25歳差の恋愛指南、それは人生最大の不覚でした

naomikoryo

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第四十五話:「“私の全部が好き”――そんなふうに言われる日が来るなんて、思ってもみなかった」

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夜の部屋は静かで、
エアコンの微かな風の音が心地よく流れていた。

リビングの照明を落として、
ソファに腰掛けたまま、スマートフォンの画面を見つめる。

届いたばかりの、純くんからのメッセージ。

『あなたが“女でいられる気がした”なんて言ってくれて、
僕の方が……震えるくらい嬉しかったです。』

『僕は、あなたの“全部”が好きです。
強くて、綺麗で、優しくて、怖がりで、
たまにズルくて、でも……すごく、誠実で。』

『もしこれから、
あなたがまた“女”でいることに迷ったら、
そのときは僕が、何度でも思い出させます。
あなたは、世界でいちばん綺麗です。』

読み終えた瞬間、
胸が、何かにギュッとつかまれたように熱くなった。

**

“全部が好きです”

その言葉の重さに、
ただただ、震えるしかなかった。

今まで、
“美人社長”と呼ばれることはあっても、
“全部が好き”なんて、
誰かに言われたことなんてなかった。

**

私が夫と結婚したのは26歳のとき。
お見合い結婚だった。

彼は穏やかで、やさしくて、
いつも私を尊重してくれる人だった。

でも、
「全部が好き」とは、一度も言われた記憶がない。

私も、
彼にそう言わせるほどの何かを持っていたとは思わない。

彼は……30歳で、突然、交通事故でいなくなった。

何も言葉を残さずに、
手を振る暇さえなく、
私を残して、いなくなった。

**

あのときから私は、
何かを“強く想う”ことが怖くなっていた。

大切に思えば思うほど、
失ったときに自分が壊れてしまうから。

愛することは、
弱くなること。
無防備になること。
傷つく準備をすること。

そう思っていた。

でも――

**

『あなたの全部が好きです』

その言葉は、
そんな私のすべてを、
まるごと“受け入れる”と言ってくれた。

自分のどこがいいのか、とか、
どこが綺麗だと思ったのか、とか。

そういう理屈をすべて超えて、
ただ「全部」と言ってくれた。

**

画面の光を見つめながら、
涙が、こぼれた。

静かに、音もなく。

泣くつもりなんてなかった。
でも、どうしても堪えきれなかった。

(私、ほんとうに……この子に、恋してしまったんだ)

自分の年齢とか、立場とか、過去とか。
そんなものを全部抜きにして、
ただ、彼の真っ直ぐな想いに、
私は心を奪われてしまっていた。

**

“また女でいることに迷ったら、
何度でも思い出させます”

こんなに優しい言葉を、
私は誰かにかけたことがあっただろうか。

こんなにも真摯に、
こんなにも丁寧に、
“自分の心”を差し出してくれる人に出会ったのは、
これが初めてだった。

**

私は、
この恋から逃げるべきじゃない。

彼の年齢も、
立場も、
社会の目も、
ぜんぶ私を縛ってきた。

でも、
彼の言葉はそんなものをすべて超えて、
私の“魂”に触れてしまった。

(私は……この人の“好き”に、応えたい)

**

スマートフォンのメッセージ入力欄を開いた。

まだ涙でぼやける視界の中で、
震える指で、ひと文字ずつ打ち込む。

『そんなふうに言われる日が来るなんて、
思ってもみませんでした。』

『“全部が好き”なんて言葉を、
こんなにも静かに胸の奥に届かせてくれる人に、
初めて出会いました。』

『私はもう……
あなたの言葉を信じたいと思っています。』

『あなたの隣にいる未来を、
考えてもいいですか?』

**

送信ボタンを押すとき、
胸がとても静かだった。

こんなふうに誰かに“想いを返す”ことが、
怖いはずなのに、怖くなかった。

それはきっと、
彼が“信じてくれていた”から。

私の強さも、弱さも、
すべて抱きしめるように、
彼は待っていてくれた。

(ありがとう、純くん)

心の中で、そっと呟く。

そして私は、
今度こそ本当に、
この恋に――

踏み出すことを、決めた。
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