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第二部:「混沌の調停者」
第3話「魔物の城塞へ」
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北方の森を抜けると、空気が変わった。
湿った緑の香りは薄れ、代わりに鼻を突く硫黄と鉄の匂いが混じる。
地面は黒く焼け焦げ、ところどころに石化した木々が無惨に突き出ていた。
(……ここから先は、森じゃない。)
バルトは歩みを止めず、グロムの背を追って進む。
その後ろにはフィンが控え、左右の茂みには小型の獣たちが斥候のように散っていた。
「もうすぐだ。」
グロムの声は低く、石の軋む音が混じっている。
「ザルガスの城塞は、この谷を越えた先だ。だが……ここから先、見つかれば戦闘は避けられない。」
フィンが小声で問う。
「なぜ、正面から行くんだ?
裏をかくなら夜陰や別のルートがあるだろう。」
バルトは振り返らない。
(堂々と来ることが、“敵意ではない”証になる。
隠れれば、間者として殺されるだけだ。)
*
谷を抜けると、視界が一気に開けた。
黒い岩山を背に、巨大な城塞がそびえ立っている。
壁は粗削りな岩と骨で造られ、塔の上には黒旗がはためいていた。
門前には、武器を構えたオークやトロルが並び、異様な緊張感を漂わせている。
「……来客とは珍しいな。」
門の上から、低く響く声が降ってきた。
姿を現したのは、背丈三メートルを超えるオーク将。
肩には牙の装飾、背には大剣。
「ここはザルガス様の領。獣は帰れ。」
グロムが一歩前に出る。
「この熊は……バルトだ。森の王。ザルガス様に会わせたい。」
嘲笑が門上に広がる。
「熊が王だと? 冗談は毛皮だけにしておけ。」
その瞬間、バルトは動いた。
足元の石を掴み、片腕で真上へと放る。
石は一直線に飛び、門上の旗の支柱を粉砕した。
黒旗が地面に落ちる。
静寂。
オーク将の目が細まり、笑みが消えた。
「……通せ。」
*
城塞内部は暗く湿り、火の匂いと血の匂いが混ざっていた。
廊下の壁には戦利品と称する人間や獣の武具が並び、中央の広間には黒岩の玉座。
そこに、魔将ザルガスが座していた。
漆黒の鎧に包まれた巨体。
頭には骨で作られた冠、瞳は冷たく光っている。
「……なるほど。確かにただの獣ではないな。」
ザルガスはゆっくりと立ち上がった。
その視線は、正面からバルトを射抜く。
「だが──私は人間を滅ぼし、この森を手中に収める。
お前がその邪魔をするなら……敵だ。」
バルトは一歩前へ出る。
咆哮は上げない。
ただ、その巨体と眼差しで、揺るがぬ意思を示す。
(森は、誰のものでもない。奪う者も、踏みにじる者も、敵だ。)
ザルガスは鼻で笑った。
「……ならば、次に会う時は戦場だ。」
グロムが低く呻き、フィンは耳を伏せた。
バルトは視線を逸らさず、そのまま城塞を後にした。
*
森への帰路。
フィンが口を開く。
「交渉は……失敗だな。」
バルトは頷かなかった。
ただ、森の空を見上げた。
曇天の切れ間から、光が一筋、落ちていた。
(次は……守るための戦いになる。)
湿った緑の香りは薄れ、代わりに鼻を突く硫黄と鉄の匂いが混じる。
地面は黒く焼け焦げ、ところどころに石化した木々が無惨に突き出ていた。
(……ここから先は、森じゃない。)
バルトは歩みを止めず、グロムの背を追って進む。
その後ろにはフィンが控え、左右の茂みには小型の獣たちが斥候のように散っていた。
「もうすぐだ。」
グロムの声は低く、石の軋む音が混じっている。
「ザルガスの城塞は、この谷を越えた先だ。だが……ここから先、見つかれば戦闘は避けられない。」
フィンが小声で問う。
「なぜ、正面から行くんだ?
裏をかくなら夜陰や別のルートがあるだろう。」
バルトは振り返らない。
(堂々と来ることが、“敵意ではない”証になる。
隠れれば、間者として殺されるだけだ。)
*
谷を抜けると、視界が一気に開けた。
黒い岩山を背に、巨大な城塞がそびえ立っている。
壁は粗削りな岩と骨で造られ、塔の上には黒旗がはためいていた。
門前には、武器を構えたオークやトロルが並び、異様な緊張感を漂わせている。
「……来客とは珍しいな。」
門の上から、低く響く声が降ってきた。
姿を現したのは、背丈三メートルを超えるオーク将。
肩には牙の装飾、背には大剣。
「ここはザルガス様の領。獣は帰れ。」
グロムが一歩前に出る。
「この熊は……バルトだ。森の王。ザルガス様に会わせたい。」
嘲笑が門上に広がる。
「熊が王だと? 冗談は毛皮だけにしておけ。」
その瞬間、バルトは動いた。
足元の石を掴み、片腕で真上へと放る。
石は一直線に飛び、門上の旗の支柱を粉砕した。
黒旗が地面に落ちる。
静寂。
オーク将の目が細まり、笑みが消えた。
「……通せ。」
*
城塞内部は暗く湿り、火の匂いと血の匂いが混ざっていた。
廊下の壁には戦利品と称する人間や獣の武具が並び、中央の広間には黒岩の玉座。
そこに、魔将ザルガスが座していた。
漆黒の鎧に包まれた巨体。
頭には骨で作られた冠、瞳は冷たく光っている。
「……なるほど。確かにただの獣ではないな。」
ザルガスはゆっくりと立ち上がった。
その視線は、正面からバルトを射抜く。
「だが──私は人間を滅ぼし、この森を手中に収める。
お前がその邪魔をするなら……敵だ。」
バルトは一歩前へ出る。
咆哮は上げない。
ただ、その巨体と眼差しで、揺るがぬ意思を示す。
(森は、誰のものでもない。奪う者も、踏みにじる者も、敵だ。)
ザルガスは鼻で笑った。
「……ならば、次に会う時は戦場だ。」
グロムが低く呻き、フィンは耳を伏せた。
バルトは視線を逸らさず、そのまま城塞を後にした。
*
森への帰路。
フィンが口を開く。
「交渉は……失敗だな。」
バルトは頷かなかった。
ただ、森の空を見上げた。
曇天の切れ間から、光が一筋、落ちていた。
(次は……守るための戦いになる。)
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