引退詐欺師、異世界で聖女の相談役になる

naomikoryo

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第5章:火の聖都と銀の処刑人

第3話『聖女審問』

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翌朝、礼拝塔にある神政会議の大聖堂には、
白と金の法衣を纏った神官たちが静かに集っていた。

会場の中央には、半円形の議席席が並び、
その上段には火の神に仕えるという“五公”の姿が並ぶ。

荘厳な装飾に囲まれた空間は、
どこか神聖というより緊張を強いるための設計のようだった。

セシリアとマーヴィンは、
イレーヌの導きでその中央壇へと足を進める。

セシリアは少し緊張した様子だったが、
その歩みに乱れはなかった。

(誰かの声が、届くかもしれない場所。
なら、私は“聞くため”にここに立つ)

彼女の心は、いつも通りだった。

ただ――

上段席の最奥に、一際異質な気配があった。

銀の仮面をつけた、黒衣の人物。

他の神官たちが顔を明らかにしているなか、
その者だけは、仮面で表情を封じたまま沈黙していた。

イレーヌが小さくつぶやく。

「……あれが、処刑人《銀面のカイ》」

「そいつが今回の審問の“最終判定者”か?」

「ええ。表には出てこないけれど……異端とみなされれば、
“火刑”の執行許可が下るのも、あの者の決断です」

「ずいぶん静かな処刑人だな」

「火に焼かれた者の声は、必要以上に語られなくなる。
――彼もまた、過去に一度“声を失って”います」

マーヴィンは、視線をカイに向けた。
その仮面の奥にあるものを読み取ろうとしたが――まるで鏡のように、何も映らなかった。

やがて、審問が開始される。

中央壇に立ったセシリアに、神官長が低く問いかける。

「セシリア・リュミエール。
汝は“神より与えられし奇跡”を起こす者と称されている。
まず、信仰を語れ。汝にとって、祈りとは何か?」

セシリアは、一瞬だけ視線を伏せた。

そして、迷わず答えた。

「わたしにとって祈りとは――
“まだ、言葉にならない気持ち”を、
誰かに届けたいという願い……だと思います」

神官たちがざわめく。

「奇跡を求めぬ祈りか?」
「結果を伴わぬものに、神は応じるのか?」

「では次に問う。
“奇跡”とは、誰が起こすものか?」

「……奇跡は、神様が起こすもの……だと思っていました。
でも今は、そうではなくて……“想いが集まった時、そこに奇跡が生まれる”のだと、思うようになりました」

沈黙。

神官長は厳しい目を向ける。

「……つまり、汝は、奇跡が神の力ではないと申すか?」

マーヴィンが口を挟む前に、セシリアははっきり言った。

「いいえ。神様は“わたしたちの想い”を、きっと受け取ってくれる。
その“受け取る”ことこそが奇跡であって……
“神が与える”というより、“一緒に起こす”もの、なのだと信じています」

さらにざわめきが広がる。

その時だった。

*

「――まことに、独自解釈が過ぎる」

冷たい声が会場に響いた。

銀の仮面の男――カイ=ヴェロスが立ち上がったのだ。

沈黙の処刑人として知られる男が、口を開いた。

その事実だけで、会場の空気が一変した。

「想いの集まりが奇跡を生む?
では、その“想い”が憎悪であったなら?
憤怒、怨嗟、復讐であったなら?」

「神は、それも“奇跡”として与えるのか?」

セシリアは、苦しそうに唇を噛んだ。

だが――その背を、マーヴィンがそっと押した。

「答えなくていい。ここからは、俺の番だ」

マーヴィンは壇の中央へと進む。

「処刑人殿。
あなたの問いは確かに正しい。
“想い”が暴走すれば、それは奇跡どころか災厄になる。
だが――」

「それでも我々は、想いを止められない。
祈らずにはいられない。
誰もが、誰かに届いてほしいと願ってる。
……たとえ、それが届かぬまま終わるとしても、だ」

「それを“奇跡に値しない”と切り捨てるのは、
もはや神官ではなく、“裁き手”の役割だろう?」

沈黙が降りる。

マーヴィンは、さらに続けた。

「このセシリアという少女は、
“届かない祈りを否定しない”者です」

「祈ったのに助からなかった者。
何度も願ったのに救われなかった者。
そのすべてに、“まだ終わってない”と言える者なんです」

「それを、“独自解釈”と呼ぶなら……
――それでいい。
だが、彼女の祈りが人の心を変えてきたことは、
この都でも証明されるはずです」

「この都が、奇跡を忘れたのなら――
もう一度、“想い”を信じるとこから始めればいい」

その時、セシリアがマーヴィンの背に小さく呟いた。

「……マーヴィン様、ありがとう」

彼女の目は、まっすぐカイを見ていた。

処刑人は、その視線をしばらく受け止め――
そして、何も言わずに席へ戻った。

*

やがて、神政会議の長が口を開く。

「この者、“即時認定”の決議に入りたい」

「“正規聖女ではないが、祈りを導く者”として、
神政の庇護下に置くことを条件とし、
“火の都での信仰活動”を一時許可する――」

マーヴィンはその言葉に、すぐ反応した。

「条件付きとは……本音が透けてますね」

「“認めてやるが、外れたら燃やす”と、そういうことですか?」

神官長は声を低めた。

「それは――秩序のためだ」

「秩序のために命を燃やすことが、
神に仕える者のすることですか?」

そう言い返したマーヴィンの目は、
ほんの少しだけ、“何かを過去に焼かれた者”のような色をしていた。

その後、審問は形式上の了承とともに幕を下ろした。

セシリアとマーヴィンはその場を後にするが――
銀の仮面の奥で、カイの目だけが、最後まで彼らを見送っていた。

その瞳には、怒りでも嘲りでもない、
何かを思い出すような、苦しみの影が宿っていた。
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