面白ミステリー『名探偵マコトの事件簿2』

naomikoryo

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第2話『靴箱に届いた謎の手紙』

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翌朝。
春の光が差し込む校門をくぐった瞬間、真人の“探偵アンテナ”がぴぴぴっと反応した――ような気がした。

「……何かが……起きる……!」

呟いた声に、隣を歩いていた早紀がすぐに反応した。

「やめて、そういうの、予言って言わないから。ただの思い込み」

「いや、これは確信だ! 俺の“名探偵センサー”がビンビンに――」

「ビンビン言うな」
登校早々、いつも通りのやりとり。だがこの日、真人の“センサー”は――本当に正しかった。

昇降口。いつものように靴を履き替えようとした早紀が、ふと動きを止めた。

「……ん?」

靴箱の中に、なにやら小さな紙の束が入っている。

「……チラシ? いや、違う……」

取り出して広げたそれは、小さな封筒に入った白いメモ用紙だった。中には、丁寧な手書きで一言だけ。

「これは事件の始まりだ」

「……は?」
早紀が目を丸くする。次の瞬間、すぐ横で耳元から声がした。

「きたぁあああああああああ!!!!!!」

真人の叫びに、周囲の生徒が振り返る。騒ぎに気づいた誰かが「何? 事件?」とヒソヒソ言い出す。

「おい早紀、それ! それはまぎれもない挑戦状だ!! ついに俺たちに、黒幕が牙をむいたぁあ!!」

「うるさい。しかも別に“俺たち”にじゃなくて、“私”宛てなんだけど」

早紀は手紙をひらひらと振りながら、呆れ顔を見せるが、真人の瞳はギラギラに光っていた。

「この紙質、一般的なメモ帳じゃないな……ちょっと高級感ある……インクはボールペン、筆圧強め、つまり書いた人物は――」

「やめて、紙質で犯人わかるの探偵ドラマだけだから」

「……おぉっ!? おい早紀、これ……右下、ほんの少し折れてる!」

「だからなに?」

「これは……“畳んでしまった後で一度開いてから、もう一度入れた”という痕跡だ!」

「いやだからそれがどうしたの」

ツッコミが追いつかない。すでに真人は調査モードに突入していた。

ホームルームの時間、早紀はそっと鞄に手紙をしまった。大ごとにするほどのものじゃない。
けれども、真人はというと、すでに隣の席でカリカリと「容疑者リスト」を作成中だった。

「よし、まずはクラス全員に筆跡調査だ。手紙書いて提出させよう」

「えっ、なにその監視国家みたいな発想。ダメに決まってるでしょ」

「じゃあ、全員の書き初めを集めるとか……」

「時期が違う」

そのとき、教室のドアが開いた。

「おっはようございま~す♪」

ふわっと現れたのはもちろん、我らが増渕先生。今日も元気、今日も天然。

「えっと~、先生、朝からちょっと寝ぐせが……へへへ、気にしないでくださいね~♡」

何人かが笑い、女子たちは「可愛い~」と盛り上がる。だが、真人はその瞬間、ビシッと立ち上がった。

「先生、ちょうどよかった!!」

「えっ、なになに? 事件!?」

「その通りです! 今朝、園田早紀の靴箱に――この手紙が!!」

バンッ!と机に紙を叩きつけた。クラスの空気が一瞬、静まる。

増渕先生は「わぁ……」と目を見開いて、その紙をのぞきこむ。

「これは……“事件の始まり”? え、えっ、なんかカッコいい! 先生、そういうの大好き~!」

「先生! 捜査にご協力をお願いします!」

「もちろんです! ……えっと、何すればいいですか?」

「では、生徒たち全員に筆跡チェック用のプリントを配りましょう!」

「えぇ!? なにその恐怖のアンケート!?」

早紀が慌てて止めに入る。

「ちょっと真人! 大事にしすぎ! ただのイタズラの可能性もあるし――」

「いや、違う。これはただのイタズラじゃない」

真人の目が、一瞬だけ真剣な色を帯びた。

「この文字……一見ふざけてるように見えるけど、丁寧でクセがない。でも“あえて平凡に”してる感じがする。つまり――」

「つまり?」

「“目立たないようにしてるけど、目立ちたい人間”の書いた手紙だ!」

「……なにその矛盾の塊」

「そういう心理トリックが一番怖いんだ……!」

放課後。手紙の話は、なんとなく噂になってクラスの中でひそひそと話されていた。

「え、なんか挑戦状届いたらしいよ?」

「誰かがラブレターと間違えて入れたとかじゃなく?」

「園田さんって、意外とモテるし……」

そんな中、真人は例によって調査ノートを片手に動き回っていた。

「ねえ、昨日の放課後、靴箱の周りにいたのって誰?」

「……うーん、俺は部活行ってたけど」

「なんか、誰か走ってたよなー? 校庭の方に」

聞き込みの結果、一つの共通点が浮かび上がる。

「昨日の放課後、校庭の隅で誰かが“なにか”を書いていた」という証言。

「……これは……容疑者、校庭のどこかにいた可能性アリだな」

真人がポツリと呟いたそのとき、後ろから早紀が声をかける。

「ねぇ真人。ちょっとだけ気になってることがあるの」

「お? 推理魂に火がついたか?」

「……この手紙、もしかして……“私宛て”じゃない可能性もあるんじゃない?」

「えっ」

「だって名前も何も書かれてない。ただ“靴箱に入ってた”だけ。それなら――」

「……誰か、間違えた?」

真人の顔がぐぐっと暗くなる。

「じゃあ……この一日、俺の暴走……無意味だった?」

「うん、まぁ……半分くらいはね」

「ぬああああああああああ!!」

廊下に真人の絶叫がこだました。

だが――
その日の夕方、昇降口の隅。
誰もいない靴箱の前に、もう一枚の手紙がひらりと置かれていた。

「次は“あの場所”で待っている」

真人の“探偵センサー”が、再びビンビンに反応し始める――!

(つづく)
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