ベア・キングダム

naomikoryo

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第二部:「混沌の調停者」

第6話「王の試練」

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川の流れは、もう水ではなかった。
血と泥と、折れた武器が渦を巻いていた。
咆哮と悲鳴が入り混じる中、バルトはグロムの肩を抱え込むようにして敵の波を押し返した。

「……行け、バルト。」
グロムの声は低く、ひび割れていた。
肩の傷からは細かい石片がこぼれ、動くたびに軋む音がする。

(置いていけるわけがない。)

バルトは前脚で迫る魔物を弾き飛ばし、フィンに目で合図を送った。
フィンは理解すると同時に、谷方面へ続く獣道へ走り出す。
「道を開ける! ついて来い!」



撤退戦は、進むたびに重くなっていった。
森の地形を利用しても、敵は諦めない。
倒しても、押し返しても、また別の敵が現れる。

フィンが枝を駆け、後方から迫る敵を攪乱する。
小動物たちが次々と落とし穴や倒木の罠を作動させ、追撃の速度を削ぐ。

だが、それでも足音は近づいてくる。
バルトの背後から、鋭い矢が飛んだ。
それを体で受けたのは、グロムだった。

「……っ!」

矢が石の胸板を貫くことはなかったが、衝撃で彼は膝をついた。
バルトは彼を支え、木陰に押し込むようにして休ませた。

(守るためには……下がらなきゃならない時もある。)

その瞬間、バルトの脳裏に、遠い光景が蘇った。
──サーカス小屋の崩落、少女を庇った時。
あの時も、自分は「守る」ために動いた。
だが守れなかった命もある。

(今回は……誰も死なせない。)



日が傾き始めた頃、ようやく敵の足音が遠のいた。
フィンが戻ってくる。
「……なんとか撒いた。だが時間は稼げても、追ってくる。」

リリが木陰から姿を現した。
泥まみれで、息を切らし、目には涙がにじんでいる。
「バルト……!」

彼女はグロムの傷を見て、すぐに薬草を取り出した。
震える手で石の割れ目に湿布を押し当てる。
それは魔物の身体には馴染まないはずのものだが、不思議と温かさだけは伝わっていく。

グロムが、かすかに目を細めた。



その夜。
谷に戻ったバルトは、戦いの報告を動物たちに伝えるため、中央の広場に立った。
言葉は交わせない。
だが、表情と動作で「戦いはこれで終わらない」ことを示す。

静かな視線の中、創造神アウラの声がどこからともなく響いた。

──秩序とは、ただ守ることではない。
──時に選び、時に切り捨てる覚悟だ。

バルトは目を閉じた。
その意味を、痛いほど理解していた。

(試されている……。森の王として。)
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