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第26話 「社内に交際がバレる!?美月のキャリアと恋の板挟み」
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月曜日の朝。
会社のフロアの空気が、いつもよりザワついていた。
私は何となく嫌な予感を抱えながらも、平然を装ってデスクに向かう。
ところが数分後――
「黒瀬主任、ちょっといいですか?」
声をかけてきたのは、人事部の**堤(つつみ)**だった。
いかにも“社内の空気を読むプロ”というタイプで、本人も噂話は好きではないと言いながら、その実、誰より早く情報を把握している。
応接室に連れていかれ、堤は眉根を寄せたまま、小さな声で言った。
「……あの、これは一応、非公式な確認ですけど」
「はい」
「真木くんと、黒瀬さん。
プライベートでお付き合いされてますか?」
――ああ、ついに来たか。
私は静かに目を閉じて、一呼吸置いた。
「……はい。“交際してます”。事実です」
堤は驚いたように目を見開いたあと、小さくため息をついた。
「黒瀬さん、あなたは部下の教育においても実績のある社員です。
でも、この件は**“上司と部下の私的関係”**として社内で問題視される可能性があります」
(分かってるよ、それくらい――)
「もちろん、交際が“即NG”というわけではありません。ただ……今の空気を考えると、
“公私混同”だ、“主任の立場を利用した”などと、曲解されるリスクが高い」
堤の言葉は、あくまで冷静で、事務的だった。
でも、それがかえって私の胸を冷たく締め付けた。
「……つまり、何が言いたいんですか?」
「人事としては、場合によっては“部署異動”を提案することになるかもしれません。
交際継続を望まれるなら、黒瀬さんと真木くん、どちらかが“業務上の接点を持たない配置”に移動することも含めて、検討を――」
「待ってください」
私の声が、堤の言葉をさえぎった。
「それは……“私がキャリアを諦めること”も、視野に入れておけってことですか?」
「いえ、もちろん一方的に負担を求める意図では――」
「でも、現実問題、“女性側が責任を問われる”構図、社内で何度も見てきました。
あたし、そういうの、一番やりたくなかったんです」
堤は黙った。
私は椅子の背にもたれかかり、視線を天井に向ける。
(……やっぱり、“恋愛”って、仕事とは別にできるものじゃないんだな)
(あんたと“本気”で向き合うって決めたのに、今度はこの立場がそれを邪魔する)
***
午後。
会議のあと、資料整理をしていた私に、陽翔がこっそり耳打ちした。
「……なんか、主任、呼び出されたって聞きました。大丈夫ですか?」
私は少しだけ笑って答える。
「大丈夫。よくあるやつよ。“上司と部下の恋愛”ってやつ」
「……すみません。俺のせいで」
「違う。誰のせいでもない。ただ、そういう立場を選んだだけ」
陽翔は俯いたあと、思い詰めたように言った。
「じゃあ、俺、異動します。
会社に話します。“黒瀬主任とは対等な立場でいたい”って。
主任がキャリアを失うようなこと、絶対させません」
私は彼の手を掴んで言った。
「それこそ、“誰かのために犠牲になる”やり方よ。
あたしは、そんなの望んでない。私の人生は、私が決める」
「……でも」
「だから、一緒に考えて。
お互いのキャリアも、気持ちも、どっちも守れる道を」
彼は力強く頷いた。
「はい。約束します。
俺たちの関係を、ちゃんと“続けられる形”で示します。
そのために、どんな手段でも考えるから」
***
夜。帰宅後。
リビングでワインを飲みながら、私はぽつりと呟いた。
「……恋をすると、何かを失うこともあるんだね」
「……でも、美月さん」
「ん?」
「あなたと恋をして、俺は失うどころか、世界が広がったと思ってます」
私はその言葉に、グラスを持つ手がわずかに震えるのを感じた。
そうだ。
私は何かを諦めたくて恋をしたんじゃない。
“誰かと一緒に、生きる未来”を、ちゃんと選びたかったんだ。
(つづく)
会社のフロアの空気が、いつもよりザワついていた。
私は何となく嫌な予感を抱えながらも、平然を装ってデスクに向かう。
ところが数分後――
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声をかけてきたのは、人事部の**堤(つつみ)**だった。
いかにも“社内の空気を読むプロ”というタイプで、本人も噂話は好きではないと言いながら、その実、誰より早く情報を把握している。
応接室に連れていかれ、堤は眉根を寄せたまま、小さな声で言った。
「……あの、これは一応、非公式な確認ですけど」
「はい」
「真木くんと、黒瀬さん。
プライベートでお付き合いされてますか?」
――ああ、ついに来たか。
私は静かに目を閉じて、一呼吸置いた。
「……はい。“交際してます”。事実です」
堤は驚いたように目を見開いたあと、小さくため息をついた。
「黒瀬さん、あなたは部下の教育においても実績のある社員です。
でも、この件は**“上司と部下の私的関係”**として社内で問題視される可能性があります」
(分かってるよ、それくらい――)
「もちろん、交際が“即NG”というわけではありません。ただ……今の空気を考えると、
“公私混同”だ、“主任の立場を利用した”などと、曲解されるリスクが高い」
堤の言葉は、あくまで冷静で、事務的だった。
でも、それがかえって私の胸を冷たく締め付けた。
「……つまり、何が言いたいんですか?」
「人事としては、場合によっては“部署異動”を提案することになるかもしれません。
交際継続を望まれるなら、黒瀬さんと真木くん、どちらかが“業務上の接点を持たない配置”に移動することも含めて、検討を――」
「待ってください」
私の声が、堤の言葉をさえぎった。
「それは……“私がキャリアを諦めること”も、視野に入れておけってことですか?」
「いえ、もちろん一方的に負担を求める意図では――」
「でも、現実問題、“女性側が責任を問われる”構図、社内で何度も見てきました。
あたし、そういうの、一番やりたくなかったんです」
堤は黙った。
私は椅子の背にもたれかかり、視線を天井に向ける。
(……やっぱり、“恋愛”って、仕事とは別にできるものじゃないんだな)
(あんたと“本気”で向き合うって決めたのに、今度はこの立場がそれを邪魔する)
***
午後。
会議のあと、資料整理をしていた私に、陽翔がこっそり耳打ちした。
「……なんか、主任、呼び出されたって聞きました。大丈夫ですか?」
私は少しだけ笑って答える。
「大丈夫。よくあるやつよ。“上司と部下の恋愛”ってやつ」
「……すみません。俺のせいで」
「違う。誰のせいでもない。ただ、そういう立場を選んだだけ」
陽翔は俯いたあと、思い詰めたように言った。
「じゃあ、俺、異動します。
会社に話します。“黒瀬主任とは対等な立場でいたい”って。
主任がキャリアを失うようなこと、絶対させません」
私は彼の手を掴んで言った。
「それこそ、“誰かのために犠牲になる”やり方よ。
あたしは、そんなの望んでない。私の人生は、私が決める」
「……でも」
「だから、一緒に考えて。
お互いのキャリアも、気持ちも、どっちも守れる道を」
彼は力強く頷いた。
「はい。約束します。
俺たちの関係を、ちゃんと“続けられる形”で示します。
そのために、どんな手段でも考えるから」
***
夜。帰宅後。
リビングでワインを飲みながら、私はぽつりと呟いた。
「……恋をすると、何かを失うこともあるんだね」
「……でも、美月さん」
「ん?」
「あなたと恋をして、俺は失うどころか、世界が広がったと思ってます」
私はその言葉に、グラスを持つ手がわずかに震えるのを感じた。
そうだ。
私は何かを諦めたくて恋をしたんじゃない。
“誰かと一緒に、生きる未来”を、ちゃんと選びたかったんだ。
(つづく)
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