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第8話 「真木家にお呼ばれされる黒瀬、ギャルママとご対面」
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翌週の火曜日、午後五時すぎ。
営業部のフロアで書類を整理していると、スマホにLINEの通知が入った。
差出人は「真木陽翔」。……じゃない。
📩【陽翔ママ💅】
黒瀬ちゃん~~✨今週末、うち来てくれない?
陽翔がさぁ、また主任主任ってウザいくらい話すのよ😂💦
もー、親としては気になってしゃーないの!
ギャルママ特製のナポリタン作って待ってるから!💋
……え?
え、待って、陽翔ルートじゃなくて母親ルートからの招待?
私の親しい男友達すら、まだ私の実家に招いたことはないのに。
まさか会社の部下の家に、息子抜きで招待される日が来るとは。
「……陽翔」
「はい?」
「ママからLINE来たんだけど」
「え、あ……もうですか? はやっ……」
「はやいって、どういうことよ」
「いや、昨日の夜、“主任にちゃんとお礼しなさい!”って、めっちゃ詰められてて……。まさか先に直送してたとは……」
「……あの人、パワフルすぎるでしょ」
***
そして土曜日。
私は、戦場に赴く兵士のような面持ちで、真木家の玄関チャイムを鳴らした。
ピンポーン。
「は~い♡ って、わぁ!ほんとに来てくれたのね!」
出てきたのは、当然ながら真木玲奈。
43歳、ギャルメイクが板についた、陽翔の母親。
白のオフショルにダメージジーンズ、キラキラしたつけま、そして妙にふわっと香るバニラ系の香水。
相変わらず、“元気な夜のお姉さん感”がすごい。
「黒瀬ちゃん~! 可愛いじゃないのぉ! 陽翔には勿体ないわね!」
「……あの、それ、前も言われましたけど」
「ほんっと思ってんのよ~。あの子、恋愛センスだけはママに似てなくてさ、まじ心配してんのよ」
そう言いながら玲奈さんは、私の腕を引いてリビングに連れていく。
テーブルの上には、山盛りのナポリタンと、カラフルな前菜。グラスには白ワイン。
——陽翔がいないのを確認して、私はこっそり聞いた。
「……で、今日は何の話を?」
「ズバリ、“あの子をなんとかして”案件よ!」
玲奈さんはワインをくいっと飲み、一拍置いてから続ける。
「黒瀬ちゃん。ぶっちゃけて言うけど、陽翔ね……あんたのこと、ガチで惚れてるわ」
「……は?」
「ママ見てりゃ分かんの。あの子ね、これまで誰にも“心を動かされた”ことなかったのに、あんたの前だとガチ恋モード入ってんの」
「……いや、でもそれ、恋じゃなくて“ママ代わり”みたいな……」
「違うのよそれが。
“ママと似てるから安心できるけど、ママじゃないからときめいてる”って感じ?
もうさ、安心と性欲の境界線を超え始めてんのよ、あの子」
「言い方!」
「いや、マジでね。あんたに惹かれてんの、わかるのよ。言っとくけど、ママは応援してっから」
「ええ……?」
***
その後、玲奈さんは**元ギャルとは思えない“母の顔”**で語り始めた。
「私ね、陽翔の人生を縛りたくないのよ。
離婚したとき、“もうこの子には私しかいない”って思ってたけど、それが逆に依存させちゃったの。
……でも、黒瀬ちゃんといる時の陽翔、すごく良い顔するの」
「……」
「だからね。もしもあんたに気があるなら、あの子の“次のステージ”に連れてってあげてほしいのよ。
彼女でもいいし、なんなら“妻”でも。“ママ卒業”させてくれんの、あんたしかいないのよ」
玲奈さんの目は、ギャルのメイクの奥に、本物の母親の涙の影を湛えていた。
私は思わず、ナポリタンをつつきながら答えた。
「……そんな責任、重すぎますよ」
「じゃあ、軽く考えて。“あの子と一緒にいてもいいかも”って思えるなら、まずはそれでOK」
「……」
「つーか、“同棲”とかどう? 社長から聞いたけど、そういう話もあるらしいじゃん?あの人、妙にノリノリだったし」
「え、社長が何を……?」
「え? あれ? 言ってなかった? 社長さぁ、うちの彼氏なんだけどさ」
「……はい?」
「だからさ、うちの彼氏と、うちの息子と、あんたと私で――
一家まるっと新時代ファミリー作っちゃう? みたいな!」
酔いがまわってんのか、それとも本気なのか。
けれど私は、目の前の玲奈さんの言葉の中に、陽翔が抱える孤独と、
それに真っ向から向き合ってきた彼女の親としての覚悟を見た気がした。
***
帰り際、玄関で靴を履きながら、玲奈さんがボソッとつぶやいた。
「ほんとね、あの子、あんたに出会えてよかったわ。……あんたじゃなきゃ、無理だったかもしんない」
そうして私の手をぎゅっと握るその手が、
ギャルネイルとは思えないほど、あったかかった。
(つづく)
営業部のフロアで書類を整理していると、スマホにLINEの通知が入った。
差出人は「真木陽翔」。……じゃない。
📩【陽翔ママ💅】
黒瀬ちゃん~~✨今週末、うち来てくれない?
陽翔がさぁ、また主任主任ってウザいくらい話すのよ😂💦
もー、親としては気になってしゃーないの!
ギャルママ特製のナポリタン作って待ってるから!💋
……え?
え、待って、陽翔ルートじゃなくて母親ルートからの招待?
私の親しい男友達すら、まだ私の実家に招いたことはないのに。
まさか会社の部下の家に、息子抜きで招待される日が来るとは。
「……陽翔」
「はい?」
「ママからLINE来たんだけど」
「え、あ……もうですか? はやっ……」
「はやいって、どういうことよ」
「いや、昨日の夜、“主任にちゃんとお礼しなさい!”って、めっちゃ詰められてて……。まさか先に直送してたとは……」
「……あの人、パワフルすぎるでしょ」
***
そして土曜日。
私は、戦場に赴く兵士のような面持ちで、真木家の玄関チャイムを鳴らした。
ピンポーン。
「は~い♡ って、わぁ!ほんとに来てくれたのね!」
出てきたのは、当然ながら真木玲奈。
43歳、ギャルメイクが板についた、陽翔の母親。
白のオフショルにダメージジーンズ、キラキラしたつけま、そして妙にふわっと香るバニラ系の香水。
相変わらず、“元気な夜のお姉さん感”がすごい。
「黒瀬ちゃん~! 可愛いじゃないのぉ! 陽翔には勿体ないわね!」
「……あの、それ、前も言われましたけど」
「ほんっと思ってんのよ~。あの子、恋愛センスだけはママに似てなくてさ、まじ心配してんのよ」
そう言いながら玲奈さんは、私の腕を引いてリビングに連れていく。
テーブルの上には、山盛りのナポリタンと、カラフルな前菜。グラスには白ワイン。
——陽翔がいないのを確認して、私はこっそり聞いた。
「……で、今日は何の話を?」
「ズバリ、“あの子をなんとかして”案件よ!」
玲奈さんはワインをくいっと飲み、一拍置いてから続ける。
「黒瀬ちゃん。ぶっちゃけて言うけど、陽翔ね……あんたのこと、ガチで惚れてるわ」
「……は?」
「ママ見てりゃ分かんの。あの子ね、これまで誰にも“心を動かされた”ことなかったのに、あんたの前だとガチ恋モード入ってんの」
「……いや、でもそれ、恋じゃなくて“ママ代わり”みたいな……」
「違うのよそれが。
“ママと似てるから安心できるけど、ママじゃないからときめいてる”って感じ?
もうさ、安心と性欲の境界線を超え始めてんのよ、あの子」
「言い方!」
「いや、マジでね。あんたに惹かれてんの、わかるのよ。言っとくけど、ママは応援してっから」
「ええ……?」
***
その後、玲奈さんは**元ギャルとは思えない“母の顔”**で語り始めた。
「私ね、陽翔の人生を縛りたくないのよ。
離婚したとき、“もうこの子には私しかいない”って思ってたけど、それが逆に依存させちゃったの。
……でも、黒瀬ちゃんといる時の陽翔、すごく良い顔するの」
「……」
「だからね。もしもあんたに気があるなら、あの子の“次のステージ”に連れてってあげてほしいのよ。
彼女でもいいし、なんなら“妻”でも。“ママ卒業”させてくれんの、あんたしかいないのよ」
玲奈さんの目は、ギャルのメイクの奥に、本物の母親の涙の影を湛えていた。
私は思わず、ナポリタンをつつきながら答えた。
「……そんな責任、重すぎますよ」
「じゃあ、軽く考えて。“あの子と一緒にいてもいいかも”って思えるなら、まずはそれでOK」
「……」
「つーか、“同棲”とかどう? 社長から聞いたけど、そういう話もあるらしいじゃん?あの人、妙にノリノリだったし」
「え、社長が何を……?」
「え? あれ? 言ってなかった? 社長さぁ、うちの彼氏なんだけどさ」
「……はい?」
「だからさ、うちの彼氏と、うちの息子と、あんたと私で――
一家まるっと新時代ファミリー作っちゃう? みたいな!」
酔いがまわってんのか、それとも本気なのか。
けれど私は、目の前の玲奈さんの言葉の中に、陽翔が抱える孤独と、
それに真っ向から向き合ってきた彼女の親としての覚悟を見た気がした。
***
帰り際、玄関で靴を履きながら、玲奈さんがボソッとつぶやいた。
「ほんとね、あの子、あんたに出会えてよかったわ。……あんたじゃなきゃ、無理だったかもしんない」
そうして私の手をぎゅっと握るその手が、
ギャルネイルとは思えないほど、あったかかった。
(つづく)
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