逢魔ヶ刻の迷い子3

足音の正体

コツ……コツ……コツ……

　五人は背筋を凍らせながら、音のする方向を振り向いた。

　そこには——。

　誰もいない。

　しかし、靴音だけは確かに響いていた。

「……見えないのに、足音がする……」

　紗奈が息を詰まらせる。

　「陽介なの？」

　由香が、恐る恐る尋ねた。

　しかし、返事はない。

　それどころか——靴音が、少しずつ近づいてきた。

「やばい……やばい……！」

　美咲が後ずさる。

　その時——。

　バンッ！！

　突然、扉を叩く音が止んだ。

　同時に、靴音も消えた。

「……？」

　五人は息を殺し、静まり返った閲覧室を見渡した。

　すると、スマホの通知音が鳴った。

　陽介からのメッセージだった。

「そこにいるのは、俺じゃない。」

扉の向こう側
「……どういうこと？」

　大輝が震える声で呟いた。

　靴音の主が、陽介ではない？ ならば、今までここにいた“陽介”のような存在は一体何なのか？

「……わからない。でも、今のうちにここから出よう」

　隼人が扉の取っ手を握り、再び押す。

「……開かない」

　「くそ……」

　力を込めても、びくともしない。

　しかし——。

　扉の向こう側で、何かが動く音がした。

「……開ける。」

「……え？」

　五人は凍りついた。

　誰の声か、わからない。

　だが、確かに扉の向こうから、誰かが**「開ける」と言った。**

　そして——。

　カチャ……

　鍵が勝手に回った。

「嘘……」

　美咲が息をのむ。

　「……開いた？」

　隼人が慎重に扉を押すと、重い扉がゆっくりと開いていった。

　しかし——。

　扉の向こうには、誰の姿もなかった。

消えた陽介の行方
　五人は急いで廊下へと飛び出した。

　しかし、館内は相変わらず静まり返っている。

「陽介……？」

　由香が震えた声で呼びかける。

　しかし、返事はない。

「どこにいるんだよ……」

　隼人が焦燥に駆られながら呟いた。

　その時——。

　コツ……コツ……コツ……

　また、靴音が響いた。

　今度は——。

　1階の方から。

「下だ……！」

　大輝が叫ぶ。

「行こう！！」

　五人は一斉に階段を駆け下りた。

1階の静寂
　1階に降りると、靴音は止んでいた。

「どこから聞こえた？」

　紗奈が息を切らしながら辺りを見渡す。

「たぶん、受付の方……？」

　美咲が先頭に立ち、奥へ進む。

　図書館のカウンターの前まで来ると、そこで——。

　ノートが1冊、ぽつんと置かれていた。

「これ……陽介のノートじゃない？」

　隼人が手に取る。

　確かに、表紙には陽介の名前が書かれている。

　だが、ページを開くと——。

　そこに書かれていた文字が、変わっていた。

「たすけて。」
「まだ ここにいる。」
「出られない。」

「これ……陽介が書いたの？」

　由香が不安げに呟く。

　すると、またスマホの通知音が鳴った。

　陽介からのメッセージだった。

「1階の奥にいる。」

　五人は一斉に、閲覧室のさらに奥へと目を向けた。

　そこには——。

　開いたままの扉があった。

　いつの間にか開いていた扉の向こうには、暗闇が広がっていた。

「……行くしかないよね？」

　紗奈が不安げに言う。

　「もちろんだ。陽介を助けないと」

　隼人が決意を固めたように答えた。

　五人は、慎重に足を踏み出し——。

　その扉の奥へと、静かに消えていった。