先輩、それ絶対わざとじゃないですよね!? 【★25周年カップ 参加作品★】

naomikoryo

文字の大きさ
17 / 39

番外編⑦社会人編・第4話 「風間晴翔、ご挨拶で情報漏洩しすぎ問題」

しおりを挟む
大事な日なのに、胃が全然動かない。
まさか――

 

(親へのご挨拶に、すでにプロポーズ済みで挑む日が来るなんて。)

 

というのも、あの男――風間晴翔は、地元情報番組の生放送中にスーツ&花束&指輪でプロポーズしてくれた、
私の彼氏である。
しかも、全国ネットだった。
同棲中であることも、靴下が勝手に揃ってることも、冷蔵庫ゾーンの話も、全国に流れた。

 

で、今日。
その彼と、私の実家に“結婚のご挨拶”に行く。
すでに挨拶もプロポーズも終わってるのに。
というか、同棲すら、私が「一緒に住むから」と言った時点で、うちの両親はふたつ返事でOKしてくれていた。

 

母なんて「柚葉が靴下揃えてるってテレビで言ってた彼ね、よろしく頼むわ~」と笑っていたし、
父も「まぁ……あんな全国で言ったなら責任取るしかないな」と苦笑しながらうなずいていた。

 

――そう。
両親側は、すでに100%歓迎ムード。
なのに。

 

問題は、風間晴翔本人。

 

彼は、いま――
柚葉家の玄関前で、顔面蒼白&手汗で扉に反射してるレベルで緊張している。

 

「ねぇ……大丈夫?」

 

「……無理かもしれません。」

 

「いや、玄関先で“無理”って言わないで。」

 

「だって、柚葉さんのご両親ですよ?
 僕の人生の審査員みたいなものでしょ?」

 

「審査はとっくに終わってます。」

 

「え、でも……でも……面接って、毎回ゼロからっていうじゃないですか……!」

 

「これ、面接じゃなくて“家族会議”ですから!」

 

そして、私が背中を押してピンポンを押し、
ガチャッと開いた扉の向こうには、母の笑顔と父のあいまいな笑み。

 

「よく来たねぇ、風間くん。どうぞどうぞ、上がって。」

 

「お、お邪魔します……!」

 

玄関で靴を脱ぐ手が震えていて、
玄関マットに靴を揃えるのに3回やり直してた。
(落ち着け、イケメン……!)

 



 

テーブルには、母の手料理。
さすが母、見た目も味も完璧で、料理上手な晴翔も「すごい……」と目を輝かせていた。

 

会話も順調だった、最初は。

 

母「テレビのプロポーズ、ほんと笑ったわ~!
  あの“靴下の妖精”って表現、最高だったわよ。」

晴翔「ありがとうございます……でもほんと、最初、柚葉さんが妖精だって気づいてなかったんです。」

柚葉「だからそこ掘り下げなくていいから。」

 

父「うちは最初、あんまり細かいこと言わない主義でね。
  娘が“この人がいい”って決めたら、それでいいって思ってるよ。」

晴翔「……うっ(感動)。」

 

柚葉「泣かないで。まだ始まったばっかりだから。」

 

ところが。
ここから、風間晴翔、暴走モード突入。

 

晴翔「でもほんとに……柚葉さんには、毎日助けられてばかりで。
   たとえば、あの……冷蔵庫とか、食事とか、生活の7割くらいは支えてもらってて……。」

 

母「まぁ、仲が良いのねぇ。」

 

晴翔「はい。たとえばこの前も、僕、歯ブラシ持ったまま寝ちゃって、
   朝起きたら口の中ミントで死にそうだったんですけど、
   柚葉さんが“これはもう使い捨てにしよう”って冷静に処理してくれて……」

 

柚葉「……その話はやめよう。」

 

晴翔「あっ、あと、寝言で“冷蔵庫に入りたい”って言ってたらしくて……」

 

母「えっ、どういう夢?」

 

柚葉「知らないです。ていうかそれ、初耳です。」

 

晴翔「え、言わなかったっけ?あと、“靴下の左だけ逃げる”って寝言も……」

 

父「……なかなか個性的だね。」

 

柚葉「ほんとそれなんですよ。」

 

晴翔「あ、でも!柚葉さんは、寝起きが最強に可愛いんですよ!
   こう、目が半開きで、ふにゃってしてて、あれはもう、拝みたくなるというか――」

 

柚葉「やめろ!!!!」

 

完全に脱線した。
プロポーズの挨拶が、冷蔵庫と寝言と寝起き顔の実況中継になってる。

 

(なにしてんのこの人!?)

 

でも、ふと横を見ると――
母が笑いすぎて肩を震わせていた。
父も苦笑しながらも、グラスを置いて、ぽつりと言った。

 

「……まぁ、うちの娘を、毎日笑わせてくれてるなら、それがいちばんだよ。」

 

 

その言葉に、晴翔はぴしっと背筋を伸ばし、深く頭を下げた。

 

「一生、大事にします。
 どんな寝言でも、どんな靴下でも、全部受け止めます。」

 

「うん、それ自分の寝言だけどね。」

 

「はっ……!!」

 

笑いがまた広がる中、私は肩の力が抜けた。
家族になっていくって、きっとこういうことなんだろう。
完璧じゃなくていい。
バカで、天然で、でも、あったかい。
そんな彼となら、きっとやっていける。

 

そして帰り際。

母は、手土産と一緒に、こう言った。

 

「これからも、全国の皆さんに、もっともっと“家の中身”見せてちょうだいね?」

 

「……できれば局外では見せたくないです。」

 

父も笑いながら一言。

 

「たまには寝言、録音して送ってくれ。」

 

「やめて……やめて父さん、それはただの拷問。」

 

でも――
笑い声に包まれた玄関を出る頃には、
晴翔は少し、ホッとした顔をしていた。

 

そして帰り道、手を繋いだまま言う。

 

「……柚葉さんの家族、あったかかったです。」

 

「でしょ?だからって全部さらけ出すのは違うけどね。」

 

「でも、“これが僕です”って受け入れてもらえた気がして、
 ちょっと泣きそうでした。」

 

「うん、泣いてなかったけど、口がゆるんでたね。」

 

「たぶん、感動と一緒にヨダレも出てました。」

 

「帰ったら、うがいして。」

 

私たちの結婚は、もうすぐ。
そして、彼の“天然との戦い”も、きっとずっと続く。

でも、それでいい。
この人となら、きっと、笑いながら歳をとっていける気がするから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

堅物御曹司は真面目女子に秘密の恋をしている

花野未季
恋愛
真面目女子が、やはり真面目で堅物な御曹司と知り合う純愛もの。 サラッと読める短編です♪

国宝級イケメンとのキスは最上級に甘いドルチェみたいに、私をとろけさせます

はなたろう
恋愛
人気アイドルとの秘密の恋愛♡コウキは俳優やモデルとしても活躍するアイドル。クールで優しいけど、ベッドでは少し意地悪でやきもちやき。彼女の美咲を溺愛し、他の男に取られないかと不安になることも。出会いから交際を経て、甘いキスで溶ける日々の物語。 ★みなさまの心にいる、推しを思いながら読んでください ◆出会い編あらすじ 毎日同じ、変わらない。都会の片隅にある植物園で働く美咲。 そこに毎週やってくる、おしゃれで長身の男性。カメラが趣味らい。この日は初めて会話をしたけど、ちょっと変わった人だなーと思っていた。 まさか、その彼が人気アイドル、dulcis〈ドゥルキス〉のメンバーだとは気づきもしなかった。 毎日同じだと思っていた日常、ついに変わるときがきた。 ◆登場人物 佐倉 美咲(25) 公園の管理運営企業に勤める。植物園のスタッフから本社の企画営業部へ異動 天見 光季(27) 人気アイドルグループ、dulcis(ドゥルキス)のメンバー。俳優業で活躍中、自然の写真を撮るのが趣味 お読みいただきありがとうございます! ★番外編はこちらに集約してます。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/411579529/693947517 ★最年少、甘えん坊ケイタとバツイチ×アラサーの恋愛はじめました。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/411579529/408954279

【完結】25年の人生に悔いがあるとしたら

緋水晶
恋愛
最長でも25歳までしか生きられないと言われた女性が20歳になって気づいたやり残したこと、それは…。 今回も猫戸針子様に表紙の文字入れのご協力をいただきました! 是非猫戸様の作品も応援よろしくお願いいたします(*ˊᗜˋ) ※イラスト部分はゲームアプリにて作成しております もう一つの参加作品「私、一目惚れされるの死ぬほど嫌いなんです」もよろしくお願いします(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~

泉南佳那
恋愛
 イケメンカリスマ美容師と内気で地味な書店員との、甘々溺愛ストーリーです!  どうぞお楽しみいただけますように。 〈あらすじ〉  加藤優紀は、現在、25歳の書店員。  東京の中心部ながら、昭和味たっぷりの裏町に位置する「高木書店」という名の本屋を、祖母とふたりで切り盛りしている。  彼女が高木書店で働きはじめたのは、3年ほど前から。  短大卒業後、不動産会社で営業事務をしていたが、同期の、親会社の重役令嬢からいじめに近い嫌がらせを受け、逃げるように会社を辞めた過去があった。  そのことは優紀の心に小さいながらも深い傷をつけた。  人付き合いを恐れるようになった優紀は、それ以来、つぶれかけの本屋で人の目につかない質素な生活に安んじていた。  一方、高木書店の目と鼻の先に、優紀の兄の幼なじみで、大企業の社長令息にしてカリスマ美容師の香坂玲伊が〈リインカネーション〉という総合ビューティーサロンを経営していた。  玲伊は優紀より4歳年上の29歳。  優紀も、兄とともに玲伊と一緒に遊んだ幼なじみであった。  店が近いこともあり、玲伊はしょっちゅう、優紀の本屋に顔を出していた。    子供のころから、かっこよくて優しかった玲伊は、優紀の初恋の人。  その気持ちは今もまったく変わっていなかったが、しがない書店員の自分が、カリスマ美容師にして御曹司の彼に釣り合うはずがないと、その恋心に蓋をしていた。  そんなある日、優紀は玲伊に「自分の店に来て」言われる。  優紀が〈リインカネーション〉を訪れると、人気のファッション誌『KALEN』の編集者が待っていた。  そして「シンデレラ・プロジェクト」のモデルをしてほしいと依頼される。 「シンデレラ・プロジェクト」とは、玲伊の店の1周年記念の企画で、〈リインカネーション〉のすべての施設を使い、2~3カ月でモデルの女性を美しく変身させ、それを雑誌の連載記事として掲載するというもの。  優紀は固辞したが、玲伊の熱心な誘いに負け、最終的に引き受けることとなる。  はじめての経験に戸惑いながらも、超一流の施術に心が満たされていく優紀。  そして、玲伊への恋心はいっそう募ってゆく。  玲伊はとても優しいが、それは親友の妹だから。  そんな切ない気持ちを抱えていた。  プロジェクトがはじまり、ひと月が過ぎた。  書店の仕事と〈リインカネーション〉の施術という二重生活に慣れてきた矢先、大問題が発生する。  突然、編集部に上層部から横やりが入り、優紀は「シンデレラ・プロジェクト」のモデルを下ろされることになった。  残念に思いながらも、やはり夢でしかなかったのだとあきらめる優紀だったが、そんなとき、玲伊から呼び出しを受けて……

《完結》追放令嬢は氷の将軍に嫁ぐ ―25年の呪いを掘り当てた私―

月輝晃
恋愛
25年前、王国の空を覆った“黒い光”。 その日を境に、豊かな鉱脈は枯れ、 人々は「25年ごとに国が凍る」という不吉な伝承を語り継ぐようになった。 そして、今――再びその年が巡ってきた。 王太子の陰謀により、「呪われた鉱石を研究した罪」で断罪された公爵令嬢リゼル。 彼女は追放され、氷原にある北の砦へと送られる。 そこで出会ったのは、感情を失った“氷の将軍”セドリック。 無愛想な将軍、凍てつく土地、崩れゆく国。 けれど、リゼルの手で再び輝きを取り戻した一つの鉱石が、 25年続いた絶望の輪を、少しずつ断ち切っていく。 それは――愛と希望をも掘り当てる、運命の物語。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...