先輩、それ絶対わざとじゃないですよね!?

naomikoryo

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奏翔編・第3話 「給食という名の“戦場”」

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新しい学校生活にも、少しずつ慣れてきた頃だった。
毎朝の「いってらっしゃい」も、少しだけ誇らしげに言えるようになったし、
ランドセルの中身も、自分でちゃんと整理できるようになった。

 

でも――

 

(やっぱり、これだけは慣れない……)

 

「給食、いただきます!」

 

担任の木下先生の元気な声に続いて、
みんなが一斉に手を合わせる。

 

“問題”は、そのあとやってきた。

 

奏翔のトレイの上に並んだのは、
・野菜たっぷりのスープ(ピーマン入り)
・納豆ごはん
・冷たい牛乳
・デザートに謎の白いやつ(ヨーグルト?)

 

(なぜ……なぜこうも、苦手なものばかり……)

 

彼の表情がみるみるうちに曇っていくのを見て、
同じ班の男子・まさるが囁いた。

 

「風間、お前……もしかして納豆、苦手か?」

 

「……“もしかして”の必要、あった?」

 

「マジか~。俺、納豆、週4でいけるぞ」

 

「腸内環境、どうなってるの……」

 

一方その頃、斜め前の女子グループがざわざわしていた。

 

「ねぇ、奏翔くんって、納豆苦手なんだって……」

 

「かわいい~~~!」

 

「食べられない男子って、ちょっと守りたくならない?」

 

(聞こえてるし!あっちのテーブルなのに!
 ていうか“納豆=守られる案件”なの!?)

 

と、そのとき――

 

「はい、風間くん、がんばれ!お箸の持ち方もばっちりだね!」

 

木下先生が、にこっと笑いながらやってきた。
まるで給食戦場に現れた光の使者のようなまぶしさ。

 

(先生の笑顔がまぶしい……そして逃げられない……!)

 

「ありがとうございます、先生。
 でも、この納豆たち、すでに僕と敵対関係にあります」

 

「ふふっ、仲良くなってね?」

 

(先生、軽く言うけど……戦争だよ……これは……)

 

奏翔は、意を決してスプーンで一口――

 

(……ぬるっ!)
(……ねばっ!)

 

「……ううぅっ」

 

思わず目をつぶって口を押さえる。
その顔がまた、「あざとい」「可愛い」と女子の悲鳴を誘っていた。

 

まさる「……なぁ、風間って家では完璧男子って感じなのに、
    こういうときギャップすごいな」

 

奏翔「僕だって人間です。消化器官はごく普通の子どもです」

 

その時――

 

「食べられなかったら、わたしのデザートと交換してもいいよ」

 

同じ班の女の子、ななちゃんが言った。
にこにこしながら、自分のデザートを差し出そうとする。

 

「……だ、だめだよ、それは……」

 

「え、でも無理しなくていいよ~?」

 

「……僕、“男としての誇り”だけは……納豆に負けたくない……!」

 

そう言って、ふたたびスプーンを持ち直す奏翔。
その手は震え、眉間にはしわ。
でも――

 

「いただきますっ……!」

 

ぐっ、と口に運ぶ。

 

(……うん。やっぱり苦手)
(でも……ちょっとだけ、頑張れた気がする)

 

ゆっくり噛んで、噛んで、飲み込んで――
小さく息を吐く。

 

「食べられた……!」

 

その瞬間、周囲から拍手が起こる。
ななちゃんは「やったー!」と両手を叩き、
まさるは「うぉお、納豆克服の男だ!」と謎の称号を与えた。

 

(あれ……なんか、達成感……)

(……もしかして、これが“給食の魔法”ってやつ?)

 

***

 

家に帰ると、柚葉が出迎えた。

 

「おかえり~。給食、どうだった?」

 

「……うん。ちょっとだけ、強くなった気がする」

 

「何そのセリフ、RPGの中ボス倒した後みたいな感じね」

 

「母上。納豆、なめてはいけません」

 

「今日イチの名言出たわ」

 

そしてその日の夜――

 

「柚葉さん!聞いて!
 俺、小学校のとき、納豆3パック一気食いできたから!
 明日、奏翔に“給食攻略マニュアル”書いておくからね!」

 

「やめて、それ“使えないノウハウ”ってやつ」

 

奏翔はそのやり取りを聞きながら、静かに心に決めた。

 

(よし……次は“ピーマン”と和解しよう……)
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