先輩、それ絶対わざとじゃないですよね!?

naomikoryo

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奏翔編・第4話 「木下先生とヒミツの相談」

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二週目の月曜日。
教室の朝の空気には、すでに「このクラスの顔ぶれ」に慣れてきた安心感が出てきていた。

―― ただ、一人を除いて。

 

ホームルームが始まる直前、
教室の後ろの扉の前で、女の子が泣きながら立ち止まっていた。

 

お母さんに腕を掴まれ、
「大丈夫大丈夫」と背中をさすられている。
でも、首を左右に振って、入ろうとしない。

 

(まただ……)

 

彼女は、ななちゃん。
前の週から、毎朝こうだった。
教室には入れる。授業も受けられる。給食も笑って食べる。
でも――「朝だけ」は泣いてしまう。

 

入学したての子には珍しくない、と大人は言うけれど
「どうして泣くのか」「何が不安なのか」
奏翔には、それが気になって仕方がない。

 

彼は席に座ったまま、ちらちらと後ろを見た。
でも、どう声をかけていいのか分からない。

 

(泣いてる人に、ヘタに話しかけて良いのか?
 それとも黙ってるほうがいいのか?
 でも、何もしないのも違う気がする……)

 

悩んだ顔のまま俯いていると――
その横に、影が落ちた。

 

木下先生だった。

 

「風間くん、ちょっとだけいいかな」

 

彼女は声を潜めて言った。
奏翔は、こくりと頷いて立ち上がる。

 

教室の前ではなく、
廊下に出て、誰にも聞こえない距離まで下がってから
木下先生は静かに言った。

 

「ななちゃんのこと、気になってるよね」

 

図星だった。
驚いて顔を上げると、
木下先生は、「怒り」ではなく「理解」の目をしていた。

 

「優しい目をしてたからね。
 “気にしてる人の目”だったよ」

 

―― 見られてた。

 

奏翔は少し恥ずかしくなって、言葉を選びながら話した。

 

「……泣いてるのは分かるけど、理由が分からなくて。
 慰めていいのかも、声をかけない方がいいのかも、分からないんです」

 

「……うん。
 “どう優しくしたら良いか分からない”っていう状態も、立派な優しさだよ。」

 

木下先生はそう言って、少しだけ笑った。

 

「ねえ、風間くん。
 優しさって、行動の前に“考える”っていう工程があるんだよ。
 考えない優しさは“押しつけ”になっちゃうこともあるからね」

 

優しさ=即行動、ではない。
その前に「どうするのがその人にとって良いのか」を考える。
それを “先生が口にした” ことで、奏翔の胸の中のもやもやが、すっと形になった。

 

「じゃあ僕は――
 どうすれば、ななちゃんのためになりますか」

 

問う声は、真剣だった。
木下先生は少しだけ目を細めて、答えた。

 

「“話しかけようとした”ことは伝えていい。
 でも、泣いてる最中じゃなくていいの。
 落ち着いてから、
 “明日またいっしょに教室入ろう”って言ってみるのはどうかな」

 

明日。
泣いてない時に。
その子が呼吸を整えた時間に。

 

(……それなら、僕にもできる)

 

奏翔は、はっきりと頷いた。

 

「分かりました。
 明日、言います。」

 

「うん。その顔できるなら、大丈夫」

 

木下先生は安心したように肩を落とし、
そのまま、泣いているななちゃんの方へ歩いて行った。

 

教室へ戻ろうと踵を返した奏翔は、
先生の背中を見つめながら、胸の奥でそっと呟いた。

 

(優しさって、“行動”じゃなくて、“考える勇気”から始まるんだ)

 

その日の帰り道――

 

晴翔「よっしゃー帰ってきたな奏翔!!今日の給食勝率何割!?ねぇ!?」

 

奏翔「父上。一度に喋る言葉は三つまでにして下さい」

 

柚葉「今日も総ツッコミありがとう息子よ」

 

そんな賑やかなリビングで、
奏翔は一瞬迷ったあと、ぽつりと母にだけ言った。

 

「……母上。僕、明日“やってみたいこと”がある」

 

柚葉は驚きも茶化しもせず、ただ柔らかく答えた。

 

「うん。明日は“やる日”なんだね。
 じゃあ私は、“帰ってくる日”を用意しておくよ」

 

(帰る場所があれば、人は前へ進める)

 

この家は、それをいつも教えてくれる。

 

―― 明日は、“声をかける日”。

 

そう決めた少年の夜は、
いつもより少しだけ静かだった。
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