」
「俺は名探偵だからな!」
そう言い切った瞬間、校庭の端から**“謎の黒い影”**が走り去るのが見えた。
「……あれは……不審者!? それとも……怪盗か!?」
「……校庭で部活の生徒がコケただけでしょ」
俺たちの中学二年が、いま、幕を開ける――!!
(つづく)
肩から提げた学生カバン。その中には、教科書とノートと……特製・探偵七つ道具セットがきっちり詰まっている。もちろん、今年も俺の名探偵ライフはフル稼働だ!
「ふふっ……事件の匂いがするぜ……!」
春の風に向かってそう呟いた瞬間、後ろから冷たい声が飛んできた。
「それ、毎年言ってるけど、事件起きたこと一回もないじゃない」
振り向けば、園田早紀。言わずと知れた俺の幼なじみで、今はクラスメートにして学級委員長。
ポニーテールを揺らしながら、制服のスカートをひるがえして、きっちりした足取りで追いついてくる。
「いやいや早紀くん。今年こそ、本物の事件が起きる……そんな気がしてならないんだ」
「その“気”はいつもどこから湧いてくるのよ……」
俺はニヤリと笑って、ポケットから虫眼鏡を取り出した。実際には全然使わないけど、こうやって出すと名探偵っぽい。
だが早紀は一瞬だけその虫眼鏡を見て、ハッと息をのむような顔をした。……ように見えた気がした。
「……って、それレンズ抜けてるじゃん! ただの輪っか!」
「ふ、風のいたずらだな……」
俺はそっとポケットにしまった。幸先が良くない。
第二中学校・二年A組の教室に入ると、新しいクラスの雰囲気に、どこか背筋が伸びる。
ざわざわと机に荷物を入れながら、クラスメートたちはどこか“中学生っぽく”なっていた。
髪を少しだけ明るくした子、ピアス穴開けた?って疑惑の男子、背がぐんと伸びた元チビ。
そんな中――俺は、去年と同じリュック、同じ髪型、そして……名探偵魂そのまま!
「おう、真人~、今年も探偵やるんか?」
と、声をかけてくれたのはクラスのムードメーカー、高橋ジュン。
俺は親指を立てて答える。
「当然だろ? 名探偵に進級制度はない!」
「いや、せめてバージョンアップはして?」
と、横から挟んできたのはまた早紀。
だが、なんだかんだでクラスの空気は悪くない。みんな、心のどこかで「こいつ、またやってるよ」って思いながらも、笑ってくれている。
たぶん……いや、きっと、俺のことを“ちょっと変だけど面白いヤツ”として受け入れてくれてるんだろう。
いいぞ、中二スタートダッシュは完璧だ。
そんな空気を破って、ドアがガラッと開いた。
「おっはようございますっ!」
明るい声とともに、入ってきたのは……まさかの天然感MAXの新担任、**増渕由美子先生(22)**だった。
ぴょこぴょことした足取り、肩までのくるんとした巻き髪、そして顔立ちはどう見ても……「先生」より「先輩」って感じ。
「今年から、二年A組を担当します、増渕です~! まだ先生一年生ですが、よろしくお願いしまっす☆」
クラス中がざわめく。男子の一部からは「かわいい~」「最高かよ」などの声も(小声で)。
真人はそのとき、ピンと来た。
――この先生、事件に巻き込まれるタイプだ。絶対。
「先生、何か困ったことがあったら、僕に言ってください! 名探偵ですから!」
勢いよく手を挙げた俺に、増渕先生はキラキラした目で笑った。
「えっ、探偵さん!? わ~楽しそう~! 先生も推理小説とか好きなんですぅ♡」
「俺はリアルで解決する派です!!」
「うわ~頼もしい! 探偵くん、よろしくね~!」
「あ、いや、名前は“真人”です……」
なんだこのノリ。俺、負けてる……?
横で早紀は眉間にしわを寄せていた。
「真人、あんたと同じ波長の大人、初めて見たかも……」
ホームルームが始まり、新しいクラスでの目標やルールを話し合う。
皆の発言は少し大人びていて、「進路」や「受験」なんて言葉も出始める。
「やばい、もう受験の話とか出んの?」「うちの塾、春期講習ヤバかったし~」
そんな中、俺は手帳に「怪しい事件メモ」を書き込んでいた。
・男子トイレの鍵が開かなくなる事件(未確認)
・体育館裏で誰かが泣いていたというウワサ
・増渕先生のバッグにくまのキーホルダー(謎)
全部、調査対象である。
「ねぇ真人、お願いだからせめて“くまのキーホルダー”は事件にしないで」
「いや、油断するな。あれは発信機かもしれん……」
「買い物帰りのスーパーで買ったって言ってたじゃん」
冷静なツッコミ。それが、相棒・早紀。
放課後。昇降口で靴を履き替えていると、早紀がふと真剣な顔になる。
「……でも、なんだかんだで今年も一緒のクラスで良かったよ」
「ん? なんだよいきなり~照れるじゃん!」
「別に照れてないし。だってあんた、放っておくと絶対問題起こすから」
「信頼されてるのか心配されてるのか分かんねーな!」
「両方よ」
二人で笑い合っていると、背後からふわっと声がした。
「ふふ、仲良しさんだ~。いいですね~青春って♡」
振り返ると、増渕先生がにこにこと手を振っていた。
「ところで、先生ね……実は最近、ちょっと変なことがあって~……」
「えっ、それって……!」
来たぞ来たぞ! 事件の匂い!!
俺はくるっと振り返って、叫んだ。
「早紀! ついに来たぞ、記念すべき“中二最初の事件”だ!!」
「……あんた、変わんないね」
「俺は名探偵だからな!」
そう言い切った瞬間、校庭の端から**“謎の黒い影”**が走り去るのが見えた。
「……あれは……不審者!? それとも……怪盗か!?」
「……校庭で部活の生徒がコケただけでしょ」
俺たちの中学二年が、いま、幕を開ける――!!
(つづく)
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