私の部下 ~マザコンでしたが、今では恋人で、夫です。

naomikoryo

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第30話(最終話) 「“好き”を貫くということ」

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 月曜の午後。
 社内会議室では、新規プロジェクトチームの中間報告ミーティングが行われていた。

 進行役は陽翔。
 スーツ姿に落ち着いた声。資料説明も的確で、堂々とした振る舞い。

 ――たぶん誰も、彼が“かつてのマザコン新人”だったとは思っていないだろう。

 

 会議の終盤。
 進捗報告の区切りがついたその瞬間、彼は手元の資料をそっと閉じた。

 

「……最後に、個人的な話をさせてください」

 ざわっと、室内の空気が動く。

 

「私、真木陽翔は、黒瀬美月主任と――現在、交際しています」

 完全な静寂。

 時計の秒針だけが、妙に耳に残る。

「これは社内恋愛にあたりますが、
 業務に影響を及ぼさぬよう、配置変更とプロジェクト分担にて対応済みです。
 また、関係性を“組織の負債”ではなく“信用と成果”で証明する所存です」

 

 真っすぐで、堂々とした声だった。

 私は隣の席で、深く息を吸い――立ち上がった。

 

「私からもご報告があります」

「黒瀬さん……?」

「彼の言葉は事実です。
 そして、私もこの関係を、恥ずかしいものではなく、
 “ちゃんと築きあげたもの”として、胸を張って伝えたいと思っています」

 

 一瞬の沈黙のあと――

 数名の拍手が起こり、それが徐々に広がっていった。

「おめでとうございます!」
「……隠してたって、バレバレでしたけどね~」
「ようやく言ったなって感じです」
「黒瀬主任、最高です!」

 

 笑いが漏れ、陽翔がホッとしたように肩を落とした。

 

 私は彼の背中を軽く叩いた。

「ほら、やればできるじゃない。優等生くん」

「……まさか“公認カップル”になる日が来るとは」

「このまま社内報のネタにされるわよ」

「それは……ちょっと恥ずかしいです」

 

***

 

 その日の夕方。
 オフィスを出て、会社近くのカフェでふたりきり。

 カフェラテと紅茶を並べながら、私は陽翔に尋ねた。

 

「……後悔してない? 若いのに、こんな道選んじゃって」

「後悔なんか、ひとつもないです」

 

 彼は即答だった。

 

「僕、最初は“あなたに甘えたい”って気持ちだけでした。
 でも今は、“あなたと並びたい”。同じ高さで、同じ未来を見ていたいんです」

 

 私はカップを持つ手をぎゅっと握りしめた。

「……じゃあ、覚悟、しておきなさいよ。
 この先、私はシワもシミも増えるし、白髪も絶対に出る」

「そのたびに、俺が全部覚えておきます。
 “あのとき美月さんはどんな笑顔だったか”って」

「……ズルいな、あんた」

「ずるくないです。これは、全部本気です」

 

 陽翔の手が、テーブルの下でそっと私の指を絡める。

 

 交際を選んだ日。
 彼が“ママ”を卒業した日。
 私が“年齢の呪い”から解かれた日。

 ――全部が、今日に繋がっていた。

 

 恋愛って、いびつで、不器用で、時々みっともない。
 でも、本気でぶつかれば、ちゃんと未来を変えていける。

 

 私たちは、あの日出会った“間違ったかもしれない関係”を、
 ちゃんと、“愛”に変えてこれたのだと思う。

 

***

 

 その夜、自宅。

 テレビの音がBGMになっている中、ソファで寄り添っていた私に、
 陽翔がぽつりと呟いた。

 

「……俺、いつかあなたと、結婚したいです」

「……なんでまた急に」

「いや、今すぐじゃなくていいんです。
 でも、“いつか”を一緒に考えられるって、幸せなことだなって思ったから」

 

 私は何も言わず、彼の肩に頭を預けた。

 涙が、こぼれそうになる。

 でも、それは――悲しみじゃない。

 人生の中で、“ちゃんと好きになれて良かった”と思える恋が、いま、ここにある。

 

 そして私は思う。

 

 恋に落ちたのが、“ママ大好きな年下部下”だったことも。
 そこから逃げなかった自分のことも。
 全部、誇っていい。

 

 だから、胸を張って言える。

 

 私の部下は、私の恋人になりました。
 そして彼は、世界でいちばん素直で、強くて、愛しい“男”です。

 

(完)
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