私の部下 ~マザコンでしたが、今では恋人で、夫です。

naomikoryo

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第27話 「社長からの呼び出し『これが大人の選び方だ』」

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 翌日、朝イチ。
 社長秘書・藤岡さんから内線が鳴った。

「黒瀬主任、社長からお呼びです。10分後に応接室へ」

 

 (……来た)

 このタイミングで社長の呼び出し。
 内容は――もう分かりきっている。

 真木陽翔との交際が、社内に知られたこと。
 そして、私という“会社的に安定した立場”の社員が、それにどう向き合うのか。

 

***

 

 応接室に入ると、五十嵐社長はいつものブラックコーヒーを片手に、窓の外を眺めていた。

「座ってくれ」

「失礼します」

 

 私は椅子に腰を下ろすと、社長は振り返り、単刀直入に言った。

「……真木と交際しているというのは、本当だな?」

「はい」

「人事には、すでに“対応協議中”との報告が来ている。
 部署異動、または配置転換の可能性を含めて検討しているようだ」

「……はい」

「で、君自身はどうしたい?」

 

 社長の問いかけは、穏やかながら、鋭かった。

 私は、まっすぐに彼の目を見て答えた。

「私は、キャリアを捨てたくありません。
 でも、陽翔との関係も、仕事の延長や感情の甘えではなく、“本気の恋愛”として大切にしたいです」

 

 社長はしばし黙り、指先でカップを回していた。
 そして、ふっと短く息を吐いた。

 

「……君らしいな」

 

 彼は、机に置いていた小さなファイルを取り出して、こちらに差し出した。

「これは、“新規プロジェクトチーム”の立ち上げ計画だ。
 社外と連携した営業研修事業の推進役として、真木を含む数名を選出するつもりだった」

「……え?」

「そのままでは上司部下の関係が続くが、プロジェクト内では“横並び”の扱いになる。
 名目上は“業務ローテーション”だが、実質的に、君たちの関係に干渉しない配置に調整できる」

 

 私は、言葉を失った。

「……それって、社長の采配、ですか?」

「個人感情で動いたら組織は壊れる。
 でも、優秀な人材を守るために仕組みを作るのは、俺の仕事だ」

 

 言葉の奥には、どこか玲奈さんの影がちらつく。
 彼女の息子と、私のことを、社長は本気で“応援”してくれているのだろう。

 

 「黒瀬。大人の恋ってのは、失うことじゃない。“選ぶこと”なんだ。
  その選択を背負えるなら――誰も何も言わなくなる。それが社会だ」

 

 私は深く頭を下げた。

「ありがとうございます」

「ただし」

 社長は、視線を鋭くした。

「その関係を仕事に持ち込んだら、次は容赦しない。
 “公私混同”ではなく、“両立”を証明してみせろ。それが君たちの“答え”だ」

 

「――はい、必ず」

 

***

 

 その日の夕方。
 プロジェクトチームの人選発表と同時に、陽翔の異動が発表された。

 社内はざわついたが、「昇格候補としての経験値強化」という名目に誰も異を唱えなかった。

 私はデスクの引き出しを開けながら、少し笑った。

 ――これが、“社会人としての恋愛”のやり方なんだ。

 

***

 

 夜。帰宅して夕食の準備をしていると、陽翔がいつものようにリビングに現れた。

「美月さん。聞きました、俺、プロジェクト配属ですって」

「うん。知ってる」

「これって……“一緒にいるための道”ですよね?」

「そう。社長が“それくらいの覚悟があるなら、選ばせてやる”って言ってくれたの」

 

 陽翔は、嬉しそうに笑いながら、私の手をぎゅっと握った。

 

「……俺、間違ってなかったんですね。
 “美月さんを選んで、全力で守ろう”って決めたこと」

「うん。あんたの選択が、ちゃんと未来を作ったんだよ」

 

 その夜、ふたりで乾杯したワインの味は、
 甘いでも苦いでもなく、ただ、誇らしかった。

 

(つづく)
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