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第四十一話:「“ずるい”って言葉の奥に、本当の理奈さんがいた」
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通知が鳴った瞬間、
それが彼女からだとわかっていた。
どんなに画面を見ていなくても、
たった一通の文字列で、心臓が跳ね上がる。
『……昨日、佐久間さんが伺ったと聞きました』
そこから始まる数行の文章に、
息を呑んだ。
『口を出す資格なんてないのはわかってる』
『でも……どうしようもなく、胸が苦しくなりました』
『私、ずるいですね』
(……そんなふうに思ってくれてたんだ)
思わずスマートフォンを両手で抱えるように持った。
画面の光が、暗い部屋にぼんやりと滲んでいた。
今夜は、眠れそうにない。
**
“ずるい”
その一言が、胸に残った。
きっと彼女にとって、それは“感情を漏らしてしまった”ことへの自嘲だったのだろう。
彼女はいつだって大人で、完璧で、弱さを見せない人だったから。
でも僕には――
その「ずるさ」こそが、たまらなく愛おしく思えた。
**
人を好きになるって、
その人の完璧さに惹かれることじゃない。
むしろ、
誰にも見せなかったはずの“欠けた部分”を、
ほんの少しだけ自分に見せてくれたとき、
心は深く、強く、縛られていく。
理奈さんの“揺らぎ”が、
“迷い”が、
今夜は僕の胸の奥にまっすぐ突き刺さっている。
そして、その痛みが、どこまでも優しかった。
**
僕は彼女に返信した。
『ずるくなんかありません。
僕は、あなたがそのままの気持ちを言ってくれることが、いちばん嬉しいです。』
返したあと、何度もその画面を見直してしまう。
これでよかったのか。
彼女をまた困らせることになってないか。
でも――
「“嬉しい”」って言葉は、嘘じゃない。
彼女が、他の誰かに心を乱されてくれたこと。
その相手が僕だったこと。
それを自分の言葉で伝えてくれたこと。
どれも、心の深いところを優しく満たしていく。
**
理奈さんが僕を好きになることは、
たぶん、とても怖いことなんだろうと思う。
年齢差。
会社の中の関係性。
そして、亡くなった旦那さんへの想い。
彼女にとって、
僕を受け入れることは“何かを失うこと”に近いのかもしれない。
でも、僕は。
僕にとって彼女を想うことは、
“生まれて初めて何かを守りたいと思ったこと”だった。
**
夜が深まっていく。
眠るべき時間を過ぎても、
僕はただ、ノートパソコンの前で画面を見つめていた。
物語のラストシーン。
男が、年上の女性に想いを伝えたあと、
その返事を静かに待つ章を書きかけていた。
だけど、今なら書ける気がした。
ラストに必要なのは、派手なキスシーンでも、感動的なハッピーエンドでもない。
一言でいい。
“あなたがここにいてくれて、嬉しい”――それだけで物語は完結する。
なぜなら、
それこそが、僕の本心だから。
**
一行だけ、キーボードを打った。
「私は……あなたのことが、好きみたい」
女性主人公のその台詞を書いたとき、
不意に胸が熱くなった。
(……そうだ)
僕は、彼女のその言葉が、
いつか現実でも聞けたらいいと願っている。
「ずるい」と言った彼女が、
“恋をしてしまった自分”を隠さずにいられるように。
その未来のために、
僕は今、何ができるだろう。
**
スマートフォンを手に取り、
もう一通だけ短いメッセージを送る。
『理奈さん。僕は、あなたが自分を許すその瞬間まで、
ちゃんと待っています。』
すぐには返事は来なかった。
でも、
その既読のマークがついたことで、
それだけで今夜は、眠れる気がした。
(あなたが、心のどこかで“僕の名前”を考えてくれただけで、
もう十分だ)
ただの少年だった僕が、
初めて“男”になろうとしている。
それを許してくれる女性が、
理奈さんであることが、
何よりの誇りだった。
それが彼女からだとわかっていた。
どんなに画面を見ていなくても、
たった一通の文字列で、心臓が跳ね上がる。
『……昨日、佐久間さんが伺ったと聞きました』
そこから始まる数行の文章に、
息を呑んだ。
『口を出す資格なんてないのはわかってる』
『でも……どうしようもなく、胸が苦しくなりました』
『私、ずるいですね』
(……そんなふうに思ってくれてたんだ)
思わずスマートフォンを両手で抱えるように持った。
画面の光が、暗い部屋にぼんやりと滲んでいた。
今夜は、眠れそうにない。
**
“ずるい”
その一言が、胸に残った。
きっと彼女にとって、それは“感情を漏らしてしまった”ことへの自嘲だったのだろう。
彼女はいつだって大人で、完璧で、弱さを見せない人だったから。
でも僕には――
その「ずるさ」こそが、たまらなく愛おしく思えた。
**
人を好きになるって、
その人の完璧さに惹かれることじゃない。
むしろ、
誰にも見せなかったはずの“欠けた部分”を、
ほんの少しだけ自分に見せてくれたとき、
心は深く、強く、縛られていく。
理奈さんの“揺らぎ”が、
“迷い”が、
今夜は僕の胸の奥にまっすぐ突き刺さっている。
そして、その痛みが、どこまでも優しかった。
**
僕は彼女に返信した。
『ずるくなんかありません。
僕は、あなたがそのままの気持ちを言ってくれることが、いちばん嬉しいです。』
返したあと、何度もその画面を見直してしまう。
これでよかったのか。
彼女をまた困らせることになってないか。
でも――
「“嬉しい”」って言葉は、嘘じゃない。
彼女が、他の誰かに心を乱されてくれたこと。
その相手が僕だったこと。
それを自分の言葉で伝えてくれたこと。
どれも、心の深いところを優しく満たしていく。
**
理奈さんが僕を好きになることは、
たぶん、とても怖いことなんだろうと思う。
年齢差。
会社の中の関係性。
そして、亡くなった旦那さんへの想い。
彼女にとって、
僕を受け入れることは“何かを失うこと”に近いのかもしれない。
でも、僕は。
僕にとって彼女を想うことは、
“生まれて初めて何かを守りたいと思ったこと”だった。
**
夜が深まっていく。
眠るべき時間を過ぎても、
僕はただ、ノートパソコンの前で画面を見つめていた。
物語のラストシーン。
男が、年上の女性に想いを伝えたあと、
その返事を静かに待つ章を書きかけていた。
だけど、今なら書ける気がした。
ラストに必要なのは、派手なキスシーンでも、感動的なハッピーエンドでもない。
一言でいい。
“あなたがここにいてくれて、嬉しい”――それだけで物語は完結する。
なぜなら、
それこそが、僕の本心だから。
**
一行だけ、キーボードを打った。
「私は……あなたのことが、好きみたい」
女性主人公のその台詞を書いたとき、
不意に胸が熱くなった。
(……そうだ)
僕は、彼女のその言葉が、
いつか現実でも聞けたらいいと願っている。
「ずるい」と言った彼女が、
“恋をしてしまった自分”を隠さずにいられるように。
その未来のために、
僕は今、何ができるだろう。
**
スマートフォンを手に取り、
もう一通だけ短いメッセージを送る。
『理奈さん。僕は、あなたが自分を許すその瞬間まで、
ちゃんと待っています。』
すぐには返事は来なかった。
でも、
その既読のマークがついたことで、
それだけで今夜は、眠れる気がした。
(あなたが、心のどこかで“僕の名前”を考えてくれただけで、
もう十分だ)
ただの少年だった僕が、
初めて“男”になろうとしている。
それを許してくれる女性が、
理奈さんであることが、
何よりの誇りだった。
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