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消えた記録
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陽介を無事に救い出した六人は、地下書庫から静かに地上へ戻った。
図書館の中は、まるで何事もなかったかのように静まり返っている。
時計を見ると、まだ夜の10時過ぎ。
並行世界に閉じ込められていた時間は、現実ではほとんど進んでいないようだった。
「……なんか、夢みたいだな」
隼人が息をつきながら言う。
「でも、夢じゃないよね」
美咲がスマホを開き、これまでのやりとりを確認する。
しかし——。
「え……?」
彼女は、思わずスマホを持つ手を強く握った。
「どうした?」
大輝が覗き込む。
「……ない……」
「ない?」
「さっきまでのメッセージ……陽介の『助けて』とか、『違う次元にいる』って言ってたやつ……全部、消えてる……」
美咲の言葉に、他の五人も慌ててスマホを確認する。
確かに、陽介の奇妙なメッセージや、彼が図書館から送ってきたはずのSOSは、すべて消えていた。
「嘘だろ……」
紗奈が顔を強張らせる。
「じゃあ……俺たちが体験したことって……?」
由香が震えながら呟く。
確かに、彼らは陽介を助けに行き、並行世界に迷い込み、そして戻ってきた。
でも、それを証明するものは何もない。
「……いや、ある」
陽介が静かに言った。
彼は、そっと自分のバッグの中から、地下書庫で見つけた『並行世界の境界』の本を取り出した。
その表紙は、間違いなく六人が見たものと同じだった。
「これだけは、消えてない」
陽介はそう言うと、そっと本を開いた。
そして、最終ページを見ると——。
そこに、新たな言葉が刻まれていた。
「鍵は開かれた。
しかし、境界はまだ存在している。
また誰かが、それを超える時が来るだろう——。」
「……まだ、終わってない……?」
隼人が息を呑む。
「これって……」
「もしかすると、この図書館は……ずっと“異世界と繋がっている”ってこと?」
美咲の言葉に、全員が黙り込んだ。
彼らはたまたま陽介を助け出すことができた。
しかし、この図書館の“謎”は、まだ完全に解決したわけではない。
「もう……二度と来ないほうがいいかもな」
陽介が小さく呟いた。
そして、彼らは静かに図書館を後にした。
第9章:奇妙な報告
次の日——。
六人は学校で再び集まり、昨夜の出来事について話し合った。
「やっぱり……信じられないよな」
隼人が首を振る。
「でも、現に陽介は消えかけてたし……俺たちも並行世界にいたんだよな」
「証拠はないけど、記憶には残ってる」
紗奈が言った。
その時——。
教室のドアが開き、クラスの担任の松田先生が入ってきた。
「お前ら、ちょっと話があるんだが……」
先生は、少し困った顔をしていた。
「何でしょう?」
美咲が尋ねると、松田先生は腕を組んで言った。
「図書館の話だ」
六人は、心臓が跳ね上がるのを感じた。
「昨日の夜、図書館で“異常があった”って報告が入った」
「異常?」
由香が震える声で聞き返す。
「警備員の人が巡回に行った時、本棚がいくつも倒れててな。
しかも、防犯カメラに変なものが映っていたらしい」
「変なもの……?」
陽介が息を呑む。
「誰もいないはずの廊下で、靴音だけが延々と響いていたらしい。」
六人は、思わず息を飲んだ。
「で、お前らに聞きたいんだが……昨日の夜、図書館に行ってないよな?」
先生の言葉に、全員が固まった。
「……」
「……いや、行ってません」
隼人が静かに答えた。
「そうか……まぁ、何か知ってたら教えてくれ」
先生はそう言い残し、教室を出て行った。
六人は、無言のまま顔を見合わせた。
「……まだ、何か起こってる……?」
美咲が囁いた。
昨夜、並行世界が崩れ、陽介は戻ってきたはず。
でも、図書館ではまだ“何か”が動いている。
「もう……関わらないほうがいいかもな」
陽介が苦笑いしながら言った。
「……だな」
紗奈が頷く。
それでも——。
彼らは心のどこかで、この話がまだ終わっていないことを感じていた。
第10章:境界の向こうから
その夜。
陽介は、自分の部屋で本を開いた。
『並行世界の境界』——
自分を閉じ込めた世界の“鍵”となった本。
パラパラとめくりながら、最後のページをもう一度確認する。
「鍵は開かれた。しかし、境界はまだ存在している。」
陽介は、深いため息をついた。
「もう……何も起きないよな……」
そう呟いた瞬間——。
スマホの通知音が鳴った。
陽介は、眉をひそめながら画面を開いた。
グループトークに、新しいメッセージが届いていた。
「助けて」
「……え?」
メッセージの送り主を見ると——。
それは、自分自身だった。
陽介は、震える手でメッセージを開く。
そこには、見覚えのないもう一つの自分のアイコンがあった。
そして、次の瞬間——。
「俺はまだ、ここにいる。」
その言葉とともに、スマホの画面が暗転した。
陽介は、息を詰まらせながら画面を見つめた。
その時——。
コツ……コツ……コツ……
部屋の外から、靴音が聞こえてきた——。
図書館の中は、まるで何事もなかったかのように静まり返っている。
時計を見ると、まだ夜の10時過ぎ。
並行世界に閉じ込められていた時間は、現実ではほとんど進んでいないようだった。
「……なんか、夢みたいだな」
隼人が息をつきながら言う。
「でも、夢じゃないよね」
美咲がスマホを開き、これまでのやりとりを確認する。
しかし——。
「え……?」
彼女は、思わずスマホを持つ手を強く握った。
「どうした?」
大輝が覗き込む。
「……ない……」
「ない?」
「さっきまでのメッセージ……陽介の『助けて』とか、『違う次元にいる』って言ってたやつ……全部、消えてる……」
美咲の言葉に、他の五人も慌ててスマホを確認する。
確かに、陽介の奇妙なメッセージや、彼が図書館から送ってきたはずのSOSは、すべて消えていた。
「嘘だろ……」
紗奈が顔を強張らせる。
「じゃあ……俺たちが体験したことって……?」
由香が震えながら呟く。
確かに、彼らは陽介を助けに行き、並行世界に迷い込み、そして戻ってきた。
でも、それを証明するものは何もない。
「……いや、ある」
陽介が静かに言った。
彼は、そっと自分のバッグの中から、地下書庫で見つけた『並行世界の境界』の本を取り出した。
その表紙は、間違いなく六人が見たものと同じだった。
「これだけは、消えてない」
陽介はそう言うと、そっと本を開いた。
そして、最終ページを見ると——。
そこに、新たな言葉が刻まれていた。
「鍵は開かれた。
しかし、境界はまだ存在している。
また誰かが、それを超える時が来るだろう——。」
「……まだ、終わってない……?」
隼人が息を呑む。
「これって……」
「もしかすると、この図書館は……ずっと“異世界と繋がっている”ってこと?」
美咲の言葉に、全員が黙り込んだ。
彼らはたまたま陽介を助け出すことができた。
しかし、この図書館の“謎”は、まだ完全に解決したわけではない。
「もう……二度と来ないほうがいいかもな」
陽介が小さく呟いた。
そして、彼らは静かに図書館を後にした。
第9章:奇妙な報告
次の日——。
六人は学校で再び集まり、昨夜の出来事について話し合った。
「やっぱり……信じられないよな」
隼人が首を振る。
「でも、現に陽介は消えかけてたし……俺たちも並行世界にいたんだよな」
「証拠はないけど、記憶には残ってる」
紗奈が言った。
その時——。
教室のドアが開き、クラスの担任の松田先生が入ってきた。
「お前ら、ちょっと話があるんだが……」
先生は、少し困った顔をしていた。
「何でしょう?」
美咲が尋ねると、松田先生は腕を組んで言った。
「図書館の話だ」
六人は、心臓が跳ね上がるのを感じた。
「昨日の夜、図書館で“異常があった”って報告が入った」
「異常?」
由香が震える声で聞き返す。
「警備員の人が巡回に行った時、本棚がいくつも倒れててな。
しかも、防犯カメラに変なものが映っていたらしい」
「変なもの……?」
陽介が息を呑む。
「誰もいないはずの廊下で、靴音だけが延々と響いていたらしい。」
六人は、思わず息を飲んだ。
「で、お前らに聞きたいんだが……昨日の夜、図書館に行ってないよな?」
先生の言葉に、全員が固まった。
「……」
「……いや、行ってません」
隼人が静かに答えた。
「そうか……まぁ、何か知ってたら教えてくれ」
先生はそう言い残し、教室を出て行った。
六人は、無言のまま顔を見合わせた。
「……まだ、何か起こってる……?」
美咲が囁いた。
昨夜、並行世界が崩れ、陽介は戻ってきたはず。
でも、図書館ではまだ“何か”が動いている。
「もう……関わらないほうがいいかもな」
陽介が苦笑いしながら言った。
「……だな」
紗奈が頷く。
それでも——。
彼らは心のどこかで、この話がまだ終わっていないことを感じていた。
第10章:境界の向こうから
その夜。
陽介は、自分の部屋で本を開いた。
『並行世界の境界』——
自分を閉じ込めた世界の“鍵”となった本。
パラパラとめくりながら、最後のページをもう一度確認する。
「鍵は開かれた。しかし、境界はまだ存在している。」
陽介は、深いため息をついた。
「もう……何も起きないよな……」
そう呟いた瞬間——。
スマホの通知音が鳴った。
陽介は、眉をひそめながら画面を開いた。
グループトークに、新しいメッセージが届いていた。
「助けて」
「……え?」
メッセージの送り主を見ると——。
それは、自分自身だった。
陽介は、震える手でメッセージを開く。
そこには、見覚えのないもう一つの自分のアイコンがあった。
そして、次の瞬間——。
「俺はまだ、ここにいる。」
その言葉とともに、スマホの画面が暗転した。
陽介は、息を詰まらせながら画面を見つめた。
その時——。
コツ……コツ……コツ……
部屋の外から、靴音が聞こえてきた——。
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