25歳差の恋愛指南、それは人生最大の不覚でした

naomikoryo

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第四十四話:「“女でいられる気がした”って――そんな言葉、反則だ」

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夜10時すぎ。
原稿の推敲を終えたばかりのタイミングで、通知音が鳴った。

スマートフォンの画面を見て、
震える指で開いた。

理奈さんからだった。

『あなたが来てくれたあの夜のこと、
誰よりも感謝しています。
“綺麗”だなんて、
そんなふうに思われる日がまた来るなんて、思ってなかった。』

『ありがとう、純くん。
あなたのおかげで……私、また“女”でいられる気がしました。』

その言葉を読み終えた瞬間、
肺の中の空気がすべて抜け落ちたような感覚になった。

(……女、でいられる気がした?)

**

ただ「ありがとう」じゃなかった。
ただ「嬉しかった」でもなかった。

彼女は、
“女でいられる気がした”って――

そんな言葉、反則だ。

**

彼女がどんな想いでその言葉を送ったのか、
痛いほどに伝わってきた。

自分を守って生きてきた人だ。
ずっと社長として、冷静で、綺麗で、凛として。
“女性”であることを武器にしないように、
むしろそれを隠すように、立ってきた人だ。

でもその人が、
俺のたった一言で、
“女”でいられたと言ってくれた。

(俺なんかの言葉で、そんなふうに思ってくれたの?)

嬉しさと、恐ろしさと、
誇らしさと、そして――
今すぐ彼女に会いたくなるような、
どうしようもない衝動が胸を突いた。

**

パソコンの前に戻っても、もう何も書けなかった。

あのメッセージが、
脳のすべてを占拠してしまっていたから。

(理奈さん……)

俺は、もう恋をしているんじゃない。

ただ“好き”なんじゃない。

俺の人生の中で、
この人を守るために生きたいと、
本気で思ってしまっている。

**

少し経ってから、
ゆっくりスマホを手に取った。

何度も書いては消して、
やっと一通の返信を綴る。

『理奈さん。
あなたが“女でいられる気がした”なんて言ってくれて、
僕の方が……震えるくらい嬉しかったです。』

『僕は、あなたの“全部”が好きです。
強くて、綺麗で、優しくて、怖がりで、
たまにズルくて、でも……すごく、誠実で。』

『もしこれから、
あなたがまた“女”でいることに迷ったら、
そのときは僕が、何度でも思い出させます。
あなたは、世界でいちばん綺麗です。』

送信ボタンを押したあと、
心臓の音が耳の奥に響いていた。

もしかしたら、
この言葉はまだ、彼女の心を揺らすには早すぎるかもしれない。
でも――

俺はもう、彼女に遠慮しないと決めた。

彼女が“待って”と言ったから待った。
でも今度は、俺の想いを、
ちゃんと伝えていく番だ。

彼女にとって、
“自分が愛されていい存在なんだ”と、
一番近くで信じてあげられるのは、俺しかいないから。

**

深夜。

部屋の電気を消して、
ベッドに横たわっても、瞼の裏にいるのは理奈さんだった。

(綺麗だったな……)

あの夜の、居酒屋の照明の下。
ふいに驚いたような、でもどこか少女みたいな笑顔を浮かべた彼女。

あの顔を見たとき、
“もう絶対に、手放したくない”と思ってしまった。

**

俺は彼女に恋をした。

でも今は、恋以上の何かに、
身を委ねはじめている。

それがなにかはまだわからない。

けれどきっと、
彼女の隣に“ずっと”いたいと願う気持ちが、
すでに未来を決めてしまっている。

そう信じた夜だった。
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