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奏翔編・第8話 「さよなら、木下先生」
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「え……先生、いなくなっちゃうの……?」
春休みを目前にした3月の朝、
学級通信を配られた教室が、静まりかえっていた。
そこに書かれていた一文――
『担任の木下美鈴先生は、来年度より別の学校へ異動されます。』
その一行が、1年1組の子どもたちの心をざわつかせた。
「うそだ~」「やだやだ~」「先生行かないで~」
泣きそうになる子、机にうつ伏せて動かなくなる子もいた。
奏翔も、信じられない気持ちでいっぱいだった。
(だって……だってまだ、
ちゃんと“ありがとう”も、“大好き”も伝えてないのに)
彼の胸の奥が、じんじんと痛んでいた。
***
放課後。
木下先生は、教室の掃除をしながら、
普段と変わらない口調で言った。
「転任ってね、“卒業”と同じで、終わりじゃないの。
次に進むための区切りなんだよ。
だからね、悲しくなってもいいけど、
“またね”って言えると嬉しいな」
その言葉に、泣き出す子もいたけれど、
奏翔は黙って、じっと先生の顔を見つめていた。
(“またね”って……ちゃんと言えるかな、僕)
その夜。
リビングでは、なぜか家族会議が始まっていた。
柚葉「……というわけで、奏翔が“伝えたいけど言えない”って、悩んでるわけです」
晴翔「任せて!こういうときは“ポエムだ!!”」
奏翔「いやちょっと待って、それ本気で言ってる!?」
心愛(テレビ電話)「ポエムにするなら、最後に“愛してるぜ”って入れて」
奏翔「だからなんでそんな方向に振り切るの!?これはそういうんじゃないの!」
柚葉「まあまあ、みんな落ち着いて。
奏翔、“手紙”にしてみたら?
直接言えなくても、先生に“言葉”は届くよ」
(手紙か……)
夜の自室で、奏翔は静かにペンを握った。
頭の中に浮かぶのは、
あの優しい声、まぶしい笑顔、
そっと背中を押してくれた言葉たち。
(でも……なんて書けばいいんだろう)
「先生、ありがとう」
「先生、大好きでした」
「先生の笑顔、忘れません」
どれも本当だけど、なんだかどれも違う気がした。
悩んで悩んで、最後に彼が書いたのは、
たった一言だった。
『先生が先生でいてくれて、よかったです。』
***
最終登校日。
終業式のあと、教室では“お別れ会”が開かれた。
みんなの前で、一人ひとりが手紙を読んだり、絵を渡したりする中――
奏翔は、緊張で足が震えていた。
(これ、言えるかな……)
でも、木下先生がニコッと笑って、「がんばって」と言ってくれたとき。
不思議と、声が出た。
「木下先生。
えっと……先生が担任で、本当によかったです。
僕、1年生が“楽しい”って思えたの、先生がいてくれたからです。
うまく言えないけど、
その、だから、
“さようなら”じゃなくて――“ありがとう”を言います」
教室が静かになった。
その後、ゆっくりと拍手が広がっていった。
木下先生は、少しだけ目元を押さえてから、言った。
「風間くんの“ありがとう”、
先生の中で、ずっと響きます。
きっと、これから先、つらいときに思い出す“宝物”です」
(……僕も。
先生の言葉、ずっと宝物になる)
最後に渡した手紙。
たった一文の短い手紙。
でも、それを読んだ木下先生は、
帰り際に、そっと奏翔の耳元で囁いた。
「……先生も、先生でいられてよかった。
風間くんの担任になれて、本当によかった」
教室を出ていく先生の背中は、
なんだか少し小さく見えた。
でも――その歩き方は、とてもまっすぐだった。
(さよなら、じゃない。
また、会える日まで)
奏翔は、ポケットに手を入れた。
小さく折りたたんだ、返事の手紙が、そこに入っていた。
『“ありがとう”は、ちゃんと届きました。
これからのあなたが、もっと素敵な道を歩けますように。
―― 木下美鈴』
空は、もう春の色だった。
春休みを目前にした3月の朝、
学級通信を配られた教室が、静まりかえっていた。
そこに書かれていた一文――
『担任の木下美鈴先生は、来年度より別の学校へ異動されます。』
その一行が、1年1組の子どもたちの心をざわつかせた。
「うそだ~」「やだやだ~」「先生行かないで~」
泣きそうになる子、机にうつ伏せて動かなくなる子もいた。
奏翔も、信じられない気持ちでいっぱいだった。
(だって……だってまだ、
ちゃんと“ありがとう”も、“大好き”も伝えてないのに)
彼の胸の奥が、じんじんと痛んでいた。
***
放課後。
木下先生は、教室の掃除をしながら、
普段と変わらない口調で言った。
「転任ってね、“卒業”と同じで、終わりじゃないの。
次に進むための区切りなんだよ。
だからね、悲しくなってもいいけど、
“またね”って言えると嬉しいな」
その言葉に、泣き出す子もいたけれど、
奏翔は黙って、じっと先生の顔を見つめていた。
(“またね”って……ちゃんと言えるかな、僕)
その夜。
リビングでは、なぜか家族会議が始まっていた。
柚葉「……というわけで、奏翔が“伝えたいけど言えない”って、悩んでるわけです」
晴翔「任せて!こういうときは“ポエムだ!!”」
奏翔「いやちょっと待って、それ本気で言ってる!?」
心愛(テレビ電話)「ポエムにするなら、最後に“愛してるぜ”って入れて」
奏翔「だからなんでそんな方向に振り切るの!?これはそういうんじゃないの!」
柚葉「まあまあ、みんな落ち着いて。
奏翔、“手紙”にしてみたら?
直接言えなくても、先生に“言葉”は届くよ」
(手紙か……)
夜の自室で、奏翔は静かにペンを握った。
頭の中に浮かぶのは、
あの優しい声、まぶしい笑顔、
そっと背中を押してくれた言葉たち。
(でも……なんて書けばいいんだろう)
「先生、ありがとう」
「先生、大好きでした」
「先生の笑顔、忘れません」
どれも本当だけど、なんだかどれも違う気がした。
悩んで悩んで、最後に彼が書いたのは、
たった一言だった。
『先生が先生でいてくれて、よかったです。』
***
最終登校日。
終業式のあと、教室では“お別れ会”が開かれた。
みんなの前で、一人ひとりが手紙を読んだり、絵を渡したりする中――
奏翔は、緊張で足が震えていた。
(これ、言えるかな……)
でも、木下先生がニコッと笑って、「がんばって」と言ってくれたとき。
不思議と、声が出た。
「木下先生。
えっと……先生が担任で、本当によかったです。
僕、1年生が“楽しい”って思えたの、先生がいてくれたからです。
うまく言えないけど、
その、だから、
“さようなら”じゃなくて――“ありがとう”を言います」
教室が静かになった。
その後、ゆっくりと拍手が広がっていった。
木下先生は、少しだけ目元を押さえてから、言った。
「風間くんの“ありがとう”、
先生の中で、ずっと響きます。
きっと、これから先、つらいときに思い出す“宝物”です」
(……僕も。
先生の言葉、ずっと宝物になる)
最後に渡した手紙。
たった一文の短い手紙。
でも、それを読んだ木下先生は、
帰り際に、そっと奏翔の耳元で囁いた。
「……先生も、先生でいられてよかった。
風間くんの担任になれて、本当によかった」
教室を出ていく先生の背中は、
なんだか少し小さく見えた。
でも――その歩き方は、とてもまっすぐだった。
(さよなら、じゃない。
また、会える日まで)
奏翔は、ポケットに手を入れた。
小さく折りたたんだ、返事の手紙が、そこに入っていた。
『“ありがとう”は、ちゃんと届きました。
これからのあなたが、もっと素敵な道を歩けますように。
―― 木下美鈴』
空は、もう春の色だった。
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