先輩、それ絶対わざとじゃないですよね!?

naomikoryo

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奏翔編・第1話「月日は巡る〜奏翔、小学校入学〜」

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春の風が、街をやわらかく撫でている。
桜は五分咲き。
晴翔いわく「PKを決めるには最高の気温」だそうだが、
今日ばかりはボールではなくランドセルを背負う日である。

 

「母上、ネクタイ曲がってる」

 

「ごめんごめん、慣れないスーツで……でも“母上”って何その呼び方」

 

「お父さんが家で呼んでた」

 

「お前それ全部真に受けちゃダメなやつ……」

 

6歳になったばかりの奏翔(かなと)は、
相変わらずしっかりしていて、言葉遣いはなぜか丁寧。
生まれた頃からツッコミ役を担わされてきた男の子は、
この日、ついに小学一年生になる。

 

家族は相変わらずにぎやかで――

 

「柚葉さん!
 見て!今日のスーツ、“セレモニー対応型運動可スタイル”にしたよ!」

 

「運動すんな」

 

「スニーカーだから、いざとなったら全力疾走で教室までお届けできるから!」

 

「やめろ、保護者が一番目立つタイプのやつ!!」

 

晴翔は33歳。
現役は引退したが、今は地元チームのユース育成コーチとして働いている。
勿論、地元の名物プレーヤーとしても相変わらずに人気ぶりで、
柚葉と同じテレビ局でスポーツキャスターとしても働いている。
時々、全国放送のバラエティーにも呼ばれる始末である。


相変わらずの天然ぶりで、日々の家庭には笑いが絶えない。
……というか、むしろ絶えさせてくれない。

 

「叔母上、僕の靴下、左右で模様が違います」

 

「あら、それは“左右非対称ファッション”って言って、オシャレ上級者の証なのよ!」

 

「……それ、許されるのは大学生以上では……」

 

「言うねぇ!冷静な甥っ子!」

 

叔母・心愛(25歳)は、今や地元でも有名なセレクトショップのスタッフ。
小さな頃から“美的センス”に長けていた心愛のアドバイスを受け、
奏翔の服装は幼稚園時代からモテモテだった。

 

「かなとくん、カーディガン似合いすぎ!」
「お顔がもうプリンスって感じ~♡」

 

そんな声を、母の柚葉は何度聞いたことか。
でも、一番びっくりしたのは――

 

「おかあさんのおかあさん、なんで今日アイライン濃いの?」

 

「え!?な、なにって……その……」

 

「おばあちゃん、今日も奏翔くんに会えるからって早朝からメイクしてたのよぉ♡」

 

そう言ったのは、柚葉の母(つまり奏翔の祖母)。
風間家の母(つまり晴翔の母)も、心愛も、
みんなして奏翔の前では乙女顔になる。

 

(ちょっと、みんなメロメロすぎじゃない?)

 

だが当の本人は、それすらも冷静に受け止めている。

 

「僕、将来、“人に優しくするのが趣味”って履歴書に書く予定」

 

「もうそれ、完全に父親の系譜じゃん……」

 

そして――

式が始まった。

 

校庭に整列した小さな体たち。
そわそわと足を動かす子、手を繋ぎたがる子、笑ってる子、泣きそうな子。
みんな同じ制服で、ランドセルの色だけが個性を語っている。

 

(あぁ……うちの子が、ちゃんとそこにいる)

 

柚葉は、胸の奥にじわりと何か熱いものを感じていた。

でも――

その直後。

 

「……ん?」

 

奏翔が、前を見つめながらぽかんと口を開けているのに気づいた。

 

そして、保護者席に戻ってきた彼は一言。

 

「母上。担任の先生、とてつもなく可愛い。」

 

「そっちの感想!?入学式の感想、まずそっち!?」

 

「名前、木下美鈴先生。新任。おそらく24~25歳。
 巻き髪、香水は柑橘系、言葉遣いが繊細。
 あと、多分僕に“微笑みかけてた”」

 

「お前、分析力どうなってんの!?」

 

晴翔「さっすが俺の息子!!見る目ある!!」

 

柚葉「お父さん、黙って」

 

心愛「お義姉ちゃん……奏翔くんの“年上キラーDNA”、想像以上に強いわ……」

 

そう、奏翔は幼稚園時代からずっとモテていた。
特に、年上の保育士・バスの運転手・カフェの店員さんなどに妙に人気で、
“落ち着いていて優しいところ”がどうやら年上女性の心をくすぐるらしい。

 

しかも本人にその気は全くないのがタチが悪い(そしてモテる)

 

木下先生に話しかけられたときも――

 

「これから1年生ですね。緊張してるかな?」

 

「いえ、むしろ今日が人生で最初の転機だと思ってます。
 先生、よろしくお願いします」

 

「わ……わたしこそっ……よろしくね……っ♡」

 

(あの先生の頬がほんのり赤くなったの、絶対錯覚じゃない)

 

***

 

こうして、奏翔の新たな生活が始まった。

 

まだまだ小さくて、
でも背筋を伸ばして歩くその姿は、
どこか大人びていて頼もしい。

 

「奏翔、これから毎日、ちゃんと学校行ける?」

 

「行くよ。家にいたらお父さんのボケで頭がおかしくなるから」

 

「やめて、真理つくのやめて」

 

「でも……ちゃんと、“おかえり”って言ってね」

 

「……うん。毎日、言うよ」

 

柚葉は、手をぎゅっと握った。
もう手のひらに収まりきらないくらい大きくなってきたその手。
だけど――
まだまだ、母として、包んでいたいと思った。

 

そして。

家に帰って最初に奏翔がしたことは――

 

「ばあば!入学祝いにアイス買ってくれる?」

 

「もちろんよ~♡10個でも20個でもっ!!」

 

(……なんか、うまく生きていきそうだな、この子)

 

その日、家族みんなで食べた“入学祝いのアイス”の味は、
甘くて、ちょっぴりほろ苦くて、
そして確かに――“春”の味がした。
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