先輩、それ絶対わざとじゃないですよね!?

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奏翔編・第7話 「はじめての“だいすき”」

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ある日の帰り道。
ランドセルを背負いながら、奏翔は母・柚葉にふと聞いた。

 

「母上、“好き”って、どういう気持ち?」

 

「……え?いきなり哲学?」

 

「クラスの子が、木下先生のこと“だいすき~”って言ってて。
 僕も“すき”だなって思うけど……それが“だいすき”なのか分からなくて」

 

柚葉は、ちょっとだけ黙ってから、
優しく口を開いた。

 

「“好き”ってね、
 “その人のことをもっと知りたい”って思うこと。
 “そばにいたい”とか、“話したい”とか。
 それって、全部“好き”だと思うよ」

 

「……じゃあ僕、“先生の笑顔をもっと見たい”って思うのは、“好き”かな?」

 

「うん、すっごく、好きだね」

 

「じゃあ、
 “先生の笑顔を引き出せたら自分天才かも”って思ったのは?」

 

「それ、もう“ちょっと恋”かもしれない」

 

「えっ」

 

「おめでとう、息子よ、はじめての恋心~!!」

 

「まって、まだ確定してない。心の中で仮置きしてただけ」

 

柚葉は笑って、
いつの間にか、少しだけ大人びた息子の顔を見つめた。

 

(でも、ちゃんと“心が動いてる”。
 それだけで、すごく素敵なことだよ)

 

***

 

それから数日、
奏翔はいつもより先生の言動に敏感になった。

 

「風間くん、今日の提出物、とても丁寧だったね」

 

(うわ、今、先生、褒めたときだけ声ちょっとやわらかくなった気がする……!)

(あと、笑顔、国宝……!)

 

「風間くん、じゃあ次、前に出て解いてみてくれる?」

 

(指名ありがとう!!ありがとう人生!!)

 

それはもう――
本人も気づかないほどの全力で分かりやすい“惚れかけ男子”だった。

 

一方で、教室では“ある女子の観察眼”が彼をじっと見ていた。

 

「ねぇ、奏翔くんって、先生のこと好きなんじゃない?」

 

「はっ!?ちが――」

 

「顔、真っ赤ー!」

 

「これはその……春の気温のせいです!!」

 

そして事件は起こった。
木下先生が、来週の授業参観のことを話した日のことだった。

 

「来週は、おうちの人に“自分の夢”を発表する時間を作ります。
 みんなの前で話すの、ちょっと恥ずかしいかもしれないけど、がんばってね」

 

――そのとき。

 

(あれ……ってことは、うちの両親も、先生と話すってこと……?)

 

一瞬、胸がぎゅっと締めつけられた。
どうしよう。
お父さん、また変なこと言うかもしれない。
心愛叔母にいたっては突然スカウトし出す可能性もある。
(「先生、顔小さすぎ!うちのショップのモデルやって!」的な)

 

(やばい……
 “僕の大切な人”に“あの人たち”が関わるとか、いろんな意味でこわい……!)

 

―― その時、初めて気づいた。

 

(僕……先生のこと、“大切”って思ってるんだ)

 

好きとか憧れとか、
はっきりしない言葉の代わりに、
ふっと胸に浮かんだのは、もっとやわらかくて、
でも、ちゃんと真ん中にある気持ちだった。

 

(だから、変な風に見られたくないんだ。
 ちゃんと、素敵な人だって思ってもらいたいんだ)

 

放課後。

 

奏翔は教室の前で木下先生に声をかけた。

 

「先生、あの、ちょっと……いいですか」

 

「うん、どうしたの?」

 

「……先生って、どうして、いつも“笑ってる”んですか?」

 

木下先生は、少し驚いたような顔をして、
それから――とても優しい声で答えた。

 

「“笑ってる”んじゃなくて、
 “みんなと一緒にいると、自然と笑える”だけだよ」

 

「自然と……」

 

「風間くんが今日、配り物手伝ってくれたでしょ?
 ああいうのが嬉しいの。
 “今日もいい一日だったな”って思えるから、笑顔になるの」

 

(……そっか。
 僕が、笑わせたわけじゃないけど……
 僕がいるから、笑ってくれたなら、
 それって、ちょっと嬉しいな)

 

その帰り道。

 

奏翔は、母に言った。

 

「母上。やっぱり僕、先生のこと、だいすきだと思う」

 

柚葉は立ち止まり、静かに聞いた。

 

「どうして、そう思ったの?」

 

「……先生が、笑ってる理由を聞いて。
 なんか、自分がそこに関われてるのが嬉しかったから」

 

「うん。それね――」

 

柚葉は少しだけ背をかがめ、目線を合わせた。

 

「それが、“誰かを大切に思う気持ち”だよ」

 

***

 

その夜。
晴翔が風呂上がりのスッピンでリビングに乱入してきた。

 

「柚葉さーん!奏翔!すっぴんだけど聞いて!
 昔、俺が小学生のとき担任の先生に恋して――」

 

「それ、今じゃない」

 

「父上、それは後日“完全にネタ”として聞きます」

 

柚葉「ていうか、今“すっぴん”って言った?顔に何してたの?」

 

「ヨーグルトパック!美肌命!」

 

(……大人って、いろいろ自由だな)

 

その夜、眠る前。
奏翔は天井を見ながら考えていた。

 

(“好き”って、複雑。
 でも、“大切”って思えるのは、
 たぶん、“もっと知りたい”って思うことなんだ)

 

目を閉じると、ふわっと浮かんだのは
木下先生の笑顔だった。

 

優しくて、あったかくて、
そして――ちゃんと自分を見てくれている、そんな目。

 

“好き”。
それは、まだ名前のない、小さな初恋だった。
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