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第二部:「混沌の調停者」
第2話「ザルガスの眼」
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翌朝、谷の空気は張り詰めていた。
夜のうちに谷に流れ込んできた情報が、動物たちを落ち着かなくさせていたのだ。
「北の森に、黒旗を掲げた魔物の斥候が入った。」
そう告げたのは、梢を飛んできたカケスだった。
フィンが尾を揺らす。
「ただの偵察じゃない。奴らは地形や獣道を調べ、侵攻ルートを探っているはずだ。」
バルトは、斥候の侵入を許せば谷も森も危うくなると察した。
彼は立ち上がり、フィンと目を合わせる。
それだけで、必要な行動が決まった。
*
森の北寄り。
湿った土の匂いに混じって、鉄と血の匂いが漂っていた。
低木の陰に、背を低くしたフィンが身を潜めている。
「三体だ。亜人のオークが二、飛行型の魔物が一。飛び回って索敵している。」
フィンの声を、バルトは理解して頷く。
そして、低く前脚を構えた。
(……速攻で仕留める。)
合図とともに、フィンが右に回り込む。
地面を蹴った音を聞きつけたオークがそちらを向いた瞬間──
バルトが正面から現れた。
巨体の影が迫る。
オークが斧を振りかざすが、その前腕をバルトの前脚が一撃で弾き飛ばした。
骨が砕ける音。
オークは悲鳴を上げ、地面に転がる。
もう一体のオークが背後から迫る。
だが、フィンがその膝裏に飛び込み、牙で腱を断ち切った。
巨体が崩れ落ちる。
上空の飛行魔物が警戒の声を上げたが、その翼に絡みついたのは──森のツタだった。
これは、先回りしていたリスたちが枝を渡り、タイミングを見計らって切った罠だ。
翼をもがれた魔物が地面に落ち、動けなくなる。
その目が、バルトを見据えた。
(……こいつが、噂の“森の王”か。)
その視線は、恐怖ではなかった。
獲物を値踏みするような、冷たい光。
バルトは一歩近づき、咆哮を上げた。
森全体が震えるような声。
飛行魔物はわずかにたじろぎ、それでも視線を逸らさなかった。
「伝える……ザルガスに……。」
掠れた声が空気を震わせる。
そのまま、飛行魔物は翼を引きずりながら北へと退いた。
*
谷に戻ったフィンが、不満げに言った。
「あの飛ぶやつ、わざと逃がしたな。」
バルトは頷いた。
(そうだ。来るなら、来い。だが──森は易々とは渡さない。)
グロムが岩壁の修繕を続けながら、低く呟いた。
「戦いは近い。」
その夜、北の城塞。
飛行魔物が玉座の前で膝をついた。
「ザルガス様……熊は……ただの獣では……ありません。
人間とも違う……。森の王です。」
玉座に座るザルガスの口元が、ゆっくりと歪んだ。
「面白い。次に見る時は……その首を、私の旗に掲げよう。」
黒い旗が、夜風に揺れた。
夜のうちに谷に流れ込んできた情報が、動物たちを落ち着かなくさせていたのだ。
「北の森に、黒旗を掲げた魔物の斥候が入った。」
そう告げたのは、梢を飛んできたカケスだった。
フィンが尾を揺らす。
「ただの偵察じゃない。奴らは地形や獣道を調べ、侵攻ルートを探っているはずだ。」
バルトは、斥候の侵入を許せば谷も森も危うくなると察した。
彼は立ち上がり、フィンと目を合わせる。
それだけで、必要な行動が決まった。
*
森の北寄り。
湿った土の匂いに混じって、鉄と血の匂いが漂っていた。
低木の陰に、背を低くしたフィンが身を潜めている。
「三体だ。亜人のオークが二、飛行型の魔物が一。飛び回って索敵している。」
フィンの声を、バルトは理解して頷く。
そして、低く前脚を構えた。
(……速攻で仕留める。)
合図とともに、フィンが右に回り込む。
地面を蹴った音を聞きつけたオークがそちらを向いた瞬間──
バルトが正面から現れた。
巨体の影が迫る。
オークが斧を振りかざすが、その前腕をバルトの前脚が一撃で弾き飛ばした。
骨が砕ける音。
オークは悲鳴を上げ、地面に転がる。
もう一体のオークが背後から迫る。
だが、フィンがその膝裏に飛び込み、牙で腱を断ち切った。
巨体が崩れ落ちる。
上空の飛行魔物が警戒の声を上げたが、その翼に絡みついたのは──森のツタだった。
これは、先回りしていたリスたちが枝を渡り、タイミングを見計らって切った罠だ。
翼をもがれた魔物が地面に落ち、動けなくなる。
その目が、バルトを見据えた。
(……こいつが、噂の“森の王”か。)
その視線は、恐怖ではなかった。
獲物を値踏みするような、冷たい光。
バルトは一歩近づき、咆哮を上げた。
森全体が震えるような声。
飛行魔物はわずかにたじろぎ、それでも視線を逸らさなかった。
「伝える……ザルガスに……。」
掠れた声が空気を震わせる。
そのまま、飛行魔物は翼を引きずりながら北へと退いた。
*
谷に戻ったフィンが、不満げに言った。
「あの飛ぶやつ、わざと逃がしたな。」
バルトは頷いた。
(そうだ。来るなら、来い。だが──森は易々とは渡さない。)
グロムが岩壁の修繕を続けながら、低く呟いた。
「戦いは近い。」
その夜、北の城塞。
飛行魔物が玉座の前で膝をついた。
「ザルガス様……熊は……ただの獣では……ありません。
人間とも違う……。森の王です。」
玉座に座るザルガスの口元が、ゆっくりと歪んだ。
「面白い。次に見る時は……その首を、私の旗に掲げよう。」
黒い旗が、夜風に揺れた。
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