先輩、それ絶対わざとじゃないですよね!?

naomikoryo

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奏翔編・最終話(第10話) 「春の風と、2年生になる君へ」

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春の風は、少し甘くて、少しまぶしい。
それは、奏翔にとっての「はじまりの風」だった。

 

新しい学年。
新しい教室。
新しい担任の先生。
全てが“また知らないこと”だらけ。

 

だけど、不思議と不安はなかった。

 

(だって、僕、もう知ってる)

 

「知らないこと」って、怖いだけじゃない。
「分からないこと」って、決して恥ずかしいことじゃない。

―― それを1年生の1年間で、たくさん教えてもらったから。

 

「はい、これが新しい時間割表だよ」
「席替えは明日するからね~」
「自己紹介カード書いてくださーい」

教室に、また違う種類のざわめきが広がっていく。
でも、奏翔は静かにその中に溶け込んでいった。

 

席に座りながら、ふと教室の窓から見えた校庭には、
1年前の自分と同じくらいの、
まだランドセルが体の半分くらいあるような小さな1年生たち。

 

(僕も、ああだったんだなぁ)

 

思い出すのは、泣きながら教室に入れなかったななちゃんのこと。
正しさと優しさの間で悩んだ、りくとくんとのケンカ。
“だいすき”という気持ちが何なのか分からなかった日々。

ぜんぶ、宝物みたいに、心の中で光っている。

 

ふと、隣の席の男の子が話しかけてきた。

 

「えっと、君、風間くんだよね?よろしく」

 

「あ、うん。よろしく」

 

「俺さ、昨日引っ越してきたばっかでさ、
 正直、学校ちょっと怖かったんだ」

 

「……そっか。僕も、去年そうだったよ」

 

「ほんと?」

 

奏翔は、にこっと笑った。

 

「でも、大丈夫。
 “怖い”って思える人ほど、やさしくなれるって、先生が言ってた」

 

「それ……ちょっと、かっこいいな」

 

「でしょ。僕の“推し先生”の言葉なんだ」

 

二人でくすくす笑ったあと、
奏翔は、心の中でそっと木下先生に手を振った。

 

(先生。
 僕、ちゃんと前を向いてます)

 

***

 

その日の帰り道。
家に帰ると、いつも通りの騒がしい風間家。

 

晴翔「奏翔ー!新しい先生の名前は?何歳?独身?可愛い?」
柚葉「なんで独身かどうか聞くの?」
心愛(電話)「今度見に行くわね」
柚葉「待って勝手に保護者増やさないで」

 

奏翔は笑いながら、ランドセルを降ろす。

 

そして、洗面所で手を洗いながら、鏡に映った自分に言った。

 

「2年生の僕、けっこうイケてるかもしれないな」

 

それは、ちょっと照れくさくて、
でもちゃんと自分で自分を認めてあげた、
とても素敵な自己紹介だった。

 

***

 

その夜、日記帳を開いて、1ページ目にこう書いた。

 

『きょう、2年生になった。
 新しいともだちもできた。
 まだ“なりたいもの”は決まってないけど、
 なりたい“じぶん”は、ちょっとずつ分かってきた。
 すこしずつでもいい。
 ちゃんと前にすすんでいこうと思う。』

 

日記の横には、
ランドセルを背負ったまま、校門をくぐる奏翔のイラスト。
その顔は、どこか誇らしげだった。

 

月日は巡る。
でも、ちゃんと進んでいく。
奏翔の毎日は、今日も“続いていく物語”のまっただなかにあった。
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