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第25話 「陽翔、手料理と“キスの練習”」
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土曜日の夜。
私は久々に、**「女としての緊張感」**というものを味わっていた。
午前中からソワソワして落ち着かず、午後になってからは洋服のチョイスだけで30分も迷い、最終的には無難なニットワンピに落ち着いた。
理由は一つ。
――今夜は、**陽翔の“恋人としてのディナー”**の日だから。
リビングの扉の向こうからは、香ばしいバターとハーブの香りが漂ってくる。
彼は料理中、私にキッチンへの立ち入りを禁止した。
「ダメです。今日は俺の時間なんで」
「なんなのそれ。フレンチの厨房かよ」
「うちの母が、“料理は感性のステージだから黙って見守れ”って――」
「……やっぱママ語録はまだ生きてるんだね」
でもその口ぶりも、もう“依存”ではなく“感謝”として聞こえるようになっていた。
***
そして19時。
食卓には、本格的なチキンのハーブソテーと、彩り豊かなラタトゥイユ、ガーリックバターライス、手作りティラミスが並んでいた。
「……ちょっと待って、どこで覚えたのこれ」
「YouTubeと、うちの母の手書きレシピです」
「ママ、万能かよ」
「その“ママ”って言い方、最近少し照れるんですよね。
前は当たり前に呼んでたけど、今は……美月さんの前では言いたくない」
その言葉に、思わず私は胸を押さえたくなった。
彼が変わったことは知っていた。
でも、“こんなところ”に変化が表れるなんて。
「乾杯、しよっか」
「はい」
グラスが軽く鳴った。
白ワインの柔らかな香りが鼻先をくすぐる。
食事は、どれも本当に美味しくて、
笑いながら、ちょっとした話題で盛り上がって、気づけばワインも二杯目。
***
食後、後片付けを手分けして終えると、リビングのソファで並んで映画を観ることになった。
ラブコメの途中、主人公たちが甘いキスを交わすシーン。
私は一口ワインを飲んだまま、無意識に息を止めていた。
そして――その瞬間。
「……ねぇ、美月さん」
「ん?」
「……キスの練習、してみませんか?」
「ぶっ……なっ、なにを急に言い出すの!? 練習ってなに!?」
「いや、だって……もう恋人なのに、まだ触れてすらないの、変じゃないですか?」
「それは……そ、そうだけど……! 練習って言い方がさ!」
陽翔は少し顔を赤らめながら、それでも真剣に言った。
「俺、キスしたことないんです。
だから、美月さんと“初めて”をちゃんとしたい。
怖くないように、驚かせないように、大切にしたいから“練習”って言いました」
彼の言葉は、どこまでも真面目で、どこまでも優しかった。
私は心臓を押さえながら、そっと息を吐いた。
「……ほんとに、あんたって、なんでそんな真っ直ぐなのよ」
「ずるくできないんです。
でも、ずっと言いたかったんです。“触れたい”って。ちゃんと、恋人として」
私は頷いた。
「……じゃあ、“練習”ね。1回だけ」
「ほんとに?……うれしい」
彼はゆっくりと私に顔を近づけた。
その動きに急かすようなものはなく、
目をそらすことも、誤魔化すこともなく。
そして――唇が、そっと、私に触れた。
それは、たしかに“練習”だったのかもしれない。
でも、緊張と、愛しさと、誠実さがすべて詰まった、
この上なく“本物”のキスだった。
離れたあと、陽翔は少し照れたように笑って言った。
「……次は、練習じゃなくて、“本番”にします」
「……次ってなによ」
「今度、“美月さんの方から”してもらえるように頑張ります」
「うわ、調子乗ったなこいつ……!」
でも私は、笑いながら思っていた。
この人と、ちゃんと“恋愛”していける。
年齢とか、過去とか、全部を越えて――ちゃんと、未来を作っていける。
(つづく)
私は久々に、**「女としての緊張感」**というものを味わっていた。
午前中からソワソワして落ち着かず、午後になってからは洋服のチョイスだけで30分も迷い、最終的には無難なニットワンピに落ち着いた。
理由は一つ。
――今夜は、**陽翔の“恋人としてのディナー”**の日だから。
リビングの扉の向こうからは、香ばしいバターとハーブの香りが漂ってくる。
彼は料理中、私にキッチンへの立ち入りを禁止した。
「ダメです。今日は俺の時間なんで」
「なんなのそれ。フレンチの厨房かよ」
「うちの母が、“料理は感性のステージだから黙って見守れ”って――」
「……やっぱママ語録はまだ生きてるんだね」
でもその口ぶりも、もう“依存”ではなく“感謝”として聞こえるようになっていた。
***
そして19時。
食卓には、本格的なチキンのハーブソテーと、彩り豊かなラタトゥイユ、ガーリックバターライス、手作りティラミスが並んでいた。
「……ちょっと待って、どこで覚えたのこれ」
「YouTubeと、うちの母の手書きレシピです」
「ママ、万能かよ」
「その“ママ”って言い方、最近少し照れるんですよね。
前は当たり前に呼んでたけど、今は……美月さんの前では言いたくない」
その言葉に、思わず私は胸を押さえたくなった。
彼が変わったことは知っていた。
でも、“こんなところ”に変化が表れるなんて。
「乾杯、しよっか」
「はい」
グラスが軽く鳴った。
白ワインの柔らかな香りが鼻先をくすぐる。
食事は、どれも本当に美味しくて、
笑いながら、ちょっとした話題で盛り上がって、気づけばワインも二杯目。
***
食後、後片付けを手分けして終えると、リビングのソファで並んで映画を観ることになった。
ラブコメの途中、主人公たちが甘いキスを交わすシーン。
私は一口ワインを飲んだまま、無意識に息を止めていた。
そして――その瞬間。
「……ねぇ、美月さん」
「ん?」
「……キスの練習、してみませんか?」
「ぶっ……なっ、なにを急に言い出すの!? 練習ってなに!?」
「いや、だって……もう恋人なのに、まだ触れてすらないの、変じゃないですか?」
「それは……そ、そうだけど……! 練習って言い方がさ!」
陽翔は少し顔を赤らめながら、それでも真剣に言った。
「俺、キスしたことないんです。
だから、美月さんと“初めて”をちゃんとしたい。
怖くないように、驚かせないように、大切にしたいから“練習”って言いました」
彼の言葉は、どこまでも真面目で、どこまでも優しかった。
私は心臓を押さえながら、そっと息を吐いた。
「……ほんとに、あんたって、なんでそんな真っ直ぐなのよ」
「ずるくできないんです。
でも、ずっと言いたかったんです。“触れたい”って。ちゃんと、恋人として」
私は頷いた。
「……じゃあ、“練習”ね。1回だけ」
「ほんとに?……うれしい」
彼はゆっくりと私に顔を近づけた。
その動きに急かすようなものはなく、
目をそらすことも、誤魔化すこともなく。
そして――唇が、そっと、私に触れた。
それは、たしかに“練習”だったのかもしれない。
でも、緊張と、愛しさと、誠実さがすべて詰まった、
この上なく“本物”のキスだった。
離れたあと、陽翔は少し照れたように笑って言った。
「……次は、練習じゃなくて、“本番”にします」
「……次ってなによ」
「今度、“美月さんの方から”してもらえるように頑張ります」
「うわ、調子乗ったなこいつ……!」
でも私は、笑いながら思っていた。
この人と、ちゃんと“恋愛”していける。
年齢とか、過去とか、全部を越えて――ちゃんと、未来を作っていける。
(つづく)
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