双星の記憶(そうせいのきおく)

naomikoryo

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最終章:「双星の残響(そうせいのざんきょう)」

第2話 「月に濁る兆し」

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三つの月が重なる夜。
 かつて、この空を覆ったことがある“禍の予兆”が、再び姿を現していた。

 
 タケルは丘の上に立ち、遠くの地平を睨んでいた。
 風の匂いが変わっている。
 星の配置が、わずかに“ずれて”いる。

 これは自然ではない。
 何かが、記録された“秩序”を狂わせている。
 

 「タケル! 急報!」

 宿屋〈星見亭〉からリアが飛び出してきた。
 息を切らし、巻物を片手に手渡してくる。

「王都の監視魔導陣から緊急信。南の廃都近く、アザル=ディリオスのかつての居城跡――そこに、“黒い炎”が再出現した」

「……やはり、そこか」

 
 その地には、すでに封じられたはずの魔王の副官の“記録”が眠っている。
 剛と共にあのとき、すべてを終わらせたはずだった。

 
 だが、もしそれが外側から破られたのだとしたら――?

 
 「リア。装備を頼む」

 「……行くのね」

 「この空の下で、何が始まろうとしているのか。俺が確かめなきゃならない。
 剛も……同じものを感じているはずだ」

 
 リアはすぐに態勢を整え、タケルと共に馬車へと乗り込んだ。

 
 ◆

 
 廃都への道中、風の音はどこか不協和を含んでいた。

 空に浮かぶ三つの月のうち、一番小さな月がわずかに“赤み”を帯びている。
 

 「これは……月蝕じゃない。魔素が月に干渉してる」

 
 タケルは月を見上げながら、ゆっくりと呟く。
 その声には、不安ではなく、覚悟が込められていた。
 

 「リア。今回の敵は、おそらく“この世界のもの”じゃない。
 もっと別の……可能性としては、異界の存在そのものだ」
 

 リアはきゅっと唇を結び、小さく頷いた。

 「もしそうなら……この世界だけじゃ止められないかもしれない。
  だけど、それでもタケルなら……」
 

 タケルは小さく笑った。

 「俺だけじゃない。あいつがいる。剛が。
  あいつも、もう“ただの高校生”じゃない。……勇者としてじゃなく、“西条剛”として戦ってきた男だ」
 

 その時だった。

 馬車の周囲が、突然深い闇に包まれた。

 
 「止まれ!」
 

 タケルが叫び、魔法陣を展開。

 その直後、地面が割れるような音と共に、漆黒の“手”が大地を突き破って現れた。
 

 五本の指。だがそれは人のものではない。
 皮膚ではなく“記録の文字”で構成された指先。
 まるで誰かの記憶が物質化したような異形の手。

 
 「……これが、“来たか”」

 
 リアが杖を構える。

 タケルも剣を抜く。
 

 「名乗れ。お前は何者だ」

 
 その手の奥から、かすかな声が響いた。

 
 >「……われは、ガルドの片影……
  記録されざる勇者たちの、うつしみ……」
 >「汝ら、ふたつの世界に立つ者よ……また統ぜよ。記憶を重ね、安寧を与えよ……」

 
 タケルの目が鋭く光った。

 
 「――断る」
 

 言葉と同時に、タケルは《竜喰いの剣》を振るった。

 蒼い閃光が夜を切り裂き、“手”を払う。

 だが手は、空気に溶けるように霧散し、形を失いながらも不気味な残響を残していった。

 
 >「いずれ、記憶はひとつに還る……
  汝らはそれを、拒めぬ……」
 

 音が消えた。
 

 タケルは剣を戻し、静かに呟いた。

 「……来るぞ。あれは、“融合”を望んでいる。
  世界と記憶のすべてを、ひとつにすることで、“完全な記録”を作ろうとしている」
 

 リアの声が、低く響く。

 「……でも、それは“存在の否定”よね?
  私たちが何を選び、何を守ってきたか――全部が“上書き”される」

 
 「だから戦う。
  剛と俺、それぞれの世界で手に入れたものを、守るために」
 

 タケルの視線は、再び空を見上げた。

 星がひとつ、ゆっくりと流れていく。

 それは、剛の世界の空にも、同じように見えているかもしれない。
 

 「剛……次に会う時は、もう一度“肩を並べて”戦おう」
 

 そして、その時が来たとき、
 ふたつの世界の“選択”は、ついに一つの結末へ向かう。
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