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第二部:「混沌の調停者」
第7話「咆哮の夜」
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月は雲に隠れ、森は闇の海と化していた。
風は湿り気を帯び、遠くからは低い太鼓の音が響いてくる。
北から──魔物軍の進軍合図。
南から──人間軍の角笛。
両軍は再び、森の中央に向かって動いていた。
そこは、谷からそう遠くない広い平地。
夜闇に包まれた草地は、まるで巨大な檻の中の闘技場だった。
*
バルトは広場の端に立ち、風の匂いを嗅いだ。
血と油、そして焦りの匂いが混じっている。
(……今夜が、山だ。)
フィンが横に立ち、低く言う。
「お前ひとりで行く気か?」
バルトは頷きもせず、ゆっくりと前へ歩き出した。
(守るためには……時に、王自らが動く。)
彼の背を、谷の仲間たちが静かに見送った。
リリは唇を噛み締め、何も言えなかった。
*
戦場はすでに火が上がっていた。
人間軍の松明と魔物軍の狼煙が、闇の中で二色の炎を揺らしている。
武器のぶつかる音、魔法の爆ぜる光──
夜の森を切り裂くそれらの中を、バルトは一直線に進んだ。
最初に現れたのは、剣を振り上げたオークだった。
バルトはその腕を掴み、地面に叩きつける。
次いで突進してきた人間の兵士の槍を前脚で払い、衝撃で彼を後方へ吹き飛ばす。
「な、何だあの……!」
「敵か!? 味方か!?」
混乱が広がる。
バルトは答えない。
ただ、どちらであろうと弱者を襲う者、森を焼く者は容赦なく倒していく。
飛行魔物が火球を投げようとした瞬間、バルトが跳びかかり、その翼を押さえつけて地面に叩き落す。
炎が草地を舐める前に、前脚で踏み消す。
(森を焼かせない。)
*
その圧倒的な動きに、戦場の流れが変わり始めた。
人間も魔物も、攻める手が鈍り、互いに距離を取り始める。
そして──
バルトは立ち止まり、天を仰いだ。
咆哮が夜空を裂く。
その声は雷鳴のようでありながら、どこか哀しみを孕んでいた。
戦いを望まぬ者たちの胸を震わせ、武器を握る手を止めさせる声だった。
太鼓も、角笛も、止まった。
ただその咆哮だけが、闇に響いていた。
*
しかし、その静寂を破る影があった。
ザルガスが黒い鎧のまま前に進み、剣を地に突き立てる。
「……見事だ、森の王。
だが、これで終わりではない。」
その眼光が、夜の闇の中で獣のように光った。
バルトは一歩も引かず、その視線を受け止めた。
(終わらせる。必ず。)
風は湿り気を帯び、遠くからは低い太鼓の音が響いてくる。
北から──魔物軍の進軍合図。
南から──人間軍の角笛。
両軍は再び、森の中央に向かって動いていた。
そこは、谷からそう遠くない広い平地。
夜闇に包まれた草地は、まるで巨大な檻の中の闘技場だった。
*
バルトは広場の端に立ち、風の匂いを嗅いだ。
血と油、そして焦りの匂いが混じっている。
(……今夜が、山だ。)
フィンが横に立ち、低く言う。
「お前ひとりで行く気か?」
バルトは頷きもせず、ゆっくりと前へ歩き出した。
(守るためには……時に、王自らが動く。)
彼の背を、谷の仲間たちが静かに見送った。
リリは唇を噛み締め、何も言えなかった。
*
戦場はすでに火が上がっていた。
人間軍の松明と魔物軍の狼煙が、闇の中で二色の炎を揺らしている。
武器のぶつかる音、魔法の爆ぜる光──
夜の森を切り裂くそれらの中を、バルトは一直線に進んだ。
最初に現れたのは、剣を振り上げたオークだった。
バルトはその腕を掴み、地面に叩きつける。
次いで突進してきた人間の兵士の槍を前脚で払い、衝撃で彼を後方へ吹き飛ばす。
「な、何だあの……!」
「敵か!? 味方か!?」
混乱が広がる。
バルトは答えない。
ただ、どちらであろうと弱者を襲う者、森を焼く者は容赦なく倒していく。
飛行魔物が火球を投げようとした瞬間、バルトが跳びかかり、その翼を押さえつけて地面に叩き落す。
炎が草地を舐める前に、前脚で踏み消す。
(森を焼かせない。)
*
その圧倒的な動きに、戦場の流れが変わり始めた。
人間も魔物も、攻める手が鈍り、互いに距離を取り始める。
そして──
バルトは立ち止まり、天を仰いだ。
咆哮が夜空を裂く。
その声は雷鳴のようでありながら、どこか哀しみを孕んでいた。
戦いを望まぬ者たちの胸を震わせ、武器を握る手を止めさせる声だった。
太鼓も、角笛も、止まった。
ただその咆哮だけが、闇に響いていた。
*
しかし、その静寂を破る影があった。
ザルガスが黒い鎧のまま前に進み、剣を地に突き立てる。
「……見事だ、森の王。
だが、これで終わりではない。」
その眼光が、夜の闇の中で獣のように光った。
バルトは一歩も引かず、その視線を受け止めた。
(終わらせる。必ず。)
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