35 / 39
奏翔編・第5話 「奏翔の初ケンカ」
しおりを挟む
その日は、少し風が強かった。
空は明るくて、気温も過ごしやすい。
でも、奏翔の胸の中は、妙にざわざわしていた。
(なんで……あんな言い方、しちゃったんだろう)
それは、昼休みの出来事だった。
教室で、クラスメートの男の子・りくとくんが、
提出するプリントに落書きをして笑っていた。
「見て見て~!“国語”の“国”がスライムに見える!」
「わはは、顔描いたらマジでモンスターだわ!」
周りの男子たちは笑っていた。
でも、奏翔には――それが、なんだか落ち着かなく見えた。
「それ、先生に出すんでしょ?
ふざけるの、やめたほうがいいよ」
その一言が、始まりだった。
「……は?なに、真面目かよ」
「真面目って、そんな悪いこと?」
「別にいいじゃん。誰も困ってないし。
“先生に出すもの”とか、そんなガチガチ言うなよ」
その時、奏翔の中の何かが、弾けた。
「そういうの、
“ふざける自由”って言わないよ。
ただ“バカにしてるだけ”でしょ」
言い終わった瞬間、空気が変わった。
りくとくんの顔が、真っ赤になった。
「……は?
じゃあ、もうお前とはしゃべんねーわ」
そう言い残して、プリントをぐしゃっと丸め、席を立った。
―― あ。言いすぎた。
でも、その時は謝れなかった。
「間違ってない」と思う自分もいた。
「僕は、正しいことを言っただけだ」と。
(でも……あれじゃあ、ただ“突き放した”だけじゃん)
放課後。
ランドセルを背負って歩く道。
風が、少し肌寒く感じるのは、気温のせいじゃなかった。
***
家に帰ると、柚葉が出迎えた。
「おかえり~。……ん?なんか、顔、暗い?」
奏翔は、靴を脱ぐ手を止めたまま、ぽつりと呟いた。
「今日、友達とケンカした」
「そっか。……話してくれる?」
そう聞かれたとき、彼は少しだけ躊躇したけれど、
全部話した。
昼休みにあったこと、言ったこと、言われたこと、そして後悔してること。
話し終えると、柚葉は少し考えてから言った。
「奏翔が言ったことは、間違ってないと思う。
でも――たぶん、“言い方”が冷たかったのかもね」
「……そう、思う」
「正しいことでも、
言い方を間違えると、
相手には“怒られてる”って感じちゃうんだよ」
柚葉は続けた。
「私もね、お父さんに何度も“言い方”で怒られたよ」
「……父上には“言われ方”という概念がない気がする」
「それな……(遠い目)」
「でもね、奏翔。
もし“悪気はなかった”って思うなら、
それ、ちゃんと伝えてみたら?」
「……“謝る”ってこと?」
「うん。謝るって、
“悪かったです”って意味だけじゃなくて、
“仲直りしたいです”って気持ちも込められるんだよ」
それを聞いた奏翔は、しばらく黙って考えて、静かに言った。
「……明日、ちゃんと話してみる」
***
翌朝、学校。
奏翔は、教室の前で立ち止まった。
りくとくんは、すでに席についていて、筆箱の中身を並べている。
(いま言わないと、また言えなくなる)
勇気を出して、一歩踏み出す。
「……りくとくん」
りくとは、顔を上げた。
少し、警戒したような目。
「昨日、言い過ぎてごめん。
プリントのこと、悪ふざけって思っちゃって。
でも、言い方がきつかった。……ごめん」
りくとは黙っていた。
でも、視線は外さなかった。
数秒後、彼は小さく呟いた。
「……俺も、ごめん。
ふざけすぎたのは、ちょっと自覚あった」
その言葉に、奏翔はようやく肩の力を抜いた。
「じゃあさ、今日の算数、ノート交換しようよ。
わからないとこ、あったらお互い書いてさ」
「……いいよ。お前、字きれいだし」
「母上が習字にうるさいんだ」
二人の会話が、少しだけ笑い混じりになる。
その瞬間、クラスの空気が柔らかくなった。
***
家に帰ると、
リビングでは晴翔が筋トレ中だった。
「よっしゃー!腕立て300回いったぁぁぁ!!」
「父上、回数より“音量”が心配です」
柚葉「おかえり、奏翔。今日はどうだった?」
「うん。ちゃんと謝れた。仲直りできた」
柚葉はにっこり笑って、ハイタッチを差し出した。
「それが一番、えらいことだと思うよ」
パチン、と小さな手と大きな手が合わさる音が、
家の中に優しく響いた。
(“正しい”より、“伝える勇気”。
それが、優しさになるときもある)
奏翔は、その日学んだことを胸に刻みながら、
明日もまた、ランドセルを背負うのだった。
空は明るくて、気温も過ごしやすい。
でも、奏翔の胸の中は、妙にざわざわしていた。
(なんで……あんな言い方、しちゃったんだろう)
それは、昼休みの出来事だった。
教室で、クラスメートの男の子・りくとくんが、
提出するプリントに落書きをして笑っていた。
「見て見て~!“国語”の“国”がスライムに見える!」
「わはは、顔描いたらマジでモンスターだわ!」
周りの男子たちは笑っていた。
でも、奏翔には――それが、なんだか落ち着かなく見えた。
「それ、先生に出すんでしょ?
ふざけるの、やめたほうがいいよ」
その一言が、始まりだった。
「……は?なに、真面目かよ」
「真面目って、そんな悪いこと?」
「別にいいじゃん。誰も困ってないし。
“先生に出すもの”とか、そんなガチガチ言うなよ」
その時、奏翔の中の何かが、弾けた。
「そういうの、
“ふざける自由”って言わないよ。
ただ“バカにしてるだけ”でしょ」
言い終わった瞬間、空気が変わった。
りくとくんの顔が、真っ赤になった。
「……は?
じゃあ、もうお前とはしゃべんねーわ」
そう言い残して、プリントをぐしゃっと丸め、席を立った。
―― あ。言いすぎた。
でも、その時は謝れなかった。
「間違ってない」と思う自分もいた。
「僕は、正しいことを言っただけだ」と。
(でも……あれじゃあ、ただ“突き放した”だけじゃん)
放課後。
ランドセルを背負って歩く道。
風が、少し肌寒く感じるのは、気温のせいじゃなかった。
***
家に帰ると、柚葉が出迎えた。
「おかえり~。……ん?なんか、顔、暗い?」
奏翔は、靴を脱ぐ手を止めたまま、ぽつりと呟いた。
「今日、友達とケンカした」
「そっか。……話してくれる?」
そう聞かれたとき、彼は少しだけ躊躇したけれど、
全部話した。
昼休みにあったこと、言ったこと、言われたこと、そして後悔してること。
話し終えると、柚葉は少し考えてから言った。
「奏翔が言ったことは、間違ってないと思う。
でも――たぶん、“言い方”が冷たかったのかもね」
「……そう、思う」
「正しいことでも、
言い方を間違えると、
相手には“怒られてる”って感じちゃうんだよ」
柚葉は続けた。
「私もね、お父さんに何度も“言い方”で怒られたよ」
「……父上には“言われ方”という概念がない気がする」
「それな……(遠い目)」
「でもね、奏翔。
もし“悪気はなかった”って思うなら、
それ、ちゃんと伝えてみたら?」
「……“謝る”ってこと?」
「うん。謝るって、
“悪かったです”って意味だけじゃなくて、
“仲直りしたいです”って気持ちも込められるんだよ」
それを聞いた奏翔は、しばらく黙って考えて、静かに言った。
「……明日、ちゃんと話してみる」
***
翌朝、学校。
奏翔は、教室の前で立ち止まった。
りくとくんは、すでに席についていて、筆箱の中身を並べている。
(いま言わないと、また言えなくなる)
勇気を出して、一歩踏み出す。
「……りくとくん」
りくとは、顔を上げた。
少し、警戒したような目。
「昨日、言い過ぎてごめん。
プリントのこと、悪ふざけって思っちゃって。
でも、言い方がきつかった。……ごめん」
りくとは黙っていた。
でも、視線は外さなかった。
数秒後、彼は小さく呟いた。
「……俺も、ごめん。
ふざけすぎたのは、ちょっと自覚あった」
その言葉に、奏翔はようやく肩の力を抜いた。
「じゃあさ、今日の算数、ノート交換しようよ。
わからないとこ、あったらお互い書いてさ」
「……いいよ。お前、字きれいだし」
「母上が習字にうるさいんだ」
二人の会話が、少しだけ笑い混じりになる。
その瞬間、クラスの空気が柔らかくなった。
***
家に帰ると、
リビングでは晴翔が筋トレ中だった。
「よっしゃー!腕立て300回いったぁぁぁ!!」
「父上、回数より“音量”が心配です」
柚葉「おかえり、奏翔。今日はどうだった?」
「うん。ちゃんと謝れた。仲直りできた」
柚葉はにっこり笑って、ハイタッチを差し出した。
「それが一番、えらいことだと思うよ」
パチン、と小さな手と大きな手が合わさる音が、
家の中に優しく響いた。
(“正しい”より、“伝える勇気”。
それが、優しさになるときもある)
奏翔は、その日学んだことを胸に刻みながら、
明日もまた、ランドセルを背負うのだった。
0
あなたにおすすめの小説
冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─
あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」
没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。
しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。
瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。
「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」
絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。
嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。
イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~
美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。
貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。
そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。
紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。
そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!?
突然始まった秘密のルームシェア。
日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。
初回公開・完結*2017.12.21(他サイト)
アルファポリスでの公開日*2020.02.16
*表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。
宮廷画家令嬢は契約結婚より肖像画にご執心です!~次期伯爵公の溺愛戦略~
白妙スイ@1/9新刊発売
恋愛
男爵令嬢、アマリア・エヴァーレは絵を描くのが趣味の16歳。
あるとき次期伯爵公、フレイディ・レノスブルの飼い犬、レオンに大事なアトリエを荒らされてしまった。
平謝りしたフレイディにより、お詫びにレノスブル家に招かれたアマリアはそこで、フレイディが肖像画を求めていると知る。
フレイディはアマリアに肖像画を描いてくれないかと打診してきて、アマリアはそれを請けることに。
だが絵を描く利便性から、肖像画のために契約結婚をしようとフレイディが提案してきて……。
●アマリア・エヴァーレ
男爵令嬢、16歳
絵画が趣味の、少々ドライな性格
●フレイディ・レノスブル
次期伯爵公、25歳
穏やかで丁寧な性格……だが、時々大胆な思考を垣間見せることがある
年頃なのに、なぜか浮いた噂もないようで……?
●レオン
フレイディの飼い犬
白い毛並みの大型犬
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
【完結】悪役令嬢の身代わりで処刑されかけた侍女、悪人面強面騎士にさらわれる。
雨宮羽那
恋愛
侍女リーリエは、処刑される予定の主・エリーゼと容姿がそっくりだったせいで、身代わりとして処刑台へ立たされていた。
(私はエリーゼ様じゃないわ!)と心の中で叫んだ瞬間、前世の記憶がよみがえり、ここが読みかけだった悪役令嬢ものの小説の世界だと気づく。
しかも小説ではエリーゼが処刑されるはずなのに、リーリエが処刑されかけているという最悪の展開。
絶体絶命の瞬間、リーリエの前に現れたのは強面で悪人面の騎士ガウェイン。
彼はなぜかリーリエを抱えあげ連れ去ってしまい――?
◇◇◇◇
※全5話
※AI不使用です。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております。
皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる
若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ!
数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。
跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。
両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。
――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう!
エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。
彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。
――結婚の約束、しただろう?
昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。
(わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?)
記憶がない。記憶にない。
姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない!
都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。
若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。
後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。
(そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?)
ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。
エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。
だから。
この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し?
弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに?
ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる