逢魔ヶ刻の迷い子3

naomikoryo

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夜の影

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コツ……コツ……コツ……

 闇の中で響く足音は、まるで五人のすぐ隣にいるかのようだった。

「ライト……!」

 隼人がスマホのライトをつけようとするが、なぜか画面が真っ暗のまま点かない。

「ダメだ、バッテリー切れ……!?」

「私のも!」

 紗奈も慌ててスマホを操作するが、同じく反応しない。

 五人は闇の中で息を殺した。

 どこかに“何か”がいる。

 それは、ただの靴音ではなく、何者かが確実に近づいている音だった。

「……夜の影って、まさか……」

 由香が震える声で呟いた。

「こいつのこと……?」

 その時——。

 スゥッ……

 闇の中に、ぼんやりとした影が浮かび上がった。

 それは人の形をしているが、顔はない。

 ただ、じっと彼らを見つめていた——いや、見つめているように感じた。

「……鍵を探さなきゃ……!」

 大輝が震えながら言った。

「『夜の影の中にある』って書いてあった……ってことは、この影の中に鍵が……?」

「どうやって?」

 美咲が息を呑む。

「……触るしかないのかも……」

 隼人が一歩前に出る。

「お、おい……!」

 紗奈が制止しようとしたが、隼人は勇気を振り絞って、影に手を伸ばした。

 その瞬間——。

 影が一気に広がり、五人を包み込んだ。

並行世界の狭間
 五人の視界が一瞬、真っ白になった。

 次の瞬間——。

 彼らは、元いた地下書庫ではなく、どこか異質な空間に立っていた。

 周囲を見回すと、そこは確かに図書館の地下書庫のようだった。

 しかし——すべてが逆になっていた。

 文字は左右反転し、棚の本も、並び順が逆。

 まるで、鏡の中の世界に迷い込んだようだった。

「ここって……」

 由香が呆然と呟く。

「……並行世界の図書館?」

 美咲が慎重に言った。

「じゃあ、ここに陽介がいるのか……?」

 その時——。

 奥の本棚の隙間から、小さな声が聞こえた。

「……助けて……」

「陽介!!」

 隼人が叫び、五人は声のする方へ駆け寄る。

 そして——。

 そこには、陽介がいた。

 しかし——陽介は、何かに捕らえられるように、黒い影に包まれていた。

「陽介!!」

 由香が駆け寄ろうとする。

 しかし——。

 バサッ!!

 陽介を包んでいた影が、一気に五人の前に立ちはだかった。

 それは先ほどの「夜の影」と同じ形をしていた。

 しかし今度は、確実に「意志」を持っているようだった。

「……出られない……」

 影が、不気味な声で囁いた。

「陽介を返せ!!」

 隼人が叫ぶが、影は動かない。

 その時——スマホの画面が突然光った。

 大輝がポケットから取り出すと、例の本の文字がスマホに浮かび上がっていた。

「境界の鍵は、“本当の自分”を見つけること。」

「本当の自分……?」

 五人は息を呑んだ。

「どういうこと?」

「もしかして……陽介自身が、自分の存在を“こっちの世界”に取り戻さないとダメなのかも……?」

「陽介!! 俺たちが見えるか!? こっちの世界に戻るんだ!!」

 隼人が必死に叫ぶ。

 しかし、陽介は苦しそうな顔をしながら、影に包まれたまま動けないでいた。

「どうすれば……」

 美咲が焦る。

 その時——。

 由香が、ふと自分のスマホを開いた。

 すると、そこに今までの陽介とのやり取りが記録されていた。

『何か、走り回っている靴音がする』
『ここから出られない』
『助けて』

「……そうか!!」

 由香が目を見開いた。

「陽介が、“本当の自分”を見失っているんだ!!」

「え?」

「だって、陽介のメッセージを見て! ずっと“俺はここから出られない”って言ってた。でも、もし自分が本当にここにいるって気付いたら、境界が崩れるんじゃない?」

「……試す価値はある!!」

 隼人が頷いた。

 五人は、陽介に向かって叫んだ。

「陽介!! ここにいるのは、お前だろ!!」

「お前は存在してる!! 俺たちが、お前を迎えに来たんだ!!」

「ここから抜け出すんだ!!」

 その瞬間——。

 陽介の目が、ゆっくりと開いた。

「……俺は……ここに……」

 影が、一気に揺らぎ始めた。

「俺は……ここにいる!!!」

 陽介が叫ぶと——。

 影が、弾けるように消えた。

 そして——。

 五人の視界が、一気に暗転した。

戻った世界
 次に目を開けた時——。

 五人は、元の地下書庫に立っていた。

「……戻った……?」

 美咲が呟く。

 周囲を見渡すと——。

 陽介が、そこにいた。

「陽介!!!」

 全員が駆け寄る。

「お前、大丈夫か!?」

 隼人が肩を掴む。

「……うん。でも……怖かった……」

 陽介は、震える声で答えた。

「もういいよ。俺たちが、お前を助けたんだから……」

 紗奈が微笑んだ。

 五人は、陽介の無事を確認し、安堵の息をついた。

 そして——。

 彼らは、二度とこの図書館の夜には近づかないと誓った。
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