引退詐欺師、異世界で聖女の相談役になる

naomikoryo

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第4章:偽りの祝福者たち

第6話『初陣』

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それは突然だった。

深夜、町の北側に位置する街路――
教会から数ブロック先の、住人も少ない静かな通りで。

そこに現れたのは、黒衣の一団。

彼らは言葉を発さず、しかし確かな“意志”を持って、
手にした短剣と、染められた十字の紋章を掲げて歩いていた。

その歩みは、どこか儀式めいて静かで、
見張りの自警団員が気づいた時には、もう目の前にまで迫っていた。

「な、なんだ……!? 止まれ、ここは聖域の指定区域だ!」

だが黒衣たちは止まらない。

むしろ――笑った。

その中の一人、若い男が言った。

「ここに“祈り”など存在しない。
あるのは、無視された願いの残骸だけだ」

そうして、彼は手にした祈祷具を地面に叩きつけた。

瞬間――黒い波紋が地面を這い、空気を歪ませる。

それは明らかに“異質”だった。

まるで、見えない“反祝福”がこの場を包み込んでいくかのように。

「連絡だ! 教会に伝えろッ!」

自警団員の叫びと同時に、鐘が鳴り響いた。

「来たか」

塔の最上部で仮眠していたマーヴィンは、起き上がりながら小さく呟いた。

(“動かないまま潰す”つもりはなかったか……
ゼル。お前、正面から来たな)

彼はマントを羽織り、階段を駆け下りた。

途中で、すでに準備を始めていたセシリアと合流する。

「黒衣の集団が出たって――!」

「北側、旧宿区画だ。静かに動け。
あいつら、恐怖を撒くことが目的だ。
こちらが慌てれば、町中に“疑念の火種”が広がる」

セシリアは、震える手でロザリオを握りしめる。

「……行きましょう。
わたしが、止める。
“祈り”を、歪ませないために」



町の北端。

駆けつけたマーヴィンたちが見たのは、
建物の壁に描かれた**“黒い祝福印”**と、
それを囲むように立つ十数人の黒衣の者たち。

すでに小規模な衝突が始まっており、
数人の自警団員が抵抗を試みていたが、
相手は何か“奇妙な力”でこちらの動きを鈍らせていた。

「――下がれ!」

マーヴィンが叫び、団員たちを後退させると、
黒衣の一人がにやりと笑った。

「ようこそ、“語り手”。
お前が“力を持たぬくせに皆を導く者”だな?」

マーヴィンは目を細める。

「“力を持たぬ”が、言葉なら山ほどある。
……で、お前たちは“祈る代わりに何を差し出す”んだ?」

黒衣の男は嗤った。

「感情さ。“祈っても無駄だった”と叫ぶ心が、
俺たちに力をくれる。
祈りを捨てた人間こそ、真の力を得る」

その瞬間、彼の背後から黒い“祈祷術”が放たれ、マーヴィンに向かってうねるように走った――

が。

「――止まりなさい!」

セシリアの声が、空気を割った。

彼女の身体から溢れるようにして、
やわらかな光が広がっていく。

祈りの言葉はなかった。
ただ、心の底から出た、「届けたい」という想いだけが、
光となって周囲を包み込んでいた。

その光に包まれた瞬間、
黒衣たちの力が明らかに揺らいだ。

「なっ……!? 祈りが……こっちの力を……?」

マーヴィンはその隙を逃さなかった。

「祈りは“言葉”じゃない。
それを俺が語っても意味はないが――
“あの娘”が放った光は、“否定された祈り”をも包むんだよ」

自警団が反撃に出る。

元盗賊団の団員たちは、黒衣の動きの隙を突いて足を刈り、武器を奪い、地面に叩きつけた。

「俺たちは“あの人の祈り”に生かされてる。
お前らの言葉に、耳を貸す暇はねぇんだよ!」

黒衣の一人が呻きながら倒れる。

その間、セシリアは祈りを続けていた。

(どうか、彼らの怒りが――
ほんの少しでも、癒えますように)

(たとえ届かなくても、わたしは止めません)

そして、闇が晴れていく。

ゆっくりと、確実に。

最後まで残っていた黒衣の一人が、膝をつき、口を開いた。

「……どうして……祈りが……
あんなに優しく、あたたかいんだ……?」

セシリアは彼に近づき、そっと手を取った。

「誰も、信じなければならないとは言いません。
でも……“誰かに祈ってもらう”ことを、
諦めないでください」

その言葉に、男は――静かに、泣いた。



夜明け。

教会の前で、マーヴィンとセシリアが並んで立つ。

「勝った、というよりは……」

「“負けなかった”ってところだな」

マーヴィンは空を見上げ、朝焼けの色に目を細めた。

「ゼルは、次は“町そのもの”を揺らしにくる。
この勝利を、町がどう受け取るか……そこに賭けてくるはずだ」

セシリアは、強くうなずいた。

「なら、わたしも揺らぎません。
わたしはこの町に祈り続けます。
何度、恐怖を突きつけられても……」

マーヴィンはその横顔に、一瞬だけ見惚れるように視線を留めた。

(……やれやれ。ますます、“騙せなくなってきた”な)
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