31 / 31
エピローグ 「私の名字が“真木”になった日」
しおりを挟む
式当日、空は晴れていた。
季節は秋。風は軽く、木々はやわらかい金色に染まりかけていて、
どこか穏やかで、幸福の予兆のような空気に包まれていた。
結婚式場の控え室、私は真っ白なウェディングドレスの裾を少し直して、鏡の中の自分を見つめていた。
白が、似合う年齢じゃないかも。
そんなことを、ほんの少しだけ思ったけれど――
鏡の中の私は、ちゃんと笑っていた。
扉の向こうでノックが鳴る。
「失礼します。新郎の方が……お待ちです」
入ってきたのは、陽翔だった。
黒いタキシード姿。
25歳だった彼も、今では30を越えた。
だけど、変わったようで変わらない。
あの日みたいに、まっすぐな目で私を見て――
「美月さん、綺麗すぎます。……マジで、すごいです」
「そりゃあもう、プロが総力を挙げてるからね」
「でも、この笑顔はプロじゃ作れない。
俺の知ってる美月さんの、いちばん綺麗な顔です」
ふと、あの頃の記憶がよぎる。
“恋人として交際を始めます”と発表した、あの会議室。
社内をざわつかせ、上司と部下という立場に葛藤し、
それでも、選び続けた“お互い”という関係。
そして今日、私は“黒瀬美月”ではなく、“真木美月”になる。
「ねえ、陽翔」
「はい」
「私、名字変わるの……ちょっとだけ寂しいなって思ってた」
「……え?」
「でもね。陽翔の隣に立つ自分の名前を見たとき、“あ、これでいいんだ”って思えたの。
これからも、“あたしでよかった”って言わせてね」
陽翔は、少し照れながらも、優しく私の手を取った。
「言わせますよ。
だって、俺の中ではずっと、“美月さんでしかダメ”だったから」
それは、嘘のない言葉だった。
10歳以上の年齢差。
会社の噂、キャリアの不安、母親との関係。
あらゆる壁を、ふたりで乗り越えてきた。
今なら、ちゃんと言える。
“年下だから”なんて関係ない。
“年上だから”なんてもう怖くない。
私たちは、お互いを尊重し、必要として、愛し続ける――対等な恋人で、人生のパートナーだ。
***
式の後。
披露宴会場で、ひときわ派手な声が響いた。
「うっわ~! 美月ちゃん、ほんっとに嫁感すごいじゃん!?
陽翔、こんな綺麗な奥さんもらって、ママ感動ぉ~!」
そう、ギャルママ・玲奈さんは、誰より目立つドレスで登場した。
「……玲奈さん、白いドレスって花嫁しか着ないって知ってます?」
「だって~、“息子の結婚=第二の人生スタート”じゃん?」
「……発想が強すぎる」
玲奈さんは、披露宴の途中でマイクを奪い、
「はい、真木家からの祝辞いっきま~す☆」
と宣言し、なぜか会場を爆笑の渦に巻き込んだ。
“愛とはまず自分を愛すこと”
“結婚とは相手を崇拝しすぎない距離感”
“息子に勝てるのは嫁だけよ♡”
名言(迷言)オンパレード。
でもその中に、ちゃんとあった。
「陽翔が、“ママ”って呼ばなくなったとき、
本当の意味で大人になったって分かった。
でも、私は今でも思ってるの。
“陽翔の心の半分は、美月ちゃんにあげて、残り半分は、ママにちょーだい♡”ってね!」
――本当に、最高の母親だ。
***
夜。式も披露宴も終わり、自宅に戻ったあと。
私は新しい戸籍謄本を手にしていた。
“真木美月”。
不思議と、しっくりきた。
陽翔が隣で、スーツのネクタイを緩めながら言った。
「結婚しても、たぶんずっと“美月さん”って呼びます。
“嫁”とか“奥さん”とかじゃなくて、“あなた”のままがいい」
私は彼の肩にもたれて、目を閉じる。
「いいよ。あんたがそう言うなら、“美月さん”でいてあげる」
静かな夜の中で、ふたりの影が重なった。
――これから何年経っても。
変わらないものがある。
それは、“一緒にいたい”と願い続ける、この想い。
(エピローグ・完)
季節は秋。風は軽く、木々はやわらかい金色に染まりかけていて、
どこか穏やかで、幸福の予兆のような空気に包まれていた。
結婚式場の控え室、私は真っ白なウェディングドレスの裾を少し直して、鏡の中の自分を見つめていた。
白が、似合う年齢じゃないかも。
そんなことを、ほんの少しだけ思ったけれど――
鏡の中の私は、ちゃんと笑っていた。
扉の向こうでノックが鳴る。
「失礼します。新郎の方が……お待ちです」
入ってきたのは、陽翔だった。
黒いタキシード姿。
25歳だった彼も、今では30を越えた。
だけど、変わったようで変わらない。
あの日みたいに、まっすぐな目で私を見て――
「美月さん、綺麗すぎます。……マジで、すごいです」
「そりゃあもう、プロが総力を挙げてるからね」
「でも、この笑顔はプロじゃ作れない。
俺の知ってる美月さんの、いちばん綺麗な顔です」
ふと、あの頃の記憶がよぎる。
“恋人として交際を始めます”と発表した、あの会議室。
社内をざわつかせ、上司と部下という立場に葛藤し、
それでも、選び続けた“お互い”という関係。
そして今日、私は“黒瀬美月”ではなく、“真木美月”になる。
「ねえ、陽翔」
「はい」
「私、名字変わるの……ちょっとだけ寂しいなって思ってた」
「……え?」
「でもね。陽翔の隣に立つ自分の名前を見たとき、“あ、これでいいんだ”って思えたの。
これからも、“あたしでよかった”って言わせてね」
陽翔は、少し照れながらも、優しく私の手を取った。
「言わせますよ。
だって、俺の中ではずっと、“美月さんでしかダメ”だったから」
それは、嘘のない言葉だった。
10歳以上の年齢差。
会社の噂、キャリアの不安、母親との関係。
あらゆる壁を、ふたりで乗り越えてきた。
今なら、ちゃんと言える。
“年下だから”なんて関係ない。
“年上だから”なんてもう怖くない。
私たちは、お互いを尊重し、必要として、愛し続ける――対等な恋人で、人生のパートナーだ。
***
式の後。
披露宴会場で、ひときわ派手な声が響いた。
「うっわ~! 美月ちゃん、ほんっとに嫁感すごいじゃん!?
陽翔、こんな綺麗な奥さんもらって、ママ感動ぉ~!」
そう、ギャルママ・玲奈さんは、誰より目立つドレスで登場した。
「……玲奈さん、白いドレスって花嫁しか着ないって知ってます?」
「だって~、“息子の結婚=第二の人生スタート”じゃん?」
「……発想が強すぎる」
玲奈さんは、披露宴の途中でマイクを奪い、
「はい、真木家からの祝辞いっきま~す☆」
と宣言し、なぜか会場を爆笑の渦に巻き込んだ。
“愛とはまず自分を愛すこと”
“結婚とは相手を崇拝しすぎない距離感”
“息子に勝てるのは嫁だけよ♡”
名言(迷言)オンパレード。
でもその中に、ちゃんとあった。
「陽翔が、“ママ”って呼ばなくなったとき、
本当の意味で大人になったって分かった。
でも、私は今でも思ってるの。
“陽翔の心の半分は、美月ちゃんにあげて、残り半分は、ママにちょーだい♡”ってね!」
――本当に、最高の母親だ。
***
夜。式も披露宴も終わり、自宅に戻ったあと。
私は新しい戸籍謄本を手にしていた。
“真木美月”。
不思議と、しっくりきた。
陽翔が隣で、スーツのネクタイを緩めながら言った。
「結婚しても、たぶんずっと“美月さん”って呼びます。
“嫁”とか“奥さん”とかじゃなくて、“あなた”のままがいい」
私は彼の肩にもたれて、目を閉じる。
「いいよ。あんたがそう言うなら、“美月さん”でいてあげる」
静かな夜の中で、ふたりの影が重なった。
――これから何年経っても。
変わらないものがある。
それは、“一緒にいたい”と願い続ける、この想い。
(エピローグ・完)
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。
絶対に離婚届に判なんて押さないからな」
既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。
まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。
紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転!
純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。
離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。
それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。
このままでは紘希の弱点になる。
わかっているけれど……。
瑞木純華
みずきすみか
28
イベントデザイン部係長
姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点
おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち
後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない
恋に関しては夢見がち
×
矢崎紘希
やざきひろき
28
営業部課長
一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長
サバサバした爽やかくん
実体は押しが強くて粘着質
秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?
各務課長が「君の時間を十分ください」と言った結果
汐埼ゆたか
恋愛
実花子はカフェで恋人と待ち合わせしているが、彼はなかなか来ない。
あと十分でカフェを出ようとしたところで偶然上司の各務と会う。
各務から出し抜けに「君の時間を十分ください」と言われ、反射的に「はい」と返事をしたら、なぜか恋人役をすることになり――。
*☼*――――――――――*☼*
佐伯 実花子(さえき みかこ) 27歳
文具メーカー『株式会社MAO』企画部勤務
仕事人間で料理は苦手
×
各務 尊(かがみ たける) 30歳
実花子の上司で新人研修時代の指導担当
海外勤務から本社の最年少課長になったエリート
*☼*――――――――――*☼*
『十分』が実花子の運命を思わぬ方向へ変えていく。
――――――――――
※他サイトからの転載
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※無断転載禁止。
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる