25歳差の恋愛指南、それは人生最大の不覚でした

naomikoryo

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第四話:笑顔の仮面の裏で

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「あの……今日って、ほんとに“手をつなぐ練習”するんですか?」

開口一番、それ。
公園のベンチに座った新田純くんは、相変わらずフードパーカーに瓶底メガネという重装備。
10月の風が冷たいとはいえ、汗ばむほどの厚着だ。

「するよ? だって“擬似恋愛”なんだから、そろそろそういう段階入らないと。」

「……ですけど……人、いますし……」

「昼下がりの公園に人なんて、老夫婦と鳩ぐらいしかいないって」

彼は顔を伏せたまま、両手を膝の上に置いている。
まるで小学校の遠足で隣に女子が座った少年みたいな、ぎこちない空気。

私はため息をつくかわりに、笑った。

「はい、じゃあ。手出して」

「……」

「出さないなら、私が出すよ? 握っちゃうよ?」

おどけてみせたつもりだったけど、彼の表情はどこか強ばっていた。
それでも、おそるおそる右手を差し出してきた。

その瞬間。

(……でか……)

私の手なんて、すっぽり収まるくらいの大きな手だった。
指が長くて、ゴツゴツしてて、意外と男らしい手。

……ああ、ちょっとドキッとした。
予想してなかった反応。悔しいけど、ちょっとときめいた。

「ね、悪くないでしょ?」

「……手って、こんな……あったかいんですね」

彼のつぶやきが、やけに純粋すぎて、胸が少しだけちくりとした。
“無垢すぎる”って、時に罪だ。

(そういうこと、何の警戒もなく言うから……こっちが困るんだって)

「女の子ってさ、手をつないでもらうだけで、ちょっと安心できたりするの。気持ちが通じてるって、実感できるから」

「……気持ちが、通じてる……」

彼は繰り返すように呟き、視線を絡めてこない。
それが逆に、私をむず痒くさせた。

**

そのあと、カフェに移動した。
前回とは違って、少し落ち着いた雰囲気の、照明の暗い喫茶店。
“デート感”を演出したかった私の意図だった。

でも——

「注文、僕……まだ決められなくて……」

「大丈夫。私が頼むから」

「すみません……」

前回と何も変わってない。
会話も私がリードして、話題もこっち持ち。
彼は相づちを打つだけ。質問しても、反応は薄い。
……努力はしてるのかもしれない。
でも、“恋愛”ってそういうものじゃないんだよね。

「ねえ、純くん。女の子のどういうところが好きなの?」

「え……?」

「外見でも性格でもいいよ。“いいな”って思う瞬間とか、憧れでも」

彼は少し考え込んで、それからぽつりと答えた。

「……一緒にいて、安心できる人……ですかね。静かで、穏やかで、落ち着いてる人……」

(……あ、私じゃないな)

その一言で察してしまう自分が、少しだけ寂しかった。
もちろん、わかってる。私は社交的で明るくて、誰とでも打ち解けられるタイプ。
でも“安心”ってワードは、私に対して出てくるものじゃない。

ちょっとズレてるな、この子と私。
合ってない。

でも、仕事だし。社長に頼まれたし。
私、ちゃんと役割果たしてる。

なのに——彼の瞳は、最初からどこか“私じゃない方”を向いてる気がする。

(ねえ、純くん。あなた、本当に“恋愛”したいの? それとも——)

口に出しかけて、やめた。

私だって、プロの営業だ。
空気の変化に敏感なはずなのに、彼の中にある“壁”だけは、どうしても崩せない。

**

帰り道。
駅までの道を並んで歩いている時、私は彼に言った。

「ねえ、来週もまた会える?」

「はい……予定、大丈夫です」

「じゃあ、次はもう少し……距離、縮められるといいね」

彼は黙って頷いた。
それだけ。

言葉が続かないのは、もう慣れてきた。
でも、それって“慣れる”ことじゃないはずなのに。

私が笑顔の仮面を外さないのは、彼を怖がらせたくないから。
でも、少しずつ気づいてしまう。

——この子、私を“女性”として見ていない。

いえ、それどころか。

——“人”として向き合ってるかさえ、怪しい。

(……理奈社長、これ、本当に意味あるんですか?)

内心そう思いながら、それでも私は笑った。
相手が笑わないなら、自分が笑うしかない。

それが、佐久間凛華という女のやり方だ。
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