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第3章:灰と炎の預言
第12話『神の声、再び』
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「――“本当に”神はいるのか?」
その問いが発せられたのは、町の酒場だった。
祝福の信任式から三日後。
街は一見穏やかに戻ったように見えたが、地下には小さな“火種”がくすぶっていた。
問いを投げたのは、元騎士であり、かつて教会に救いを求めて門前払いを受けたという男――バリオ・ランデン。
その隣には、同じように過去に“神に祈ったが救われなかった”という者たちが座っていた。
農夫、鍛冶職人、元兵士、身寄りのない女、片目を失った男。
彼らは一様に口をつぐみ、ただバリオの言葉を聞いていた。
「俺はな……膝をついて祈ったんだよ。
仲間の命を救ってくれって。
血まみれで、泥の中で、何度も何度も叫んだ。
でも、何も起きなかった。
神は、ただ“沈黙”していた」
杯を置く音が、重たく響く。
「……それでも、“あの娘”の祈りが聞こえるって言うのか?」
誰も返事をしなかった。
だがその夜、彼らの何人かは、教会の外壁に“赤い印”を残した。
――神の目を拒む者の印。
それは、かつて神殿を追われた者たちが用いた、異端の象徴だった。
—
「……これ、昨晩のことです」
報告を受けたマーヴィンは、教会の外壁に刻まれた印を指でなぞった。
赤褐色の塗料。
地元の樹皮から取れる汁で描かれており、雨では落ちない。
「これ、“印”じゃない。ただの警告だ。
“我々は見ている”っていう、無言の圧力」
「誰が……?」
セシリアは、不安げにその印を見上げる。
「この町の“祈れなかった者”たちだろうな。
神を信じたくても、見捨てられたと感じた連中」
「でも……わたし、そんな人たちこそ……」
「知ってる。君が一番、彼らに寄り添いたいと願ってるってことは。
……でも、彼らは今、寄り添う手を“拒んでる”。
信じるには痛みが多すぎて、“怒り”しか残ってないんだ」
セシリアは胸元のロザリオを強く握る。
「それでも、わたし……行きます。
彼らのところへ。
祈ってもいいと、もう一度伝えたい」
—
翌日、セシリアとマーヴィンは、町外れの酒場を訪れた。
バリオたちが集まっていたのは、廃れた倉庫の一角。
かつては騎士団の補給庫だったその場所は、今は陰気な空気に沈んでいた。
「……あんたが、“聖女”か」
バリオは、斜に構えながらセシリアを見下ろした。
その眼には侮蔑も、好奇心もなく、ただ冷たい“断絶”があった。
セシリアは、まっすぐに立って答える。
「はい。わたしは、セシリア・ミリエル。
この町で、祈りを捧げる者です」
「……祈りねぇ。
じゃあ聞かせてくれ。“祈って救えなかった者”は、どうすりゃいいんだ?」
「……わたしは、救えなかったことを、“なかったこと”にはできません。
でも、それでも、あなたが誰かを想って祈ったその心は、
きっとどこかに届いています」
「“届いてる”って、どこにだよ?
死んだ仲間は生き返らねぇ。
信じた神は黙ったまま。
俺たちの声は、何にもならなかった」
セシリアは一歩、彼に近づいた。
「だから、わたしが祈ります。
あなたの祈りを“誰かに届くもの”にするために。
……わたしは、“叶える”ことはできないかもしれない。
でも、“祈りを諦めなくていい”ってことだけは、伝えたいんです」
沈黙。
バリオの拳が震える。
「……嘘くさいんだよ」
「それでも、あなたが怒るってことは、
今でもどこかで、“神を信じたかった”んだと思います」
その瞬間、バリオの目に、わずかに光が揺れた。
「……泣かせるなよ、こんなところで」
「泣いても……いいんです」
マーヴィンは、それを傍で見守っていた。
その手の中には、いつでも切り出せる言葉が握られていたが、今はただ、沈黙の力を信じていた。
—
その夜。
教会の前に、静かにバリオの姿があった。
彼は、手に酒瓶を持ったまま、壁の“赤い印”をじっと見ていた。
そして、数秒後。
持っていた布で、ゆっくりとその印を拭いはじめた。
セシリアの祈りは、届いていた。
—
しかしその一方、町の東部。
廃坑に集まる一団がいた。
「“あの女の祈り”は、“ただの感情”だ」
「“神を拒まれた者たち”を、再び眠らせるには、もっと強い力がいる」
「――準備を始めろ。奴らに“本当の神の怒り”を見せる時が来た」
それは、かつて神殿を追放された者たち。
“偽祝福者”と呼ばれた魔術的信仰者の残党だった。
彼らは、セシリアの祈りに嫉妬し、憎み、そして――恐れていた。
その問いが発せられたのは、町の酒場だった。
祝福の信任式から三日後。
街は一見穏やかに戻ったように見えたが、地下には小さな“火種”がくすぶっていた。
問いを投げたのは、元騎士であり、かつて教会に救いを求めて門前払いを受けたという男――バリオ・ランデン。
その隣には、同じように過去に“神に祈ったが救われなかった”という者たちが座っていた。
農夫、鍛冶職人、元兵士、身寄りのない女、片目を失った男。
彼らは一様に口をつぐみ、ただバリオの言葉を聞いていた。
「俺はな……膝をついて祈ったんだよ。
仲間の命を救ってくれって。
血まみれで、泥の中で、何度も何度も叫んだ。
でも、何も起きなかった。
神は、ただ“沈黙”していた」
杯を置く音が、重たく響く。
「……それでも、“あの娘”の祈りが聞こえるって言うのか?」
誰も返事をしなかった。
だがその夜、彼らの何人かは、教会の外壁に“赤い印”を残した。
――神の目を拒む者の印。
それは、かつて神殿を追われた者たちが用いた、異端の象徴だった。
—
「……これ、昨晩のことです」
報告を受けたマーヴィンは、教会の外壁に刻まれた印を指でなぞった。
赤褐色の塗料。
地元の樹皮から取れる汁で描かれており、雨では落ちない。
「これ、“印”じゃない。ただの警告だ。
“我々は見ている”っていう、無言の圧力」
「誰が……?」
セシリアは、不安げにその印を見上げる。
「この町の“祈れなかった者”たちだろうな。
神を信じたくても、見捨てられたと感じた連中」
「でも……わたし、そんな人たちこそ……」
「知ってる。君が一番、彼らに寄り添いたいと願ってるってことは。
……でも、彼らは今、寄り添う手を“拒んでる”。
信じるには痛みが多すぎて、“怒り”しか残ってないんだ」
セシリアは胸元のロザリオを強く握る。
「それでも、わたし……行きます。
彼らのところへ。
祈ってもいいと、もう一度伝えたい」
—
翌日、セシリアとマーヴィンは、町外れの酒場を訪れた。
バリオたちが集まっていたのは、廃れた倉庫の一角。
かつては騎士団の補給庫だったその場所は、今は陰気な空気に沈んでいた。
「……あんたが、“聖女”か」
バリオは、斜に構えながらセシリアを見下ろした。
その眼には侮蔑も、好奇心もなく、ただ冷たい“断絶”があった。
セシリアは、まっすぐに立って答える。
「はい。わたしは、セシリア・ミリエル。
この町で、祈りを捧げる者です」
「……祈りねぇ。
じゃあ聞かせてくれ。“祈って救えなかった者”は、どうすりゃいいんだ?」
「……わたしは、救えなかったことを、“なかったこと”にはできません。
でも、それでも、あなたが誰かを想って祈ったその心は、
きっとどこかに届いています」
「“届いてる”って、どこにだよ?
死んだ仲間は生き返らねぇ。
信じた神は黙ったまま。
俺たちの声は、何にもならなかった」
セシリアは一歩、彼に近づいた。
「だから、わたしが祈ります。
あなたの祈りを“誰かに届くもの”にするために。
……わたしは、“叶える”ことはできないかもしれない。
でも、“祈りを諦めなくていい”ってことだけは、伝えたいんです」
沈黙。
バリオの拳が震える。
「……嘘くさいんだよ」
「それでも、あなたが怒るってことは、
今でもどこかで、“神を信じたかった”んだと思います」
その瞬間、バリオの目に、わずかに光が揺れた。
「……泣かせるなよ、こんなところで」
「泣いても……いいんです」
マーヴィンは、それを傍で見守っていた。
その手の中には、いつでも切り出せる言葉が握られていたが、今はただ、沈黙の力を信じていた。
—
その夜。
教会の前に、静かにバリオの姿があった。
彼は、手に酒瓶を持ったまま、壁の“赤い印”をじっと見ていた。
そして、数秒後。
持っていた布で、ゆっくりとその印を拭いはじめた。
セシリアの祈りは、届いていた。
—
しかしその一方、町の東部。
廃坑に集まる一団がいた。
「“あの女の祈り”は、“ただの感情”だ」
「“神を拒まれた者たち”を、再び眠らせるには、もっと強い力がいる」
「――準備を始めろ。奴らに“本当の神の怒り”を見せる時が来た」
それは、かつて神殿を追放された者たち。
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彼らは、セシリアの祈りに嫉妬し、憎み、そして――恐れていた。
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