25歳差の恋愛指南、それは人生最大の不覚でした

naomikoryo

文字の大きさ
37 / 75

第三十七話:「“待つ”という選択が、こんなに心を消耗させるなんて」

しおりを挟む
『少しだけ、考える時間をください』

理奈さんからの返信は、それだけだった。

その言葉を見た瞬間、
スマートフォンを胸に押し当てて、目を閉じた。

嬉しかった。

まだ拒まれていないことが、
完全に終わりにならなかったことが、
ほんの少しだけ希望をくれた。

だけど――

**

時間が経つほどに、
その“希望”は、不安と背中合わせの毒になっていった。

「少しだけ」って、どれくらい?
一週間? 一ヶ月?
それとも、永遠に答えが来ない可能性もある?

(……それでも、待つって決めたのは、自分だ)

彼女が迷っているのは、わかっていた。

迷う理由も、わかっていた。

25歳の年齢差。
社長と作家という立場。
過去に失った人への想い。
ずっとつけている左手の指輪。

(俺は、あの人の“全部”を奪おうとしてるのかもしれない)

“ありがとう”と返してくれた彼女の声は、
震えていた。

優しさと、戸惑いと、
きっとそれだけじゃない感情が混ざっていた。

でも、そこに“嫌悪”はなかった。

だから信じたい。
信じていたい。

でも、「信じる」という選択が、
こんなにも孤独で、
こんなにも心を消耗させるものだとは、思っていなかった。

**

その日から、僕はしばらく編集部に顔を出さなかった。

理由は、原稿をまとめるため――
という建前。

本当は、顔を見るのが怖かった。

彼女の目の奥に、
「答えはNOです」と書かれていたらどうしよう。
無意識にでも、拒絶の気配を感じ取ってしまったらどうしよう。

(……自分がこんなに臆病だとは思わなかった)

彼女に想いを伝えた日、
あんなにもまっすぐに言えたのに。

今は、たった一言の“返信のない既読”に、
どれだけ傷ついているんだろう。

**

午前2時。

眠れない夜が続いていた。

恋愛小説の原稿は、もうほぼ完成している。
でも、物語のラストシーンを書かないまま、ページを閉じていた。

“この物語は、ハッピーエンドでいいのか?”

現実がまだ、
終わりを見せてくれないから。

**

ノートを開いて、心の中を言葉にする。

僕は今、待っている。
拒まれたわけじゃない。
でも、選ばれたわけでもない。

誰かの気持ちが動くのを、
信じることしかできない時間が、
こんなにも痛いとは思わなかった。

でも、彼女がもし、
この時間を“本気で考えてくれている”なら、
僕はどれだけでも待てる。

ただの気遣いじゃないことを、
願っている。

**

夜明け前、ほんの一瞬だけスマートフォンが光った。

胸が高鳴った。
でも、それは編集部の定期通知だった。

落胆した自分に、苦笑いをこぼす。

(……情けないな)

でも、今の僕は、
彼女の“ほんの一言”で喜び、
“返信がない沈黙”で傷つくくらいには、
恋をしている。

これはもう、言葉ではない。
説明ではない。
感情そのものだ。

**

静かに、部屋の灯りを落とす。

指先が、理奈さんの名前をなぞる。

彼女が僕の手を取ってくれなくても、
心だけは、離れないようにしたい。

でも、できれば――

僕の“好き”が、彼女の“好き”と繋がってくれたらいい。

それだけを願いながら、
目を閉じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

紙の上の空

中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。 容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。 欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。 血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。 公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

処理中です...