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第四十三話:「私のことを“綺麗な女性”って、誰よりも正面から言ってくれたのは――あなた」
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「結城社長、SNS見ました? すごいことになってますよ!」
朝、出社してすぐに若い社員が駆け寄ってきた。
手にはスマホ、画面にはあの夜の居酒屋動画。
「……これ、見ていいんですか?」
「いいもなにも、もう再生50万超えてますよ!?
“ラノベの王子様がリアルに降臨した”ってタグまでついてて、
“年上美人社長との恋、尊い……”ってコメントで埋まってて」
心臓が跳ねた。
(……やっぱり、あの場にいた誰かが撮ってたのね)
動画には、
あの子――新田純が、私たちの前に現れ、
「いやだなぁ、おっさんって。
こんなに綺麗な女性たちがわからなくなってしまうんですね」
と言って笑う姿が、鮮明に残っていた。
(綺麗な……女性)
その言葉だけが、
今も胸の奥で、何度も静かに波紋を広げている。
**
「おばさんたちだけじゃ寂しいと思って」
そう言ってきた中年の男に対して、
彼は“綺麗な女性たち”と返した。
それは咄嗟に出た言葉じゃなかった。
私には、そう思えた。
彼はあの瞬間、
私のことを“守るため”だけじゃなく、
“認めるため”に、あの言葉を選んでくれた。
(もう、やめてよ……そんなふうに、優しくしないで)
誰かに褒められることなんて、何年もなかった。
ましてや、女性として“綺麗”だなんて。
鏡を見るたびに、自分の年齢を感じていた。
肌のハリも、体型の変化も、
二十代の頃とは違う。
でも、彼だけは――
そんな私を見て、“綺麗だ”と言ってくれた。
**
週刊誌の記者もやってきた。
「真実の愛ですね」と茶化すように言われたけど、
私は何も答えなかった。
社内では噂が渦巻いている。
社員たちは私の前では言葉を選んでいるけど、
それでも“気になって仕方がない”空気が伝わってくる。
(バズった。会社は恩恵を受けてる。純の小説も売れてる。
……それは、素晴らしいこと)
でも、私は――
あの夜の“言葉”だけが、本当の救いだった。
**
昼、オフィスに差し入れが届いた。
中には小さな紙袋と、メモ。
『“王子”らしいことをしてしまったみたいです。
でも、社長が困っていたから、あれが僕の精一杯でした。
理奈さんが笑ってくれたなら、それだけで十分です。』
純からだった。
笑ってない。
むしろ泣きたくなるくらい、苦しかった。
(あなたが、あの場に来てくれたこと。
ただの“王子様ごっこ”なんかじゃなかった。
私は――)
**
その夜。
自宅で、ソファに座りながら、
タブレットで再びあの動画を見返していた。
何度も見た。
彼の声。表情。
私を見ていた、あの一瞬。
そのすべてが、何よりも真実だった。
画面の中で「綺麗な女性」と呼ばれた私は、
思っていたよりずっと驚いた顔をしていた。
でも、目が……どこか嬉しそうに揺れていた。
(私……こんな顔、まだできるのね)
もう“女”としての人生は終わったと思っていた。
仕事に誇りを持って、人に頼られ、尊敬されていれば十分だと。
もう、恋なんて望むべくもないと、思っていた。
でも――
あの子は、そんな私を“綺麗な女性”と呼んだ。
誰よりも正面から、
誰よりも真っ直ぐに。
**
次の日。
私は少しだけ、強い気持ちでオフィスのドアを開けた。
周囲の目は気にしない。
何を言われても構わない。
(もう、言い訳にするのはやめよう)
年齢も、立場も、過去も。
どれも、あの子の“まっすぐな想い”を否定する理由にはならない。
私は、誰かを想っている。
その誰かが、私を守ろうとする姿に、心を奪われた。
それが真実だった。
**
そして、
夜遅く、誰もいないオフィスで、
私は彼にメッセージを送った。
『あなたが来てくれたあの夜のこと、
誰よりも感謝しています。
“綺麗”だなんて、
そんなふうに思われる日がまた来るなんて、思ってなかった。』
『ありがとう、純くん。
あなたのおかげで……私、また“女”でいられる気がしました。』
送ったあと、胸に手を置く。
震えている心臓が、
やっと自分のものになった気がした。
私は、きっともう、
戻れないところまで来てしまっている。
でもそれでいい。
私は――
この恋を、生きてみたいと思っている。
朝、出社してすぐに若い社員が駆け寄ってきた。
手にはスマホ、画面にはあの夜の居酒屋動画。
「……これ、見ていいんですか?」
「いいもなにも、もう再生50万超えてますよ!?
“ラノベの王子様がリアルに降臨した”ってタグまでついてて、
“年上美人社長との恋、尊い……”ってコメントで埋まってて」
心臓が跳ねた。
(……やっぱり、あの場にいた誰かが撮ってたのね)
動画には、
あの子――新田純が、私たちの前に現れ、
「いやだなぁ、おっさんって。
こんなに綺麗な女性たちがわからなくなってしまうんですね」
と言って笑う姿が、鮮明に残っていた。
(綺麗な……女性)
その言葉だけが、
今も胸の奥で、何度も静かに波紋を広げている。
**
「おばさんたちだけじゃ寂しいと思って」
そう言ってきた中年の男に対して、
彼は“綺麗な女性たち”と返した。
それは咄嗟に出た言葉じゃなかった。
私には、そう思えた。
彼はあの瞬間、
私のことを“守るため”だけじゃなく、
“認めるため”に、あの言葉を選んでくれた。
(もう、やめてよ……そんなふうに、優しくしないで)
誰かに褒められることなんて、何年もなかった。
ましてや、女性として“綺麗”だなんて。
鏡を見るたびに、自分の年齢を感じていた。
肌のハリも、体型の変化も、
二十代の頃とは違う。
でも、彼だけは――
そんな私を見て、“綺麗だ”と言ってくれた。
**
週刊誌の記者もやってきた。
「真実の愛ですね」と茶化すように言われたけど、
私は何も答えなかった。
社内では噂が渦巻いている。
社員たちは私の前では言葉を選んでいるけど、
それでも“気になって仕方がない”空気が伝わってくる。
(バズった。会社は恩恵を受けてる。純の小説も売れてる。
……それは、素晴らしいこと)
でも、私は――
あの夜の“言葉”だけが、本当の救いだった。
**
昼、オフィスに差し入れが届いた。
中には小さな紙袋と、メモ。
『“王子”らしいことをしてしまったみたいです。
でも、社長が困っていたから、あれが僕の精一杯でした。
理奈さんが笑ってくれたなら、それだけで十分です。』
純からだった。
笑ってない。
むしろ泣きたくなるくらい、苦しかった。
(あなたが、あの場に来てくれたこと。
ただの“王子様ごっこ”なんかじゃなかった。
私は――)
**
その夜。
自宅で、ソファに座りながら、
タブレットで再びあの動画を見返していた。
何度も見た。
彼の声。表情。
私を見ていた、あの一瞬。
そのすべてが、何よりも真実だった。
画面の中で「綺麗な女性」と呼ばれた私は、
思っていたよりずっと驚いた顔をしていた。
でも、目が……どこか嬉しそうに揺れていた。
(私……こんな顔、まだできるのね)
もう“女”としての人生は終わったと思っていた。
仕事に誇りを持って、人に頼られ、尊敬されていれば十分だと。
もう、恋なんて望むべくもないと、思っていた。
でも――
あの子は、そんな私を“綺麗な女性”と呼んだ。
誰よりも正面から、
誰よりも真っ直ぐに。
**
次の日。
私は少しだけ、強い気持ちでオフィスのドアを開けた。
周囲の目は気にしない。
何を言われても構わない。
(もう、言い訳にするのはやめよう)
年齢も、立場も、過去も。
どれも、あの子の“まっすぐな想い”を否定する理由にはならない。
私は、誰かを想っている。
その誰かが、私を守ろうとする姿に、心を奪われた。
それが真実だった。
**
そして、
夜遅く、誰もいないオフィスで、
私は彼にメッセージを送った。
『あなたが来てくれたあの夜のこと、
誰よりも感謝しています。
“綺麗”だなんて、
そんなふうに思われる日がまた来るなんて、思ってなかった。』
『ありがとう、純くん。
あなたのおかげで……私、また“女”でいられる気がしました。』
送ったあと、胸に手を置く。
震えている心臓が、
やっと自分のものになった気がした。
私は、きっともう、
戻れないところまで来てしまっている。
でもそれでいい。
私は――
この恋を、生きてみたいと思っている。
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