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第24話 「“付き合う”ということ、美月の不安と陽翔の提案」
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日曜の朝。
陽翔と私は、ふたりで朝食のテーブルを囲んでいた。
厚切りトーストにスクランブルエッグ、そして丁寧にドリップされたコーヒー。
前よりずっと“自然なふたり暮らし”になっているのが分かる。
――だけど、今日は空気がどこか違っていた。
私の胸の奥に、小さく引っかかるものがある。
「……ねえ、陽翔」
「はい?」
「付き合い始めたって言っても……このまま“なんとなく一緒に住んでる”感じでいいの?」
「うーん、実は俺も、それ考えてました」
「え?」
陽翔はフォークを置き、いつになく真剣な顔をした。
「俺たちって、仕事でも上司と部下で、家でも恋人になったばかりで……
だから余計に、“境界線”をちゃんと引いたほうがいい気がするんです」
「境界線?」
「はい。たとえば、“ここからは仕事の時間”、
“ここからはプライベート”、
“同居人としての距離”と、“恋人としての時間”をちゃんと分ける」
「……なるほど」
「美月さんに、仕事の顔で見られるだけじゃなくて、恋人としての顔で見てほしいから」
ああ、この子……もう、完全に“彼氏”なんだな。
たった1ヶ月前まで、“ママが、ママが”って言ってたのに。
いまの彼からは、“ママ”という単語はまったく聞かれなくなっていた。
代わりに時々だけ、自然にこう言う。
――「あ、それ母がよく作ってました」
――「母に、この間報告したら笑ってました」
そこには、もう“依存”の影はない。
ただ、“大人の息子”としての、自然な距離がある。
「……でもね」
私は、少しだけ声を落として言った。
「私、正直に言うと、“年齢差”が怖いの。
私、来年39。陽翔は26。10以上も違う。
この先の未来、あんたが後悔しないかって思うと……本気で不安になる」
陽翔は、静かに私の手を握った。
その手は、あたたかくて、でも少し汗ばんでいた。きっと、彼も緊張していたのだ。
「……俺、本気で言いますね」
「うん」
「俺にとって、“何歳か”は関係ないです。
俺が惹かれたのは、“今の美月さん”であって、“年齢”じゃない。
10年後、20年後も、“美月さんが美月さんでいてくれる”なら、俺はそれでいいです」
彼の目は、まっすぐだった。
「それに、もし俺が何かに迷った時、美月さんがいるなら大丈夫って、そう思える。
その感覚に、年齢なんか関係ないって、本気で思ってます」
私は――たまらなくなって、少しだけ涙が出た。
恥ずかしいから、テーブルの上のコーヒーカップに視線を落とす。
「もう、ズルいよ。そんな言い方されたら……こっちが泣くに決まってる」
「泣かせたかったわけじゃないんですけど……」
「泣くほど、嬉しいんだよ」
***
午後、ふたりでスーパーに買い出しに行った帰り道。
いつもの商店街を並んで歩きながら、陽翔がふっと笑った。
「……母がね、言ってたんですよ」
「ん?」
「“女は若さじゃない。目の奥に“強さと優しさ”を持ってる人がいちばん魅力的”って」
「……なんか、玲奈さんが言うと説得力あるわ」
「“美月ちゃんは、目がいい。あれは、選ばれし者の目”だそうです」
「何それ、うさんくさ……」
でも、笑いながら、私は少しだけ涙ぐんでいた。
私が“年齢”という鎧をまとっていたことを、
あのママは、とっくに見抜いていたんだ。
***
その夜、夕食後のソファ。
陽翔は、私の膝を枕にして寝転びながら、スマホでレシピ動画を見ていた。
「……ねえ、次の週末、俺が夜ご飯作ってもいいですか?」
「え? いいけど」
「ちゃんと、**“恋人としての時間”**にしたいんです。
お酒もちょっと用意して、あとは……」
彼が何か続きを言おうとして、照れて口を閉じた。
「“あとは”なによ?」
「……それは、その時に」
私の胸は、また少しだけ高鳴った。
(恋人になったって、まだまだ“距離を縮める”って、こういうことなんだな)
私たちは、ようやく今、
“本当の意味で一歩目”を踏み出したばかりなんだ。
(つづく)
陽翔と私は、ふたりで朝食のテーブルを囲んでいた。
厚切りトーストにスクランブルエッグ、そして丁寧にドリップされたコーヒー。
前よりずっと“自然なふたり暮らし”になっているのが分かる。
――だけど、今日は空気がどこか違っていた。
私の胸の奥に、小さく引っかかるものがある。
「……ねえ、陽翔」
「はい?」
「付き合い始めたって言っても……このまま“なんとなく一緒に住んでる”感じでいいの?」
「うーん、実は俺も、それ考えてました」
「え?」
陽翔はフォークを置き、いつになく真剣な顔をした。
「俺たちって、仕事でも上司と部下で、家でも恋人になったばかりで……
だから余計に、“境界線”をちゃんと引いたほうがいい気がするんです」
「境界線?」
「はい。たとえば、“ここからは仕事の時間”、
“ここからはプライベート”、
“同居人としての距離”と、“恋人としての時間”をちゃんと分ける」
「……なるほど」
「美月さんに、仕事の顔で見られるだけじゃなくて、恋人としての顔で見てほしいから」
ああ、この子……もう、完全に“彼氏”なんだな。
たった1ヶ月前まで、“ママが、ママが”って言ってたのに。
いまの彼からは、“ママ”という単語はまったく聞かれなくなっていた。
代わりに時々だけ、自然にこう言う。
――「あ、それ母がよく作ってました」
――「母に、この間報告したら笑ってました」
そこには、もう“依存”の影はない。
ただ、“大人の息子”としての、自然な距離がある。
「……でもね」
私は、少しだけ声を落として言った。
「私、正直に言うと、“年齢差”が怖いの。
私、来年39。陽翔は26。10以上も違う。
この先の未来、あんたが後悔しないかって思うと……本気で不安になる」
陽翔は、静かに私の手を握った。
その手は、あたたかくて、でも少し汗ばんでいた。きっと、彼も緊張していたのだ。
「……俺、本気で言いますね」
「うん」
「俺にとって、“何歳か”は関係ないです。
俺が惹かれたのは、“今の美月さん”であって、“年齢”じゃない。
10年後、20年後も、“美月さんが美月さんでいてくれる”なら、俺はそれでいいです」
彼の目は、まっすぐだった。
「それに、もし俺が何かに迷った時、美月さんがいるなら大丈夫って、そう思える。
その感覚に、年齢なんか関係ないって、本気で思ってます」
私は――たまらなくなって、少しだけ涙が出た。
恥ずかしいから、テーブルの上のコーヒーカップに視線を落とす。
「もう、ズルいよ。そんな言い方されたら……こっちが泣くに決まってる」
「泣かせたかったわけじゃないんですけど……」
「泣くほど、嬉しいんだよ」
***
午後、ふたりでスーパーに買い出しに行った帰り道。
いつもの商店街を並んで歩きながら、陽翔がふっと笑った。
「……母がね、言ってたんですよ」
「ん?」
「“女は若さじゃない。目の奥に“強さと優しさ”を持ってる人がいちばん魅力的”って」
「……なんか、玲奈さんが言うと説得力あるわ」
「“美月ちゃんは、目がいい。あれは、選ばれし者の目”だそうです」
「何それ、うさんくさ……」
でも、笑いながら、私は少しだけ涙ぐんでいた。
私が“年齢”という鎧をまとっていたことを、
あのママは、とっくに見抜いていたんだ。
***
その夜、夕食後のソファ。
陽翔は、私の膝を枕にして寝転びながら、スマホでレシピ動画を見ていた。
「……ねえ、次の週末、俺が夜ご飯作ってもいいですか?」
「え? いいけど」
「ちゃんと、**“恋人としての時間”**にしたいんです。
お酒もちょっと用意して、あとは……」
彼が何か続きを言おうとして、照れて口を閉じた。
「“あとは”なによ?」
「……それは、その時に」
私の胸は、また少しだけ高鳴った。
(恋人になったって、まだまだ“距離を縮める”って、こういうことなんだな)
私たちは、ようやく今、
“本当の意味で一歩目”を踏み出したばかりなんだ。
(つづく)
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