25歳差の恋愛指南、それは人生最大の不覚でした

naomikoryo

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第二十八話:「あなたの未来に、私はもう、いられないの」

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『次のレッスン、来週の金曜で大丈夫? 時間は変則になるかも』

いつも通り、何気なく送ったメッセージ。

でも、名前の表示がふと気になって。
“社長”ではなく、“理奈”とだけ。

スマートフォンの画面に浮かぶ彼からの返信。

『はい、大丈夫です。時間、合わせます』

それだけ。
何の装飾もない言葉。

なのに、その無垢な受け入れが、胸に刺さった。

(……この子は、私を“理奈”として受け入れようとしている)

それは優しさ?
それとも——恋?

どちらにしても、
きっと彼は気づいていない。

私の中では、
そのたった数文字が、どれだけの重さを持っているかなんて。

**

(……あなたの未来に、私はもう、いられないのよ)

最近、ふとした瞬間に、その言葉が胸の奥からせり上がってくる。

鏡の中の自分を見るとき。
彼が送ってきた真面目な原稿を読むとき。
スタッフの若い笑い声に包まれたオフィスの中で、ふと孤独を感じるとき。

彼の純粋さは、眩しい。
目を細めたくなるほどの“まっすぐさ”がある。

そしてそのまなざしの先に、
私のような女が映っていることが、怖くてたまらない。

**

彼は私に恋をしている。
もう、それは明らかだった。

目を合わせたときの微細な迷い。
言葉の端々に宿る温度。
そして、何より“踏み込みすぎない優しさ”。

(本当にずるいわ、あなた)

まっすぐなのに、押し付けてこない。
欲しいと言わず、ただそこにいようとする。
与えすぎず、でも欠けてもいない。

そんな“完璧な距離感”が、
どんどん私の中の理性を溶かしていく。

(もう、これ以上はだめ)

**

私は、彼の“初恋”かもしれない。
そしてそれは、彼の“原点”になる可能性がある。

……だからこそ、
私は、その記憶に“傷”をつけてはいけない。

私という存在が、彼の心のどこかで“間違いだった”と残るようなことは、
絶対に、してはいけない。

それが、彼への最大の誠意。
……そして、私の最後の理性。

**

(引き際を考えないと)

今すぐではなくてもいい。
でも、次のレッスンで“区切り”をつけなければいけない気がした。

たとえば。

彼が恋愛小説の第一稿を書き終えたら。
それを提出して、一通りの手直しが済んだら。
“教育”としての役割が終わったら。

……そのとき、自然に距離を戻す。

「お疲れさま」
「いい作品に育ったわね」
「また、必要があれば声をかけて」

そうやって、大人らしく終わらせる。

——感情ごと、なかったことにして。

**

でも、それができるのかと聞かれたら、
今の私は答えられない。

指輪を外しそうになる夜が、増えている。
彼の名前を、スマートフォンで何度も眺めてしまう。
ノートを開けば、気づけば彼の台詞の書き方ばかり考えている。

それはもう、恋じゃないと、誰が言える?

(……お願い、純くん)

どうかその手を、これ以上伸ばさないで。
私が振りほどけないくらいに、優しくならないで。

そんなふうに願ってしまう自分がいる。

**

秋の風が強くなってきた夜。

書斎の窓を少しだけ開けると、
遠くで、金木犀の香りがふわりと漂った。

彼と見たあの美術館の帰り道、
同じように香っていた、あの甘い匂い。

——あのとき、彼の横顔を見て、
ほんの少しだけ、“未来”を想像してしまった。

(……でも、それは私の役じゃない)

彼の未来に並ぶべき誰かは、
きっともっと若くて、
これからを一緒に育てていける女性で。

私は、その舞台には、もう立てない。

そう思って、目を閉じた。

なのに、
心のどこかが、強く、強く、抗っている。

(いまさら、何を望んでるのよ)

自嘲するように笑って、
それでも、次のレッスン日をカレンダーにそっと書き込んだ。

まるでそれが、
もう一度、彼に会える“言い訳”になるように。
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