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最終章:「双星の残響(そうせいのざんきょう)」
第3話 「告げられる共鳴」
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再び“あの世界”の風を感じたのは、富士山地下の封印跡を訪れた翌日だった。
朝の通学路、剛は制服の胸ポケットに忍ばせた小瓶――かつてリアから渡されたエリクサーの残骸を無意識に撫でていた。
封印は確かに閉じた。
タケルもリアも、それぞれの世界で平穏な日々を築き始めていた。
けれど、ここ数日の“空気の歪み”は、確実に何かを告げている。
そして今朝――
京が再び、掌に光を帯びた。
「剛、見て。昨日より強い……もう、“感じる”んだ。何かが、こっちに来ようとしてるって」
学校の屋上。
ふたりは周囲に人気がないことを確かめてから、魔素反応を確認していた。
京の掌の中央には、明らかに魔力の紋様に似た光が浮かんでいた。
「これは……回復魔法の“根”じゃない。もっと深い、何かに繋がってる」
「異世界の……魔力そのもの、か?」
「ううん。違う。……これ、“共鳴”してる。向こうのリアさん、きっと今もこの波を感じてるはず」
剛は静かに目を閉じる。
そのとき、意識の奥で、かすかな“念話”が響いた。
>(剛……聞こえるか)
「……タケルさん?」
>(ああ。一瞬だけ、繋がった。……そっちでも、“気配”を感じたか)
「京の掌が光った。こっちはまだ直接姿を現してはいないけど……でも、間違いない。来る。向こうの“やつ”が」
念話の回線が弱くなり、すぐに切れる。
まるで、世界そのものが“接触”を阻止しようとしているかのようだった。
剛はゆっくり立ち上がり、手すりの向こうの空を見つめた。
その空には、昨日と同じ――裂け目が、わずかに残っていた。
雲に紛れて、見ようとしなければ気付かない。
だが、確かにそこに“穴”がある。
「京。そろそろ、覚悟を決めないといけないかも」
「……剛?」
「俺たちが異世界から持ち帰った“何か”が、今、こっちの世界を揺らし始めてる。
その震源にいるのは、間違いなく――あの存在、“オルター=ガルド”だ」
京は拳を握りしめ、鋭い瞳で剛を見た。
「じゃあ、やっぱり――あたしたちが、止めなきゃ」
その言葉に、剛は深く頷いた。
けれど、その時だった。
――空が「ひび割れた」。
音がしたわけではない。
でも視覚が告げていた。現実が裂け、“記録”のようにずれている。
その中心に、何かが現れ始めていた。
漆黒。
空の穴から漏れ出した“何か”が、地上へと垂れ落ちる。
それは霧のようでもあり、液体のようでもあり、形を持たぬ“存在未満の存在”。
「まずい……っ!」
剛が思わず京をかばい、前に出た。
霧はゆっくりと地面に降り立ち、その中心から――顔のようなものが浮かび上がった。
しかし、それは「誰かの顔」ではなかった。
むしろ、“顔になり損ねた何か”。
口らしきものが動き、音ではなく、脳内に直接響く“記号”のような共鳴が走る。
>【キミたちは……何者だ……】
>【ボクの記録にない……存在……】
>【キミたちは、“拒絶”か、“統合”か……】
剛は、その問いに迷いなく答えた。
「拒絶だ。俺たちは、俺たちのままでいたい。
記録じゃなく、意思で未来を選ぶために――戦ってきた」
霧が、わずかに震えた。
そこに、わずかに“怒り”のような感情が混じる。
>【キミたちの“分離”が、世界を不安定にしている】
>【ボクは、記録を統べる者】
>【すべてを“ひとつの正解”に戻す】
>【名を……与えられるのなら、オルター=ガルド……】
その名前が、ついに剛の前に、はっきりと姿を結んだ。
黒霧の塊が形を成し、人型に近いシルエットを取り始める。
まるで、「誰かになろう」としているような、不完全な意志体。
京が小声で言った。
「剛……このままじゃ……学校に影響が……」
剛は頷き、京の手を取った。
「ここじゃダメだ。移動する。少しでも被害が出ない場所に誘導して、……その時は、全力で戦う」
京が、小さく微笑む。
「任せて。もう、逃げないよ。
“剛と一緒に行く”って決めたんだから」
その言葉が、剛の胸を強く支えた。
そして、ふたりは“戦場”へと向かって駆け出した。
異世界から来た影に、地球の未来を渡さないために。
朝の通学路、剛は制服の胸ポケットに忍ばせた小瓶――かつてリアから渡されたエリクサーの残骸を無意識に撫でていた。
封印は確かに閉じた。
タケルもリアも、それぞれの世界で平穏な日々を築き始めていた。
けれど、ここ数日の“空気の歪み”は、確実に何かを告げている。
そして今朝――
京が再び、掌に光を帯びた。
「剛、見て。昨日より強い……もう、“感じる”んだ。何かが、こっちに来ようとしてるって」
学校の屋上。
ふたりは周囲に人気がないことを確かめてから、魔素反応を確認していた。
京の掌の中央には、明らかに魔力の紋様に似た光が浮かんでいた。
「これは……回復魔法の“根”じゃない。もっと深い、何かに繋がってる」
「異世界の……魔力そのもの、か?」
「ううん。違う。……これ、“共鳴”してる。向こうのリアさん、きっと今もこの波を感じてるはず」
剛は静かに目を閉じる。
そのとき、意識の奥で、かすかな“念話”が響いた。
>(剛……聞こえるか)
「……タケルさん?」
>(ああ。一瞬だけ、繋がった。……そっちでも、“気配”を感じたか)
「京の掌が光った。こっちはまだ直接姿を現してはいないけど……でも、間違いない。来る。向こうの“やつ”が」
念話の回線が弱くなり、すぐに切れる。
まるで、世界そのものが“接触”を阻止しようとしているかのようだった。
剛はゆっくり立ち上がり、手すりの向こうの空を見つめた。
その空には、昨日と同じ――裂け目が、わずかに残っていた。
雲に紛れて、見ようとしなければ気付かない。
だが、確かにそこに“穴”がある。
「京。そろそろ、覚悟を決めないといけないかも」
「……剛?」
「俺たちが異世界から持ち帰った“何か”が、今、こっちの世界を揺らし始めてる。
その震源にいるのは、間違いなく――あの存在、“オルター=ガルド”だ」
京は拳を握りしめ、鋭い瞳で剛を見た。
「じゃあ、やっぱり――あたしたちが、止めなきゃ」
その言葉に、剛は深く頷いた。
けれど、その時だった。
――空が「ひび割れた」。
音がしたわけではない。
でも視覚が告げていた。現実が裂け、“記録”のようにずれている。
その中心に、何かが現れ始めていた。
漆黒。
空の穴から漏れ出した“何か”が、地上へと垂れ落ちる。
それは霧のようでもあり、液体のようでもあり、形を持たぬ“存在未満の存在”。
「まずい……っ!」
剛が思わず京をかばい、前に出た。
霧はゆっくりと地面に降り立ち、その中心から――顔のようなものが浮かび上がった。
しかし、それは「誰かの顔」ではなかった。
むしろ、“顔になり損ねた何か”。
口らしきものが動き、音ではなく、脳内に直接響く“記号”のような共鳴が走る。
>【キミたちは……何者だ……】
>【ボクの記録にない……存在……】
>【キミたちは、“拒絶”か、“統合”か……】
剛は、その問いに迷いなく答えた。
「拒絶だ。俺たちは、俺たちのままでいたい。
記録じゃなく、意思で未来を選ぶために――戦ってきた」
霧が、わずかに震えた。
そこに、わずかに“怒り”のような感情が混じる。
>【キミたちの“分離”が、世界を不安定にしている】
>【ボクは、記録を統べる者】
>【すべてを“ひとつの正解”に戻す】
>【名を……与えられるのなら、オルター=ガルド……】
その名前が、ついに剛の前に、はっきりと姿を結んだ。
黒霧の塊が形を成し、人型に近いシルエットを取り始める。
まるで、「誰かになろう」としているような、不完全な意志体。
京が小声で言った。
「剛……このままじゃ……学校に影響が……」
剛は頷き、京の手を取った。
「ここじゃダメだ。移動する。少しでも被害が出ない場所に誘導して、……その時は、全力で戦う」
京が、小さく微笑む。
「任せて。もう、逃げないよ。
“剛と一緒に行く”って決めたんだから」
その言葉が、剛の胸を強く支えた。
そして、ふたりは“戦場”へと向かって駆け出した。
異世界から来た影に、地球の未来を渡さないために。
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