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第4章:偽りの祝福者たち
第11話『祈りの覚醒』
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日が落ちきった夜、
それは静かに始まった。
最初に変化が現れたのは、町の西端にある石畳の広場だった。
子どもたちが遊ぶはずのその場所に、
黒い煙のような“怒気”が滲むように広がっていく。
それは呪いではなかった。
祈祷でもなかった。
ただ、心の奥底に沈んだ怒りと悲しみが、空気に触れて溢れ出しただけのものだった。
「どうして、俺の声は誰にも届かなかったんだ」
「なぜ、あの時、救ってくれなかった」
「祈っても、祈っても、何も変わらなかったじゃないか!」
最初は小さなささやきだったものが、
やがて一人、二人と声に出され、
集まり――形を成し――
そして、暴徒になった。
彼らは誰かを憎んでいるわけではなかった。
ただ、何かを“壊したかった”。
信じたのに報われなかった感情が、
祝福を“嘘”だと叫ぶ声に変わっていく。
そしてその矛先が――教会へと向けられた。
—
「来たか……」
マーヴィンは塔の上から、その光景を見下ろしていた。
まるで、熱病のようだった。
自分の中に溜まり続けた“苦しみ”が、
人から人へ、言葉ではなく、空気と表情で伝染していく。
(ゼル……やり方があまりにも人間的だな。だからこそ、厄介だ)
彼は塔を駆け下りた。
「セシリア! 準備はいいか!」
教会の一階で、すでに動き出していた自警団とともに、
セシリアは正面の扉の前に立っていた。
「……わたしは、逃げません。
この祈りが、届かないとしても、止めたりはしません」
彼女の声は震えていなかった。
静かで、真っすぐだった。
マーヴィンは、ぐっと拳を握る。
「なら、俺はその“祈りの背中”を守る」
—
扉が開かれた。
その瞬間、暴徒たちの怒声が耳を打つ。
「偽りの聖女め!」
「お前の祈りは、俺たちを見捨てた!」
「ここで終わらせてやる……!」
だが――
その最前にいた男が、一歩踏み出した時。
「待って!」
その声に、全員の動きが止まった。
立ちはだかったのは――エルナだった。
白いローブをはためかせ、
まるでこの闇の中にだけ光が差し込んだかのように現れたその姿に、
暴徒たちはたじろいだ。
「どうか、彼女に――“言葉”を聞かせてください。
あなたたちの痛みを、彼女は“受け取ろう”としています」
「それを拒絶するなら……あなたたちは、ただの暴力です!」
その瞬間、暴徒の一人が叫んだ。
「――欺瞞だ!」
振りかぶられた石が、エルナへと飛んだ。
「――っ!」
セシリアが走り出す。
エルナの前に飛び込み、その身で石を受け止めた。
「セシリア様!」
鈍い音。
肩から血が流れる。
が、セシリアは立ち止まらない。
そのまま、広場の中央まで歩いていく。
手には血がにじんでいた。
だが彼女は、両手を広げた。
「わたしは、“あなたたちを赦すため”に、ここにいるのではありません」
「“わたしが、あなたたちを理解するため”に、ここに来ました」
「救われなかったあなたに――祈りは意味がなかったと、そう思わせてしまったわたしに、
今ここで、あなたの“本当の想い”を教えてください」
「怒ってください。泣いてください。叫んでください」
「それを、わたしは“受け取る”と誓います」
沈黙。
その中で、最初に膝をついたのは――暴徒の若者だった。
「俺は……ずっと、母を失ったことを“神のせい”にしてきた……」
「でも、本当は……ただ、誰かに聞いてほしかっただけなんだ……」
その言葉が、空気を変えた。
誰かが泣き出す。
誰かが、膝をつく。
怒りが、悔しさが、悲しみが――“声”になった。
そして、セシリアはその“全ての声”を、胸に抱くように祈り始めた。
「どうか……この町の人々の悲しみが、
少しでも、明日へ進む力になりますように……」
「わたしの力では、救えなかったかもしれない」
「でも、わたしは――あなたたちと、生きていきたい」
その瞬間だった。
セシリアの身体を、柔らかな光が包み込んだ。
祝福の光。
だがそれは、今までの“神聖さ”とは違う。
痛みと願いが交じり合った、深い人間的な光だった。
それは、町全体に広がっていく。
怒りを、悲しみを、ただ受け止め、
それでも共に在るという祈り――**“共感の奇跡”**だった。
—
すべてが終わったあと。
マーヴィンは、倒れたセシリアを支えながら、そっと言った。
「……見事だった。
君の言葉は、もう“誰かの祈り”じゃない。
君自身の、立派な“力”だ」
セシリアは、微笑んで目を閉じた。
「……ありがとう、マーヴィン様……
わたし……ようやく、“ここにいる”って、言えた気がします……」
それは静かに始まった。
最初に変化が現れたのは、町の西端にある石畳の広場だった。
子どもたちが遊ぶはずのその場所に、
黒い煙のような“怒気”が滲むように広がっていく。
それは呪いではなかった。
祈祷でもなかった。
ただ、心の奥底に沈んだ怒りと悲しみが、空気に触れて溢れ出しただけのものだった。
「どうして、俺の声は誰にも届かなかったんだ」
「なぜ、あの時、救ってくれなかった」
「祈っても、祈っても、何も変わらなかったじゃないか!」
最初は小さなささやきだったものが、
やがて一人、二人と声に出され、
集まり――形を成し――
そして、暴徒になった。
彼らは誰かを憎んでいるわけではなかった。
ただ、何かを“壊したかった”。
信じたのに報われなかった感情が、
祝福を“嘘”だと叫ぶ声に変わっていく。
そしてその矛先が――教会へと向けられた。
—
「来たか……」
マーヴィンは塔の上から、その光景を見下ろしていた。
まるで、熱病のようだった。
自分の中に溜まり続けた“苦しみ”が、
人から人へ、言葉ではなく、空気と表情で伝染していく。
(ゼル……やり方があまりにも人間的だな。だからこそ、厄介だ)
彼は塔を駆け下りた。
「セシリア! 準備はいいか!」
教会の一階で、すでに動き出していた自警団とともに、
セシリアは正面の扉の前に立っていた。
「……わたしは、逃げません。
この祈りが、届かないとしても、止めたりはしません」
彼女の声は震えていなかった。
静かで、真っすぐだった。
マーヴィンは、ぐっと拳を握る。
「なら、俺はその“祈りの背中”を守る」
—
扉が開かれた。
その瞬間、暴徒たちの怒声が耳を打つ。
「偽りの聖女め!」
「お前の祈りは、俺たちを見捨てた!」
「ここで終わらせてやる……!」
だが――
その最前にいた男が、一歩踏み出した時。
「待って!」
その声に、全員の動きが止まった。
立ちはだかったのは――エルナだった。
白いローブをはためかせ、
まるでこの闇の中にだけ光が差し込んだかのように現れたその姿に、
暴徒たちはたじろいだ。
「どうか、彼女に――“言葉”を聞かせてください。
あなたたちの痛みを、彼女は“受け取ろう”としています」
「それを拒絶するなら……あなたたちは、ただの暴力です!」
その瞬間、暴徒の一人が叫んだ。
「――欺瞞だ!」
振りかぶられた石が、エルナへと飛んだ。
「――っ!」
セシリアが走り出す。
エルナの前に飛び込み、その身で石を受け止めた。
「セシリア様!」
鈍い音。
肩から血が流れる。
が、セシリアは立ち止まらない。
そのまま、広場の中央まで歩いていく。
手には血がにじんでいた。
だが彼女は、両手を広げた。
「わたしは、“あなたたちを赦すため”に、ここにいるのではありません」
「“わたしが、あなたたちを理解するため”に、ここに来ました」
「救われなかったあなたに――祈りは意味がなかったと、そう思わせてしまったわたしに、
今ここで、あなたの“本当の想い”を教えてください」
「怒ってください。泣いてください。叫んでください」
「それを、わたしは“受け取る”と誓います」
沈黙。
その中で、最初に膝をついたのは――暴徒の若者だった。
「俺は……ずっと、母を失ったことを“神のせい”にしてきた……」
「でも、本当は……ただ、誰かに聞いてほしかっただけなんだ……」
その言葉が、空気を変えた。
誰かが泣き出す。
誰かが、膝をつく。
怒りが、悔しさが、悲しみが――“声”になった。
そして、セシリアはその“全ての声”を、胸に抱くように祈り始めた。
「どうか……この町の人々の悲しみが、
少しでも、明日へ進む力になりますように……」
「わたしの力では、救えなかったかもしれない」
「でも、わたしは――あなたたちと、生きていきたい」
その瞬間だった。
セシリアの身体を、柔らかな光が包み込んだ。
祝福の光。
だがそれは、今までの“神聖さ”とは違う。
痛みと願いが交じり合った、深い人間的な光だった。
それは、町全体に広がっていく。
怒りを、悲しみを、ただ受け止め、
それでも共に在るという祈り――**“共感の奇跡”**だった。
—
すべてが終わったあと。
マーヴィンは、倒れたセシリアを支えながら、そっと言った。
「……見事だった。
君の言葉は、もう“誰かの祈り”じゃない。
君自身の、立派な“力”だ」
セシリアは、微笑んで目を閉じた。
「……ありがとう、マーヴィン様……
わたし……ようやく、“ここにいる”って、言えた気がします……」
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