自称25歳、実年齢は250歳の魔女

naomikoryo

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第18話「ルーナ、魔力の異常反応に気づき、“記憶の再統合”の準備に入る」

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──深夜3時。
さくらハイツの202号室では、ひとつのガラス玉が静かに揺れていた。

 

「……来たわね」

 

ルーナは布団から静かに身体を起こし、
サイドテーブルの上にある封印具を手に取った。

ペンダント型の魔力装置──かつて異世界において、魔王ゼルグレイヴの気配を感知するために用いていた“追跡宝具”。

 

そのガラスの奥が、黒と赤の二重の波紋を描いて振動している。

 

「……“あの人”が、名乗ったのね」

 

ルーナは深く息をついた。

 

「ゼルグレイヴ、か」

 

昔──250年前。

世界が崩れかけたその最期の戦い。
魔王の名を、彼女は最後まで呼ばなかった。

あの時、彼に名前を返すことを拒んだのは、自分だ。
名前を呼んでしまえば、“彼”が“それ”になってしまうから。

 

「でも、記憶が戻り始めたなら……封印だけでは、もう足りない」

 

枕元で寝ていたクロがゆっくりと顔を上げる。

「気づいたか」

 

「気づかないわけないでしょ。
私の作った封印具よ。……こんな波動、久しぶり」

 

ルーナは、部屋の奥のクローゼットを開ける。

中には洋服と並んで、
封印された魔道書・マント・杖・古い魔法具たちが、埃をかぶって並んでいた。

 

「……一回くらい燃やして捨てとけばよかったかなぁ……」

 

「無理だろ。あんた、未練たらたらで“いつかまた使うかも”って言ってたぞ」

 

「それ言わないで……」

 

彼女はため息をつきながらも、魔道書の封印を解く。

光の輪がパラパラと弾け、ページがゆっくりと開く。

その最初の1ページ目に、魔術式が浮かび上がる。

 

《記憶再統合呪式:初期位相安定型》

 

「……やっぱり、先手を打つなら“ここ”からね」

 

「再統合? まさか──お前、自分の記憶を他の奴らに“合わせ”にいくつもりか?」

 

「そうよ。今、目覚め始めてるのは佐倉くん(ゼルグレイヴ)と快くん(カイ)だけ。
みりあはまだ静観してるし……他の子たちも完全には揃ってない」

 

ルーナはページをめくりながら、魔力糸の紐をほどく。

「でも、このまま放っておくと、記憶が“バラバラに戻る”。
順番も、内容も、温度も違う。そうなれば、全員が“異なる過去”を信じるようになる」

 

「つまり──記憶の食い違いで、再戦が起きる」

 

ルーナは静かにうなずいた。

 

「私が今できるのは、“記憶の調律”。
全員の記憶が戻る前に、共通する“起点”を1つ植えつけておく。
“あの戦いの結末”を、どの視点でも同じにするために」

 

魔道書のページに、ペンダントから黒と赤の波紋が吸い込まれていく。

それと同時に、文字が変化する。

 

《記憶再統合呪式:位相統一段階へ移行》

 

ルーナの額に、うっすらと魔法の紋章が浮かぶ。

「これで、“私の記憶”を起点に調律できる。
……あの戦いの最後、どう終わったか──」

 

──それは、勇者カイが剣を振り下ろしたその直後。
崩れゆく魔王の身体を、彼女が魔法陣で“吸収・封印”したこと。

 

「……あの瞬間を全員が共有できれば、少なくとも“敵対”は避けられる」

 

「でも、記憶操作なんて、リスクもあるぞ」

「知ってる。
下手にいじれば、人格崩壊、記憶の断片化、暴走化もあり得る」

 

ルーナは立ち上がった。

 

「でも、何もしなければ──もっと危ない」

 

そして、クロを見た。

「お願い。
あんた、佐倉くんと快くんの様子を、直接見てきて。
……今夜中に、あたしの魔力の“位相”を二人の魔力に同調させる必要がある」

 

クロは一瞬だけ、にやりと笑った。

「お前、本気でやるんだな」

 

「本気じゃないと、250年も寝てらんないわよ」

 

 

◇ ◇ ◇

 

──そのころ、203号室。

佐倉はまだ、ゼルグレイヴという名を口にした余韻で、目が冴えたままだった。

ふと、ベランダの方から「ニャー」という声。

「……ん? 猫?」

 

開けてみると、クロがいた。
じっとこちらを見ている。けっこう濡れてる。

 

「……え、えーっと……え? あれ?クロ?」

 

「……よっ。久しぶり、魔王」

 

「……しゃ、喋ったああああああああああああああああああああ!?」

 

(続く)
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