逢魔ヶ刻の迷い子3

見えない足音

コツ……コツ……コツ……

　五人の背筋が凍りついた。

「……誰か、いるの？」

　美咲が震える声で囁いた。

　しかし、スマホのライトを向けても——そこには誰の姿もない。

「そんなはずない……確かに足音がしたんだぞ……」

　隼人が息を呑む。

　コツ……コツ……

　再び、靴音が響いた。

　音は、すぐそばから聞こえている。

　まるで、五人のすぐ近くに“何か”がいるように——。

「やばい……これ、本当に……」

　紗奈が顔を強張らせる。

　その時だった。

ピタッ……

　靴音が止まった。

「……？」

　五人は固唾を飲んで、静まり返った閲覧室を見渡した。

　そして——。

　スマホの通知音が鳴った。

「うわっ！！」

　突然の音に、由香が飛び上がる。

　五人が一斉にスマホを取り出すと、そこには——。

「……うしろ……」

　陽介からのメッセージだった。

　全員が、一瞬にして凍りついた。

　誰もが、怖くて後ろを振り向けない。

「嘘だろ……」

　隼人が青ざめた顔で呟く。

　後ろ——。

　五人のすぐ背後に、何かがいる。

「……振り向くな……」

　大輝が震える声で言った。

「もし、本当に“何か”がいたら……」

「でも……陽介が……」

　美咲が涙目で呟いた、その瞬間——。

バタンッ！！

　書棚が大きく揺れ、本が一斉に崩れ落ちた。

「うわああ！！」

　五人は悲鳴を上げ、反射的に後ずさる。

　そして——。

　閲覧室の隅にある大きなガラス窓に、何かが映っていた。

　それは——。

　陽介だった。

ガラスの向こうの陽介
　「……陽介……？」

　由香が、信じられないものを見るように呟いた。

　ガラス窓の向こう側——夜の暗闇の中に、陽介が立っていた。

　彼は、白い顔でこちらをじっと見つめている。

「どうして、外に……？」

　美咲が息を呑む。

　図書館の2階の窓の外——そこは地上3メートル以上の高さだ。
　普通の人間が立てる場所ではない。

「おかしい……」

　隼人が震える声で言った。

　陽介は、何も言わないまま、ゆっくりと窓を叩いた。

　コン……コン……コン……

　その音は、静まり返った閲覧室に不気味に響く。

「これ……本当に陽介なの？」

　紗奈が恐る恐る言った。

　確かに陽介の顔だった。
　しかし、表情が硬く、目には生気がなかった。

　まるで、“人間”ではない何かのように——。

「どうする……？」

　大輝が喉を鳴らす。

　すると——。

ガタッ……

　陽介が窓に手をついた。

　そして、少しずつ身を乗り出し——まるで這い上がるように、窓を開けようとした。

「やばい！！」

　隼人が叫んだ。

「止めろ！！ 窓を開けたらダメだ！！！」

　五人は一斉に窓に駆け寄り、必死に押さえた。

「やめろ！！ 陽介！！」

「入ってくるな！！！」

　しかし、陽介はゆっくりと窓を押し開けようとする。

　そして——。

　陽介の顔が、窓の隙間から覗いた。

　その顔は、さっきよりもさらに白く、まるで蝋人形のように無表情だった。

「……陽介……なの……？」

　美咲が震える声で囁いた。

　陽介は——。

　口をゆっくりと開き、無感情な声で言った。

「……ちがう。」

　その瞬間——。

　バンッ！！！

　窓の向こうの陽介の姿が、突然消えた。

「消えた……！？」

　五人は窓の外を見下ろしたが、誰の姿もなかった。

「今の、なんだったの……？」

　紗奈が息を呑む。

　すると、突然——。

スマホの通知音が鳴った。

　五人は恐る恐る画面を開く。

　すると——。

　陽介から、たった一言だけメッセージが届いていた。

「……ぼくは、ここにいる。」

　その瞬間——。

コツ……コツ……

　閲覧室の奥から、再び靴音が響いた。

　しかし、それは——。

“6つ”あった。