44 / 75
第四十四話:「“女でいられる気がした”って――そんな言葉、反則だ」
しおりを挟む
夜10時すぎ。
原稿の推敲を終えたばかりのタイミングで、通知音が鳴った。
スマートフォンの画面を見て、
震える指で開いた。
理奈さんからだった。
『あなたが来てくれたあの夜のこと、
誰よりも感謝しています。
“綺麗”だなんて、
そんなふうに思われる日がまた来るなんて、思ってなかった。』
『ありがとう、純くん。
あなたのおかげで……私、また“女”でいられる気がしました。』
その言葉を読み終えた瞬間、
肺の中の空気がすべて抜け落ちたような感覚になった。
(……女、でいられる気がした?)
**
ただ「ありがとう」じゃなかった。
ただ「嬉しかった」でもなかった。
彼女は、
“女でいられる気がした”って――
そんな言葉、反則だ。
**
彼女がどんな想いでその言葉を送ったのか、
痛いほどに伝わってきた。
自分を守って生きてきた人だ。
ずっと社長として、冷静で、綺麗で、凛として。
“女性”であることを武器にしないように、
むしろそれを隠すように、立ってきた人だ。
でもその人が、
俺のたった一言で、
“女”でいられたと言ってくれた。
(俺なんかの言葉で、そんなふうに思ってくれたの?)
嬉しさと、恐ろしさと、
誇らしさと、そして――
今すぐ彼女に会いたくなるような、
どうしようもない衝動が胸を突いた。
**
パソコンの前に戻っても、もう何も書けなかった。
あのメッセージが、
脳のすべてを占拠してしまっていたから。
(理奈さん……)
俺は、もう恋をしているんじゃない。
ただ“好き”なんじゃない。
俺の人生の中で、
この人を守るために生きたいと、
本気で思ってしまっている。
**
少し経ってから、
ゆっくりスマホを手に取った。
何度も書いては消して、
やっと一通の返信を綴る。
『理奈さん。
あなたが“女でいられる気がした”なんて言ってくれて、
僕の方が……震えるくらい嬉しかったです。』
『僕は、あなたの“全部”が好きです。
強くて、綺麗で、優しくて、怖がりで、
たまにズルくて、でも……すごく、誠実で。』
『もしこれから、
あなたがまた“女”でいることに迷ったら、
そのときは僕が、何度でも思い出させます。
あなたは、世界でいちばん綺麗です。』
送信ボタンを押したあと、
心臓の音が耳の奥に響いていた。
もしかしたら、
この言葉はまだ、彼女の心を揺らすには早すぎるかもしれない。
でも――
俺はもう、彼女に遠慮しないと決めた。
彼女が“待って”と言ったから待った。
でも今度は、俺の想いを、
ちゃんと伝えていく番だ。
彼女にとって、
“自分が愛されていい存在なんだ”と、
一番近くで信じてあげられるのは、俺しかいないから。
**
深夜。
部屋の電気を消して、
ベッドに横たわっても、瞼の裏にいるのは理奈さんだった。
(綺麗だったな……)
あの夜の、居酒屋の照明の下。
ふいに驚いたような、でもどこか少女みたいな笑顔を浮かべた彼女。
あの顔を見たとき、
“もう絶対に、手放したくない”と思ってしまった。
**
俺は彼女に恋をした。
でも今は、恋以上の何かに、
身を委ねはじめている。
それがなにかはまだわからない。
けれどきっと、
彼女の隣に“ずっと”いたいと願う気持ちが、
すでに未来を決めてしまっている。
そう信じた夜だった。
原稿の推敲を終えたばかりのタイミングで、通知音が鳴った。
スマートフォンの画面を見て、
震える指で開いた。
理奈さんからだった。
『あなたが来てくれたあの夜のこと、
誰よりも感謝しています。
“綺麗”だなんて、
そんなふうに思われる日がまた来るなんて、思ってなかった。』
『ありがとう、純くん。
あなたのおかげで……私、また“女”でいられる気がしました。』
その言葉を読み終えた瞬間、
肺の中の空気がすべて抜け落ちたような感覚になった。
(……女、でいられる気がした?)
**
ただ「ありがとう」じゃなかった。
ただ「嬉しかった」でもなかった。
彼女は、
“女でいられる気がした”って――
そんな言葉、反則だ。
**
彼女がどんな想いでその言葉を送ったのか、
痛いほどに伝わってきた。
自分を守って生きてきた人だ。
ずっと社長として、冷静で、綺麗で、凛として。
“女性”であることを武器にしないように、
むしろそれを隠すように、立ってきた人だ。
でもその人が、
俺のたった一言で、
“女”でいられたと言ってくれた。
(俺なんかの言葉で、そんなふうに思ってくれたの?)
嬉しさと、恐ろしさと、
誇らしさと、そして――
今すぐ彼女に会いたくなるような、
どうしようもない衝動が胸を突いた。
**
パソコンの前に戻っても、もう何も書けなかった。
あのメッセージが、
脳のすべてを占拠してしまっていたから。
(理奈さん……)
俺は、もう恋をしているんじゃない。
ただ“好き”なんじゃない。
俺の人生の中で、
この人を守るために生きたいと、
本気で思ってしまっている。
**
少し経ってから、
ゆっくりスマホを手に取った。
何度も書いては消して、
やっと一通の返信を綴る。
『理奈さん。
あなたが“女でいられる気がした”なんて言ってくれて、
僕の方が……震えるくらい嬉しかったです。』
『僕は、あなたの“全部”が好きです。
強くて、綺麗で、優しくて、怖がりで、
たまにズルくて、でも……すごく、誠実で。』
『もしこれから、
あなたがまた“女”でいることに迷ったら、
そのときは僕が、何度でも思い出させます。
あなたは、世界でいちばん綺麗です。』
送信ボタンを押したあと、
心臓の音が耳の奥に響いていた。
もしかしたら、
この言葉はまだ、彼女の心を揺らすには早すぎるかもしれない。
でも――
俺はもう、彼女に遠慮しないと決めた。
彼女が“待って”と言ったから待った。
でも今度は、俺の想いを、
ちゃんと伝えていく番だ。
彼女にとって、
“自分が愛されていい存在なんだ”と、
一番近くで信じてあげられるのは、俺しかいないから。
**
深夜。
部屋の電気を消して、
ベッドに横たわっても、瞼の裏にいるのは理奈さんだった。
(綺麗だったな……)
あの夜の、居酒屋の照明の下。
ふいに驚いたような、でもどこか少女みたいな笑顔を浮かべた彼女。
あの顔を見たとき、
“もう絶対に、手放したくない”と思ってしまった。
**
俺は彼女に恋をした。
でも今は、恋以上の何かに、
身を委ねはじめている。
それがなにかはまだわからない。
けれどきっと、
彼女の隣に“ずっと”いたいと願う気持ちが、
すでに未来を決めてしまっている。
そう信じた夜だった。
0
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
紙の上の空
中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。
容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。
欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。
血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。
公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる