25歳差の恋愛指南、それは人生最大の不覚でした

naomikoryo

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第二十七話:「見返りを求めない恋」は、ほんとうにあるのか

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「いてくれるだけでいい」

その言葉を口にしたとき、
彼女が少しだけ息を止めたのを、僕は見ていた。

それは、拒絶でもなく、喜びでもなく、
ただ“どうしようもなく、苦しそうな沈黙”だった。

(……届いたんだと思った)
でも、同時に(届いちゃいけなかったのかもしれない)とも思った。

**

恋っていうのは、
たぶん、最初は一方通行から始まる。

誰かを見て、心が動いて、
触れたくなって、
言葉を交わしたくなって。

その先に、相手の反応があって、
同じ温度が返ってきて、ようやく恋になる。

でも、もしそれが返ってこなかったら?
ただただ、“一方通行”のままだったら?

それでも、この想いは“恋”と呼べるのか。

(……見返りを求めない恋なんて、あるのかな)

考えても、考えても、答えが出なかった。

**

僕が彼女を好きになったのは、たぶん、もうずいぶん前だ。

どの瞬間からかはわからないけれど、
電車で見かけた時のあの後ろ姿、
“知り合いのふり”をしてくれた声、
あの日から何かが始まっていた気がする。

その気持ちに気づくまでに時間はかかったけれど、
今となっては、明確にわかる。

僕は、彼女に恋をしている。

でも、その恋は“成立していない”。

“成立”ってなんだろう。
付き合うこと?
触れ合うこと?
キスをすること?

たぶん、それは違う。

彼女の心に、自分の想いが“居場所”を持つこと。
それが、恋が成立するということ。

でも、今の彼女の中には、僕の想いを置く場所がない。

きっと、それはわかっている。

**

「純くんは、優しい子ね」

以前、ぽつりと彼女が言った言葉が、何度も胸に刺さる。

優しい。
それは、褒め言葉のようでいて、ときに“境界線”の宣告でもある。

「あなたはそういう子。だから好きにはならない」

そう言われているような、そんな気がした。

**

それでも、僕はまだこの気持ちを止められない。

彼女に触れたい。
彼女の時間の中にいたい。
彼女の考えていることをもっと知りたい。

でも、それが“恋人になりたい”という意味じゃない。

(……きっと、そばにいたいだけなんだ)

ただ、それだけ。

彼女が泣きそうな顔をしていたら、
手を伸ばせる距離にいたい。
声をかけられる場所にいたい。

見返りなんて、いらない。
そう思っていた。
……思いたかった。

でも——

(それでも、ほんの少しだけ、“欲しい”って思ってしまう)

彼女の言葉。
彼女の笑顔。
彼女の目が、僕だけを見てくれる瞬間。

それを“もらえた”と感じたとき、
どうしようもなく、胸が熱くなる。

……これが、“見返り”じゃなかったら、何だろう。

**

(見返りを求めない恋なんて、本当は無理なんだ)

そう、思いかけたとき。
ふと、スマートフォンが鳴った。

《理奈:次のレッスン、来週の金曜で大丈夫? 時間は変則になるかも》

名前のあとに、初めて“理奈”という文字だけの表示。

「社長」じゃない。
「結城さん」でもない。

ただの、“理奈”。

ほんのそれだけのことで、
どうしようもなく、胸が満たされた。

**

(ああ、やっぱり——)

僕は、少しでも“返ってくる”ことを望んでしまっている。

理奈さんのなにげない言葉の中に、
自分への“特別”を探してしまっている。

これが、見返りじゃなくてなんだろう。

**

それでも、もうやめられない。

恋はもう、始まってしまった。
そしてたぶん、僕の中ではもう、終わり方を選べない。

叶わなくてもいい。
手に入らなくてもいい。
でも、できる限り“そばにいたい”という気持ちだけは、
これからも、絶対に変えない。

そう思って、スマートフォンを持ったまま、
一言だけ返した。

『はい、大丈夫です。時間、合わせます』

それだけで、また今日も、
彼女の名前で胸がいっぱいになる。

——これが、恋の見返りなんだと思う。
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